あらすじ
大岡信の『私の万葉集』第三巻(全五巻)。 ひさかたの 天の香具山 この夕 霞たなびく 春立つらしも 人麻呂のゆったりとした万葉人の息吹を伝えたい。著者の思いは、愛情深く、平易な文体で現代につなげていく。「万葉集」巻八から十二までを、たとえば恋の歌、それは、日本人の永遠に通ずる心の古典として……。
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Posted by ブクログ
第三巻では、巻八から巻十二までがあつかわれています。
多くの長歌を収録している巻九では、「長歌形式の革新家」と著者が呼んでいる高橋虫麻呂の歌が紹介され、著者独自の観点からその魅力が語られています。「河内の大橋を独り行く娘子を見る歌」では、長歌という形式で日常生活のささやかなできごとにまつわる心の動きを詠んだことに注目がなされており、その歌の魅力をあるいは「フランス十九世紀末、二十世紀初頭のボナールやヴュイヤールら、身辺の光景をみごとに描くアンティミストの絵の世界をも、ふと思わせるようです」と解説しています。
他の芸術ジャンルにも通底するような魅力を発見する著者の批評は、数多く刊行されている『万葉集』の解説書のなかにあって独自のものとなっており、興味深く感じました。