あらすじ
中東に訪れた「民主化」の波。独裁政権崩壊という同じような状況に見えて、その内実は大きく異なる。なぜNATO軍はリビアにのみ軍事介入したのか?天然資源取引における基軸通貨戦争とは。欧米の、資本の原理が潜む。
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とくにチュニジアでは、高い教育を受けても、コネがなければ路上で野菜を売ることでしかお金を得る手だてがありません。しかも、そのささやかな仕事も国から取り上げられてしまう。その一方で、私腹をこやしている政治家や官僚、その家族がいるのです。 不満がたまっていたところに、爆発するきっかけがあって、大きな運動に盛り上がっていきまし
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アラブの春
チュニジアに端を発するアラブの春のきっかけから、周辺国での波及の様子をまとめた本。鍵はメディアだ。
フェイスブックがあったからこそ、1人の青年のアクションが同志へ波及したし、インターネットの力が認められることで、政府が政治の道具としても使うようになってきた。
チュニジア、エジプトの革命は市民によるものだが、シリアやリビアは周辺国の代理戦争の場となってしまった。
アラブの問題は単なる宗派の対立ではない。貧困、差別、弾圧といった生きることすら危うい人たちが必要に迫られて起こしたデモがアラブの春である。そしてそれを、伝えるメディアが良くも悪くも使われた。
私たちは、メディアの報道を注意深く取り入れなければならない。
◯始まり
・チュニジアの青年の焼身自殺。生活のため露店で無許可で野菜を売っていたら、検査官に捕まり全財産に近い商品、友人から借りた荷車を没収され、明日食べるお金もない。そして女性から辱めも受けた。
・革命は終盤までメディアでは取り上げられず、facebookで拡散していった。明日は我が身というリアリティと怒り。イスラムでは自殺はご法度。
・政府への抗議のため焼身自殺をする人がチュニジア全土、北アフリカの他国へと飛び火。
・不満の共有を広げた背景もソーシャルメディア、アルジャジーラのような衛星放送。
・最初の焼身自殺から1ヶ月足らずでベンアリー大統領がサウジに亡命、その1ヶ月後に暫定政権樹立。
・革命の中心は左派でリベラルな考え方を持つ若者だったが、革命後の選挙から主役が入れ替わり、ムスリム同胞団がイスラム社会の実現を掲げて勝利、革命を起こした前者にとって望み通りにはならなかった。
・皆が集まるモスクでそこの顔の見えるリーダーが演説することで支持を集めた。
・左派の若者たちには革命後の人々をまとめるリーダーがいなかった。
・イスラム教そのものではなく、イスラム教の考え方をどう社会に反映させるかぎ問題。コーランそのままではガチガチの保守。
◯エジプト
・国の根幹を握っているのは軍。1952年に軍がクーデターを起こしてから、王政を廃して軍事政権が続く。軍が金融機関を持ち、経済活動に深く関わる。アメリカからの経済援助も大半が軍へを
・ムバラク政権が倒れたのも、大規模なストライキで軍が政権を見限ったから。
・親米のムバラク政権の維持をアメリカは望んでいたが、最後は見限った。
・ムバラク打倒、腐敗撲滅に皆が賛成していたものの、革命後のビジョンが共有されていなかった。
・ムスリム同胞団: 組織ではなくムーブメント、国に合わせて動きやすい。スンニ派指導者が作ったドクトリンに基づく行動。ムハンマドの教えや生活習慣に従った生活。時々の流れで参加すればよい。
・アラブ人のいるパレスチナを弾圧するイスラエルはイスラムの敵。しかしムスリム同胞団はイスラエルを表面的に批判はせども敵対しない。孤立することを恐れている。政権を取りたいから。
・イスラム社会は、歴史的に封建主義的な時代の規範を帯びて成長してきた。富と権力が一部の人に集中しやすく、腐敗の温床となっている。
◯リビア
・ガダフィは、イスラム社会主義を掲げ、イスラムナショナリズムを実現しようとした。
・元々部族で東西に分かれていた。51年に東出身のイドリースが統一。その18年後にクーデターを起こし、西出身のガダフィが政権を握る。
