【感想・ネタバレ】精神分析殺人事件のレビュー

あらすじ

「また宿題をやってこなかったのね!」若い女教師中原みどりは、クラスの中でいつも一人だけ反抗的なその少年の頬を激しく打った。だが少年はたじろぐどころか、逆に燃えるようなまなざしで彼女を見返した。数日後、郊外の桑畑でみどりの死体が発見された。捜査線上に例の少年が浮かび、彼の部屋から血のついた小刀が発見された。さらに、ミドリ色の昆虫に限って切りきざむ少年の奇癖が明るみに出たのである……。犯罪者の深層心理を鋭く抉る異色の短編集。表題作ほか四編を収録。

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Posted by ブクログ

古い本の整理をしていたら本書が出てきて、内容が少し気になったので読み始めると最後まで一気に読んでしまった。読みやすい文体とその面白さに引きつけられたのだ。昭和46年から47年にかけて小説誌に掲載された五編を収録した短篇集だが、何れも精神の病理研究をテーマにしている。「精神分析」「催眠術」「精神分裂」「麻薬分析」「児童心理」の各殺人事件を、精神医学・心理学・犯罪学の観点から事件解決に導く筋書きである。ヴァン・ダインのファイロ・ヴァンスものや、江戸川乱歩の『心理試験』など、犯罪者の心理に事件の鍵を置く小説は珍しくないが、本書の五編は練られたプロットと作者の心理研究が活かされており、作風の暗さと合わさって、面白かった。

表題の『精神分析殺人事件』には虫をとらえて残酷な遊びに熱中する孤独な少年を描いているが、これは作者の自画像らしい。長編『真昼の誘拐』にも同様の児童が登場する。『催眠術殺人事件』は催眠術を利用して殺人を代行させるという、仰天のトリックが用いられるのだが、現実に可能なのか気になる。『精神分析殺人事件』は精神異常を装って罪をまぬがれる完全犯罪を企図し、それに成功した男が入院した病院で地獄をみるという皮肉な作品である。精神医療の現場への告発ともいえよう。

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2023年09月30日

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