あらすじ
修善寺から下田行のバスに乗り、季節はずれで客もない温泉場をいくつも抜け、湯が島を越す……。若い頃、放埒がもとで妻子と別れた、芝居の裏方の録太郎は、若い役者啓三と一泊旅行。病弱の録太郎に若者のような明日はない。来し方行く末に想いを馳せながら、録太郎は最後の煙草に火をつけた……。表題作ほか池波文学の原点ともいうべき気迫に満ちた初期短編6編。
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Posted by ブクログ
▼ちょっと「終戦特集」的な小説を目的で読んでいます。この本は短編集。「キリンと蟇」の1篇だけ読みました。
▼池波正太郎さんは、いわずとしれた時代小説の大家。ですが、時代小説が爆発的に売れるまでは、「小説家」でした。その頃に書いたものたちです。
池波さんは旋盤工や株屋さん(の小僧?)もやっていたはずで、それらが反映されています。
▼戦後数年の東京。税務署の役人をやっている主人公。30くらいかの男性。かつて「キリン」と渾名をつけられていた。税金を取りに行った先で、「蟇」と再会する。「蟇」は中年の男性、そういう見た目。ふたりは再会を懐かしむ。
このふたりの戦争中の回想と戦後の人生の物語。市井の庶民にとっての、戦中とは戦後とは。
普通に読めて、普通に面白かった。
でもやはり、無常観や、犯罪的底辺に落ちたときの人の描き方は、「鬼平のひとだなあ」でした。
以下、ネタバレ備忘録です。
▼戦時中。キリンは株屋をやっていた。だが戦局進行。株屋は仕事がなくなる。徴用で旋盤工を命じられる。やったことはない。やりたくもない。不貞腐れていく。そこに、ベテラン旋盤工の「蟇」がいた。ともあれ、蟇に習う。学ぶ。面倒を見てもらう。数年が経つ。キリンは、もう旋盤工が作業として面白くてたまらない。戦局は進む。徹夜の作業も強いられる。頑張る。日本の勝利のため。
▼だが結局、キリンは兵隊に取られる。そして敗戦を迎える。さまざまなニュースが、国に欺かれていたことを知る。その後は、生きるのに必死。ただ、株屋の仕事はなかなかないし、もうキリンは株屋には戻りたくない。
キリンは、戦後、再会して蟇と語り合う。
旋盤工のように、物を作ったり、暮らしに直接かかわる手ごたえのある仕事がいいね。機械=ばんこ、が愛おしかった。常に、何の仕事をしていても自分の人生に愛おしい何か=ばんこ、を持っていたいね。と。
自分たちに嘘をついた政府たち、国家たちは、そういうものを失って、力を競い、原爆などを生み出して歯止めがきかなくなっている。天と地の罰をくらっている。みんな、生まれたところは同じなのに。
▼蟇は、戦時中に、空襲で愛する妻と子を失った。キリンは無事に妻子は生き延びている。今、キリンの生きがいは、キリンの今の、ばんこ、は子供だ。
▼再開した蟇は、片目を失っている。「旋盤してて目をやられて」。戦後はさまざまな仕事をして、闇屋などをやっているたくましい中年女性のヒモというか、男妾状態になっている。
▼やがて、蟇は失踪する。手紙がキリンに来る。四国にいる。亡き妻の兄のところで、漁師になれそうだ、と。