・リビアにおける革命は、東と西の内戦である。アラブの春の全てが革命では無い。
・アラブ ナショナリズムは、欧米の植民地主義で分裂させられた国単位ではなく、アラブ人という共通の意識を持とうという考え方。排他の論理を持たせないため、宗教を問わない
・ラマダンは自分の中にある欲しいという感情をどれだけコントロールできるか、そのセルフコントロールの実感をする。貧しさを実感する意味もある
・メッカ巡礼では白いシーツを巻くだけ、これは神の前では皆平等という精神による。
・豊富な資源、中国との接近、アフリカへの影響力が問題となり、欧米からのバッシングが強くなった。
・リビアには中央銀行が無かった。豊富な資源もあり、外国に借金をしていなかったから、IMFの関与もなかった。独立国。
・内戦中にNATOの空爆があったが、破壊された施設は国民にとって必要な施設。内戦後に外国資本が入ることを狙って。
・独裁者ガダフィを印象付ける報道しかなしない。民主的な機関が1つもない。
・国会は無いが、直接民主主義のマジレスという会議を主体とした仕組みを持っていた。ただし、ガダフィがYESと言わないと決まらない。
・ガダフィは政府批判を許さず、秘密警察が目を光らせた。
・アルジャジーラはアラブ世界のアジェンダセッティングを果たすほどのブランドがあるが、資金提供しているのはカタール。中東の小国がどう生きるかを模索した末、情報発信に力を入れた。
◯バーレーン
・デモが起きたら、サウジが武力で鎮圧に来た。イランとの間の緩衝国がシーア派になられると危険。
・政治体制は元々王制(カタール出自のスンニ派)だが、今は立憲君主制、実質的には国王の承認が必要で国王一族が支配。しかし国民の7割はシーア派。
・豊かなスンニ派と、ボロボロの家に10人で済むほど貧しいシーア派、宗派の違いによる差別。
・政府はイランが黒幕だと流布し、反政府勢力として抑えた。
・シーア派とスンニ派の対立は、ムハンマドの後継者選びによる。
従兄弟であり娘婿のアリー(第1の信者)を推すシーア派と、話合いで決めるスタンスのスンニ派。
◯イエメン
・貿易の要路であるアデン湾を持つ。北部にシーア派の流れをくむフーシー派がいて、政府とサウジに挑発。2010に停戦合意。イスラム過激派の拠点もある。
・湾岸国で唯一共和制。アラブの春により34年安定を保ったサーハレ大統領が辞任。
・平均年齢18、若く貧しい国。資源もない。
・北の名門サーハレ一族の支配と汚職に貧しい南部が反発したデモ。部族間の対立。
◯報道されなかった国
#オマーン
・石油が取れる中ではもっとも貧しい、宗教対立がない(スンニ派系)。王家が比較的早い段階で改革を約束したから。
・自然が多く、オマーン湾があり、近年観光が発展している
#サウジ
・アラブの中で人口が多い(3千万)、豊かで消費も大きい。アラブ全域に広がり、8割をカバーする広告代理店を持つ。欧米は批判的なことを書かない。
・オマーンを資金援助したのがサウジ。世界の原油の4割がオマーン領海内のホルムズ海峡を通るから。
・スンニ派9割、弾圧されるシーア派のデモは報道されない。世界最大の原油埋蔵量のため欧米メディアも国民を煽らない。
・タブーは奴隷制度、土地とそこにいる人がセット、多くは遊牧民で家畜の世話など、市民権もなし。
#イラク
・元々宗派対立はなく、政府派反政府という対立軸どったが、戦争後宗派ごとに権力が配分され、意識するようになった。
・シーア派が強くなり、反米、イランと仲良くなるという方向になり、米の意図とは逆。ただし石油の権益は確保している。
・イラク、トルコ、シリアにまたがって住むクルド人、独立運動が盛んだが、それぞれ重要な土地なので離せない(それぞれ石油、水、農業)。敵の敵は味方のため、隣国が敵国のクルド人を支援して政治利用されている。
#ヨルダン
・3/4がパレスチナ人、イスラエルから逃げてきたパレスチナ人が多いから。
・王政への反対が表明されたデモが起きたが、報道はされず。タイのように国民から国王が一定の尊敬を受けていて、かつデモを受けて少し改善もした。
#モロッコ
・西サハラの独立問題
#レバノン
・18の宗派がいて、結婚や政党がこれに縛られる。
・サウジとイラクの代理戦争の舞台となった。
