あらすじ
事件はアリゾナ州の小さな町、人口48人のピードモントで起きた。町の住人が一夜で全滅したのだ。軍の人工衛星が町の郊外に墜落した直後のことだった。事態を重視した司令官は直ちにワイルドファイア警報の発令を要請する。宇宙からの病原体の侵入――人類絶滅の危機に、招集された四人の科学者たちの苦闘が始まる。戦慄の五日間を描き、著者を一躍ベストセラー作家の座に押し上げた記念碑的名作
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
物質とエネルギー
・地球上の生物は、蛋白質酵素の助力のもとに、小さいスペースで生化学反応を行う方法を身に付けて進化してきた。
生化学者たちも、ようやくそれらの反応を再現できるまでになっているが、
それは他の全てから一つの反応を切り離したときだけである。
生きた細胞の場合は違う。そこでは小さい場の中で、さまざまな反応が同時に進行し、
エネルギーと生長と運動を供給している。
それはばらばらではなく、人間には到底それを再現するすべがない。
前菜からデザートまで揃ったディナーコースを準備するのに、それらの材料を全部一皿に混ぜ合わせ、
火にかけてから、あとでアップルパイをチーズソースの中から取り出そうとしても無理なのと同じことである。
細胞は酵素を使って、何百種類もの反応を同時にやってのける。
種々の酵素は調理場でただ一つの仕事をしているコックのようなものだ。
パン焼き係がステーキを作ることはできないし、ステーキ係がその道具を使って前菜を拵えることはできない。
だが、酵素にはそれ以上の役目がある。
酵素は他の方法では起こり得ない化学反応を可能にする。
生化学者も、非常な高温や高圧、あるいは強い酸を使えば、その反応を再現することはできる。
しかし人体も、個々の細胞も、そういう極端な環境には耐えられない。
酵素は、生命の媒介者として、体温と大気圧のもとで、化学反応の進行を助けるのだ。
・正常な環境には、抑制と均衡が存在する。それが細菌の猛烈な生長を鈍らせる。
抑制の無くなった生長は、数学的に見て恐るべきものになる。
大腸菌の一つの細胞は、理想的な条件下に置くと、20分に1回の割合で分裂し、幾何級数的に増殖していく。
それこそ、1日で地球と同じ大きさの超巨大集落を生み出してしまう。
それが現実に起こらないのは、環境には抑制と均衡が存在するからだ。
たとえ”理想的な環境”のもとでも、生長を無限に続けることはできない。
食物が無くなる。酸素が無くなる。
コロニーの中の局所的条件が変わり、生物の発育を抑制する。
だが、もしここに、物質を直接、エネルギーに転化できる生物があり、
それに対して核爆発のような巨大で潤沢なエネルギー源を与えられたとしたら…
・実際には、効率100%の生命体は存在しえない。そもそも100%だったら、熱力学の法則に反する。