あらすじ
“堪忍してくれってことでやったんです”――
戦場の法務官、43年後の独白
罪を犯した兵士を裁くために設けられた旧日本軍の「軍法会議」。太平洋戦争末期、ここで大量の兵士が「不当」に処刑された。戦地で、何が起こっていたのか。これまで秘密のヴェールに包まれていたその実態が、元「法務官」が生前に残した証言テープ、新資料等から明らかになった。未公開資料と遺族・軍関係者への徹底取材から、軍法会議の詳細と法務官・遺族たちの戦後を描き出した力作。
■目次
第1章 資料発見の衝撃
第2章 二人の法務官
第3章 法務官・馬塲東作が見た戦場
第4章 終わらない遺族の苦しみ
第5章 法務官たちの戦後
解説 軍法会議にみる戦争と法
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Posted by ブクログ
アジア・太平洋戦争末期の軍法会議の実態に迫ったドキュメンタリー。フィリピン戦線で軍法会議に関与した海軍法務官が遺した日記・文書・証言録音の発掘を端緒として、冤罪や違法な裁判によって死刑に処せられた日本軍兵士の名誉回復を図る。本書でも言及されているように軍法務・軍法会議の歴史研究は史料の不在のために極めて少なく、それだけに本書の意義は大きいと思われる。これが契機かどうかわからないが、最近の報道によれば、法務省・検察庁が所蔵する軍法会議資料が国立公文書館に移管されて公開される見通しだというから、今後この分野の研究の進展が望まれよう。
Posted by ブクログ
NHKだけあり良く調べられた一級のノンフィクション。
戦中、不当な軍法会議による軍人の処刑がまかり通ってたという事実。しかもひどい場合には、食料不足からくる食い扶持を減らすことを目的として。
これも戦争の負の一面であることは間違いなく、歴史の1ページとして知っておくことは重要。また大きな組織の流れに抗えないという日本人の特質については、現代にも通じる教訓ということも納得的。
テーマがニッチなため、歴史の対局を知る目的には適さない。
Posted by ブクログ
知っているようで知らない「軍法会議」。特に、旧日本軍の軍法会議について知られていないのは、終戦時に書類が廃棄されたことと、軍の法務関係者が戦後の法曹界で一定の役割を果たしつつ、軍法会議については沈黙を守ったことが一因であるらしい。
本書は、NHKの取材班がドキュメンタリーとして番組を制作する中で得られた情報、資料等を書籍にまとめたもの。世の中にほとんど知られていなかった資料が明るみに出るなど、一定の役割が果たされたと思う。
太平洋戦争までの戦争体験を持つ人が80歳、90歳という老境に入り、生の証言を得る時間的限界を迎えている。そういう意味では、数は少ないが、関係者の貴重なインタビューが取れたなど、後世に残る仕事といえるだろう。
Posted by ブクログ
「戦争が悪いと言ってしまえばそれまでであるが、急迫した戦場心理は、自己防衛なり部隊防衛に偏ってしまうことが避けられない。忸怩たる思いはするが、法務の責任者としてやむをえなかった」
Posted by ブクログ
NHK取材班・北博昭『戦場の軍法会議 日本兵はなぜ処刑されたのか』NHK出版。海軍法務官から資料や日記を託された北博昭氏の協力で本書は、これまで殆ど明らかにされなかった戦場の軍法会議の実像を明らかにする。戦争末期、士気の低下と食糧不足は相次ぐ逃亡を招くが、いずれも極刑をもって見せしめとされた。
例えば…。飢餓での戦線離脱は最大7年以下の懲役で死刑には当たらない。しかし手続きを変え、死刑が適用される(「奔敵未遂」)。また特攻の強要もたび重ねられたという。前線で兵隊の数が減ることは本来不利な筈なのに、軍法会議関係者はそれを「口減らし」ととらえた。
本書は法の正義が形骸化していた事実を明らかにする。無謀な作戦の責任を取らない軍と高級将校。その責任を末端の兵士に転化する法務官…。軍と司法の歪んだ癒着関係は、戦後日本の体質にも継承されている。戦後裁判官に転じた人間は多いという。
初めて公開された各種文書、そして関係者への丹念な聞き取り調査から、戦時下日本における陸海軍の軍法会議の欺瞞のメカニズムを明らかにする労作。戦争の根源的な矛盾を説得力を持って示す一冊といえよう。
※番組を見ていないのが残念。