・気候も良く自由な国なので、湾岸国が土地を買い漁り物価高騰、
◯シリア
・7割がスンニ派の中で70年にクーデターを起こして大統領になった父アサド政権はアラウィ派というマイノリティであり政治基盤は強固ではなかった。
・アサドのバアス党は、団結、自由、社会主義を掲げるが、元々母体が同じイラクのバアス党はクーデター成功時に党内を粛清したため、逃れてシリアにやってきた党員もおり、二国は対立するようになった。
・デモなどが、外国メディアによって歪んで伝えられ、アサド政権を不当に悪者にしている。
#カタール
・アルジャジーラは自由な報道というウリだが、実際にはカタールの報道はしないし、政府の政策の一部として動いている。
#トルコ
・オスマン帝国時代の弾圧から、抑圧者と見られていたが、エルドアン首相以降、アラブと欧米、アラブ諸国間の仲介役として存在感を増しつつある。
・外交戦略の目標は中東でリーダーシップをとること。
#UAE
・お金持ちで不満が少ない。ローカル、外国人専門家、外国人労働者と3つの層があり、3つ目の労働条件が悪く差別もひどい。
Posted by ブクログ
アラブの世界はとてつもなく広く、とてもひとくくりには議論できないことが良く分かった。
アラブから遠く離れた日本では、アルジャジーラの様な大手メディアを通じての情報が主になる。しかし、著者はアルジャジーラが決して正しい報道をしていないと指摘する。
宗派、族、敵対関係etc. アラブ世界の複雑さをしる入門書として本書を捉えるならば、良書である。
今なお続いているアラブ世界の混迷。様々な立場から数多くの情報が入って来ることに期待したい。情報の母集団が多くなれば、きっと真の姿が浮き上がってくるはずだ。
また、数奇な人生を歩んでいる著者の今後の活動にも注目していきたい。
Posted by ブクログ
その混乱は独裁者のためではなく、まして宗教や、その宗派のためでもない。そこには自分たちとそう変わりない人たちの、いたってありふれた生活があり、ごく当たり前の怒りと悲しみがある。実は、その混乱は、どちらかといえば、外側の、つまり自分たちの無知、偏見によるところが大きいのではないか。メディアの発達により、自分たちは遠く離れた多くのことを見ることが出来るようになったが、一方で、見ることによって、知らず知らず加担してしまっている。戦渦のいよいよ拡がる中、自分たちにまずできること、それがこの一冊を手に取ることである。
Posted by ブクログ
著者は、重信メイ。赤軍リーダーの重信房子がパレスチナに亡命し、現地パレスチナ人との間に生まれた娘らしい。
頭のいい人の書いた文章は、分かりやすい。中東情勢の報道に、自分なりの考えをもって臨めるようになるのが楽しい。カダフィやアサドの実情が触れられる。カタール政府から援助を受けるアルジャジーラの報道の真偽、よく考えた方がいいようだ。アサド政権やカダフィ政権は悪、なぜ早く降伏しないのだろう、と思わされていた。中国やロシアが国連で異を唱えるのも、欧米主体のメディア戦争に、自国の立場、国益がそぐわないためだった。
大切なのは、アラブの人たちだって、人間らしく住みやすい社会で生きたい、という思いに変わりは無いこと。
彼女のような良質なジャーナリストは、決して新聞やテレビではメジャーにならないのだろう。
彼女が警鐘する、メディアリテラシーを個人個人が持たなくてはいけない時代になってきているということがよく理解できた。
しかし限られた時間と労力の中で、何が正しく、何が誤りであると見極めることができるのだろうか。
そんな問いを抱きつつ、丸善を散策していると、“ブラクマティズムの作法”という本に出会った。
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サッカー仲間のアシシ氏が推薦していたので読んでみた。
昨年秋にはじめて中東に行き、中東(アラブ)という文化に衝撃を受けた後に、この本を読んで更に中東(アラブ)の文化が知りたくなったし、また中東に行きたくなった。
Posted by ブクログ
チュニジア、エジプト、リビアで起こった民主化革命について、それぞれの国がどのように独裁政権が崩壊していったか、黒幕がどこで、どうやって情報操作が行われていたのか、現在進行形のシリア情勢が、なぜ「革命」ではなく「内戦」と評されるのか、などを正確に知りたい人は必読。
