あらすじ
日本の近代化を推進する原動力として、明治新政府が総力を挙げて建設した富岡製糸場。開業翌年の明治6年、この大規模器械式製糸場内で、若き工女が惨殺死体となって発見された。密室殺人の裏に隠された意外な真相に、被害者の傍輩である工女が迫る。
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Posted by ブクログ
明治維新ミステリーシリーズになるのかな?世界遺産富岡製紙場を舞台にしたミステリー。
開業の翌年、明治6年に製紙場で起きた事件。事件を解明するのは工場長の娘であり工女第1号の尾高勇。父と友のために立ち上がり、明晰な頭脳で推理する・・・というストーリーだけど、肝腎の密室の謎とか事件の真相は添え物の感があるり、それを期待して読んだら肩透かしを食らう。
だけど、折しも先週富岡製紙場見学に行ったばかりなので、場面が目の裏にしっかり浮かんで、臨場感半端ない。維新当時の空気感とか、工女たちの生活とかを垣間見れてそちらの点で面白かった。
登場人物としては、勇の父親である工場長が素晴らしい人物であるのと、司法省警保寮(今の警察庁?)の桐野警部がかっこいいこと。
いつの時代も、一本芯が通っていて、ことに及んで逃げない男のかっこいいこと!
富岡見学の復習としては、とてもいい作品でした。
Posted by ブクログ
世界遺産登録で注目を集める富岡製糸場。このお話の舞台は、製糸場開業の翌年の明治5年、たくさんの工女たちが働いていた頃です。
近代化を担い、国家財政を支える期待を背負って設立された製糸場で、女工の1人が遺体で発見されます。
そこは完全な密室。あるいは自殺かとも疑われますが、凶器は見つかりません。
死亡した女工の親友であった別の女工も行方不明となり、工場を不穏な空気が覆います。
皇太后・皇后の行啓を間近に控える中、事件を解決しようと中央からも役人が派遣されてきます。
工場長の娘であり、工女でもある少女、勇(ゆう)は、友人が犠牲となった惨事の謎を暴こうと知恵を絞ります。
日本の発展のために尽力したいと願う工場長。
維新の際の遺恨を引き摺る官吏。
苦しい家計を助けるために工女となることを志願した百姓や下級武士の娘たち。
技術を伝達するために日本へやってきたフランス人たち。
フランス人が工女の生き血を飲むと怯えていた周囲の住民。
キリスト教や一向宗などの宗教と政府の関係。
さまざまな人や立場の思惑が絡みます。
事件自体はさほど凝った展開もなく、密室の秘密も意表を突くものではありません。
事件が起きた背景はなるほどそんなこともあったかもしれないと思わせ、時代考証の確かさを感じさせます。
ミステリとして楽しむ、というよりも、歴史的背景や当時の雰囲気を読みやすい形で提示したところに価値がある1冊だと思います。
主人公の勇は清潔感があってきりりと好印象ですが、14歳という年齢にしては大人びていすぎるようで、少し違和感がありますね。当時の少女は今よりも早く成長せざるをえなかったのではありましょうが。