この本には、マスメディアでは絶対に語られない真実が記されています。
サウジやカタールという「金満諸国」がこの「アラブの春」にどのように関わっているのか、等についても説明されており、アラブ諸国の今を網羅的に知ることができます。
著者が中東生まれで、ここ数カ月取材で中東に滞在してたジャーナリストなので、かなり説得力ある本です。中東に行ったことある人、プロパガンダ系の情報操作の裏舞台に興味ある人にお勧めです。
Posted by ブクログ
中東に長らく在住していた方の視点という意味で、従来にない価値観を期待して読んでみました。日本に蔓延る"イスラム原理主義者イコールテロリスト""イスラムイコール男尊女卑"などのステレオタイプの打破、アラブ諸国の詳細解説など、今までサッカーワールドカップアジア予選くらいでしか知り得なかった情報の肉付けができました。しかし、ますますサウジアラビアという国に興味をそそられてしまいました。
Posted by ブクログ
「アラブの春」が何をもたらしたか・・ 西欧の論理によるアラブ社会への干渉の結果が、イラクであり、シリアであり、リビアでもある。歴史的な評価はこれからだが、現状はかなり悲惨な状況ではないのだろうか。
Posted by ブクログ
アラブの紛争はイスラム教の宗派の対立として図式化されて報道されている。そうなってくると日々のニュースでもついていけない。
本書を読むとその発端は生活できるか否かといった問題であることがわかる。宗派どうこうの前に貧困や差別や人権に端を発する。
そういった争いの火に油を注いでいる存在がいること。アメリカは罪な国だと思った。アルジャジーラの報道も鵜呑みにしてはいけない。
Posted by ブクログ
【砂漠をさすらう国籍のない人々】p155
「ビドゥーン」とは、アラビア語では「持っていない」「なし」という意味。
湾岸諸国の国に住んでいた人はもとは遊牧民だった。ヨーロッパによって国境に線が引かれるまで砂漠を自由に行き来していた。
【アルジャジーラのタブー】p212
カタール政府批判
【メディア戦争だったアラブの春】p222
チュニジアやエジプトでは主役が市民だったが、リビアやシリアではメディアが偏った報道をすることで、内戦をあおりたてた。
【SNSの裏の側面】p227
ソーシャルメディアは国家権力が個人情報を収集するツールになる危険性をはらんでいる。例えば、フェイスブックはプロフィールだけではなく、人間関係や現在地などの情報をアメリカのCIAに提供しているのではないかという疑惑が持たれている。
Posted by ブクログ
自分の狭い視野を改めて認識させられました。
アラブの情勢やメディアについて新たな視点から覗くことができるという点では良書かと。
アルジャジーラの成り立ちや、メディアによる各国の内戦への影響など、
結構知らなかったことも多く、もちろん1ジャーナリストの私見ではあると思いますのでそれを鵜呑みにするわけではないけど、改めて日本のメディアからの情報にとらわれず、多角的な視点で事実を見ていこうと思えたことはよかった。
私のように無知な人間にとってはよい入門書となりました。
Posted by ブクログ
マニアックなイスラームの歴史や伝統でもなく、一つの町の限定された個人的な悲劇の現在でもなく、中東の今を理解できる。アラブに住む人にとっては常識なのではないだろうか。そういう基本をまず、知りたい。包括的で勉強になった。
・儲けたお金は毎年ある一定の割合(財産の2.5%)で、社会に還元しなくてはならない。それが「ザカート(喜捨)」。「ラマダン(断食)」にもセルフコントロールを学び、貧しい人の気持ちを理解できるようにという意味がある。イスラム教では一生に一度はメッカに巡礼することが好まれているが、巡礼では真っ白いシーツのみを身体に巻く。神の前では皆同じ、という考えを元にしており、社会主義的な平等精神に通じる。共産主義と宗教であるイスラムは敵対的と思うと、意外と相性が良い。
・アルジャジーラは中東のプロフェッショナルなジャーナリスト集団というイメージがあるが、そもそもはカタール国王が設立したもの。人口60万人程度のアラブでも存在感の薄い国で、隣のサウジアラビアに併呑されるのではないかとの危機感から、国際的な存在感を増すために設立されたのが始まり。
カタールも(カダフィの)リビアも天然ガス輸出国。最大輸出国はイランだが、その後を追うロシアとカタールは産出量や価格をコントロールしようと協力しており、エキセントリックなリビアを抑える利害関係があった。
・リビアのカダフィは西部の大部族のリーダーの血筋。経済の中心は東にあり、デモや暴動がおこったのも東部のキレナイカ。
・シーア派の語源は「アリー派(シーア・アリー)」。ムハンマドの娘婿アリーの血筋だけに指導者(イマーム)の地位を認めるという立場。
スンニ派の語源はムハンマドの時代の慣行(スンナ)を守る人、というもので共同体での話し合いで指導者を決めようとした人たち。
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著者の重信メイ氏は、日本赤軍の重信房子とパレスチナ人の父の間に生まれたレバノン出身のジャーナリストです。日本赤軍の強烈なイメージがありますが、本書は左に大きく傾いたようなスタンスはまったくとっておらず、中東の民主化を「アラブの春」と手放しで賞賛するムードの陰に潜む政治的プロパガンダやメディアの姿などが批判的に描かれており、とても興味深い内容です。エジプト・リビア・チュニジア・イラン・イラクなどアラブ各国の動向も網羅されているので、知識をつける意味でも非常に参考になりました。
われわれは一般的にシリアのカダフィ大佐について、横暴な独裁者との報道に接し、その通り私自身も受け取っていましたが、カダフィは過去にパレスチナ解放運動に援助をしたり、インドネシア・フィリピンの民衆運動をサポートしたり、反核・反原発を推進していた人物でもあったというのは驚きでした。もっとも過去10年のカダフィは横暴な独裁者に落ちてしまいましたが、過去には27歳で1969年にクーデターに成功した革命の戦士ともてはやされた時代もあり、今でもカダフィに対する好意的な見方をもっている地域もあります。カダフィ政権下のリビアは、豊富な天然資源を背景に大学教育まで無料で行われ、医療・電気・水道料金もすべて無料というまれにみる福祉国家・社会主義国家でした。独裁者によって抑圧的な国家で苦しむ民衆が蜂起した民主化デモという側面よりも西部の有力な部族出身のカダフィに対する東部の部族が反旗をひるがえすという内戦といった側面が強かったと指摘しています。
カダフィは資本主義的経済成長に反対していたため、サウジアラビアやUAEなどの他の産油国に比べて物質的豊かさが遅れていたこと、国際社会から経済制裁を受けており、国際貿易から取り残されていたことや、カダフィを中心とした親族や官僚の腐敗といった問題などがありましたが、民主的な要素のまったくない独裁国家という一方的なレッテルはリビア政権打倒のためのプロパガンダとして、残忍で抑圧的な独裁者像が意図的に報道されていたのではないか、と疑問の声を投げかけています。
「アラブの春」の一翼をになったと賞賛されるアルジャジーラ放送局のもつタブーにも切り込んでおり、カタールが大きく設立と運営を支持しているため、当初は’’ opinion and the other opinion’’と政府・反政府軍の両方の主張を報道したり、両陣営を集めてディスカッションを報道するなどの中立的・両論併記的な姿勢が評価されましたが、支援団体であるカタール国内のデモの報道には消極的であったり、今も続くシリアの問題に関しては、アサド政権反対として、明らかな反政府サイドでの報道が目立つようになってきている、と指摘しています。アルジャジーラといった信用が高く、理性的なメディアと思っている報道機関であっても、クリティカルな姿勢で情報に接しなければいけない、ということを学びました。
この本を読んで面白く感じた部分は、官僚の汚職・腐敗、貧困、失業といったものが民衆運動のトリガーになること、です。もはや失うものがないというところまでいかなければ、民衆が動かないということです。差別や格差があっても、汚職の恩恵を間接的に受けていたり、経済的に安定した生活を過ごせている限りは自分の地位を危険にさらしてまで声をあげたり、体制の転換を求めたりすることはない。もはや失うものがないという追い込まれた状態になって初めて民衆運動が大きな力となるということでした。
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著者については他のレビューでも書かれているだろうからとくには書かない。「アラブの春」の「その後」についてのルポルタージュ。地域の状況,チリ,いろいろな名前について基礎知識がないので,一度読んだだけではわからないところもあるのだけど,一読してもっとも印象に残っているのは,各地の状況の伝えられ方,つまり,マスメディアのバイアス,ということだ。何の気なしにテレビニュースや新聞で「そうかそうか」と納得してしまうのではなく,メディア・リテラシーを鍛えなくては,とつくづく思った。
Posted by ブクログ
アラブの春。言葉だけ聞くと、そしてたまにメディアで読み聞きする浅い知識から考えると、「おお、良く分からんアラブにも民主化の波が来てるのか、ふんふん」と考えてしまう。
だがこの本は、そんな浅薄な知識を思いっきりぶち壊してくれる。
そうだ、そもそも我々は西側の、というよりアメリカの同盟国である日本の、メディアからしか情報を得て無く、そしてそのことが如何に無知と偏見を助長しているかが良く分かる。
今内戦状態に陥っているシリアのことにも触れてあるが、より良く知りたい人には元シリア大使であった国枝氏の「シリア」という本を読むことをお勧めします。
Posted by ブクログ
著者は日本赤軍の重信房子の娘だそうだ。
エジプト革命が話題になったが、「アラブの春」の中では、チュニジアやエジプトと、リビアでは「革命」の性質がまったく違うと。
リビアのカダフィには「アフリカ合衆国構想」があり、金本位の地域通貨(ディナール)をつくる動きがあった。それを阻止しようとした米国・欧州によるNATO軍はインフラを空爆し、政権崩壊後の外国資本参入の素地をつくったというのだ。(カダフィのリビアは、世界最大級の福祉国家だった)
ここでもアメリカのご都合主義が見え隠れしている。
Posted by ブクログ
ベイルート生まれのジャーナリスト重信メイによる中東革命の裏側。日本や欧米のマスコミは勿論、アルジャジーラですらかなり偏ったバイアスを掛けた報道をしているようです。「ジャスミン革命」に代表される、"FacebookやTwitterによって民衆が革命を起こした"という分かりやすいストーリーが様々な政治目的に利用されているのが現実。リビアやシリアのクーデターはジャスミン革命とは程遠く、内戦を煽る事でその地域での戦略的優位を確保したい欧米と露中の駆け引きにすぎないと。またバーレーン、カタール、イエメン、モロッコなどで起きた出来事はほぼ無視され続けている事も、私達がいかにアラブ世界から遠いのかを教えてくれます。報道の読み方というものはつくづく難しいですね。
Posted by ブクログ
アラブの春と聞いた時最初は一箇所の話かと思っていたが複合的で絡み合っているのだと理解できた。
アラブの春のポイントとしてメディア戦争がある。
これはアラブだけの話ではなく日本にも通じる部分があると筆者が指摘しており、自分も受け身ではなく記事の裏を読み解くように知識を蓄えたいと感じた。
Posted by ブクログ
チュニジアで起きた焼身自殺から始まり、アラブ諸国へと拡がっていったデモ活動、アラブの春について紹介している作品。中東問題に疎いため読み進め難かった。本書を読むとアルジャジーラを作ったカタールに感心すると同時に、真実の報道を流さないマスコミに対し憤りを感じた。日本でも同様の規制が行われていると感じられる。正直今回はあまり理解できなかったが、再読して中東問題について理解を深めたいと思う。
Posted by ブクログ
アラブの春って、言葉しか知らないので、本買って読んでみた。
報道はコントロールされてること、
中東では貧しく苦しい状況があること
アメリカの余計な介入
アルジャジーラの立ち位置
とか、書いてあった。
部分的に地理に弱いし、前提知識が乏しいので、よくわからない場所もあったが、ためになった