【感想・ネタバレ】脳に棲む魔物のレビュー

あらすじ

ある日突然、正気と狂気の境界線を超えた24歳の女性記者。医師のだれもが治療困難な精神疾患の診断を下したが……! 医学ミステリーを超える面白さ。NYタイムズ第1位の衝撃の医療ノンフィクション。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

感動的で貴著な本である。

著者、スザンナ・キャラハンは本にある病気になった時24歳。
訳者のあとがきにあるように、本書の構成は、前半が著者の次第に悪化していく詳細な精神症状と、医師による相次ぐ誤診、診断が確定されない中どんどんと精神状態が悪くなっていくさまと困惑する周囲の記述は、ホラー小説を読むかのよう。

実は私は読む前から診断名を知っていたし、精神科医でもあるので、この前半は読み進めることが非常に辛かった。我が身を振り返っても、24歳という若さで幻覚・妄想が出て来た場合、統合失調症ないしは双極性障害と診断してしまう可能性は高い。あえて言えば、突然の発症、それまでの社会適応からして、『この人がこんな症状を呈するのだからそこには何かがあるには違いない」という確信が持てた時に、見かけの症状からの診断を疑うことができ、徹底的な検査を繰り返すだろう。

スザンナ・キャラハンは何度も、精神疾患の確定診断から長期に不毛な治療へと導入される危機にさらされた。高名な神経科医からきっとこれは器質的な(身体に原因のある)疾患だと疑われて血液検査を受けても正常だったこともあり、一時は匙を投げられる。本人が書くように、本当にたまたま同じ病気を疑える病理に詳しい医師に出会えたこと、その医師でさえ3年前に経験していなければ果たして診断が出来たことさえわからない。

診断に至るまでの間、離婚してバラバラだった両親との絆、そしてボーイフレンド(恐らく彼も若いだろうに!)の示す彼女への献身的な愛情が本人を支え続けた。信じがたいほどの彼女への愛と信頼だと感じられた。諦めなかった彼らに感動する。

診断が確定すれば治療は一応進む。ただ、絶対的な治療が確定されているわけでもなく(現在もそう)、果たして上手くいくのかはハラハラする。勿論、本書を本人が書いている以上、回復したはずだとはわかっているのだが...。

本書は、まれな病気から回復した本人が書いただけでも貴重だが、診断過程、そこに至る本人と周囲の人間の葛藤、そして回復した患者の心理(決して晴れやかなものじゃあ無いのだ)が余すところなく描かれている。
感動的で、そして多分医者は(とりわけ神経科医、精神科医は!)必読の書と言ってもいいくらいだ。

本筋とは離れるが、著者が若干24歳でニューヨーク・ポスト紙の記事をしっかりと任されている点や、周囲からの信頼を得ていることにも驚く。学生時代からインターンとして同社に所属し、活動していたこともあるのだろうが、アメリカ社会と日本との差を感じる部分でもあった。

1
2015年05月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

発表当時は珍しかった、自己免疫性疾患が突然発症した女性の、ご本人による回顧録。
こうした書物を読むときは、

・日本とは異なる保険診療/自由診療混合医療の国で起きた事である。
・書かれている内容は、現在また異なる基準で判定されたり、価値が変わったりすることがある。

の2点に気をつけながら読みます。
そして読み終えました。

不幸な偶然が3個積み重なった人と、幸運な偶然が3個積み重なった人の差に想いを馳せざるを得ません。著者は後者でした。
幸運その1.『ポスト』の正社員で、保険会社が診療費をカバーしてくれたこと。
幸運その2.両親も、恋人も、経済的に自立しており、著者を支える余裕があったこと。
幸運その3.然るべき論文を読み、自身の研究分野にもつねに情熱をもって取り組む医師に巡り合えたこと。

幸運な偶然が3個積まれていなかったら、この本は世に出なかったし、著者は精神病と診断されて社会福祉給付を受けるしかなかったのではないか。
それを想うと、今の日本でも、『ナニナニ障害』や『ナニナニ病』とされる人の何割かは、救えるのではないか。そうした事柄への気づきやすさを、持ち続けたいと思いました。

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2014年10月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ニューヨークポストの記者が自身の体験を書いた体験記です。
著者は2009年に病気になるまでは、社交的で話し好きな有能な記者だった。しかし徐々に精神的におかしくなっていく。部屋にシラミがいるという確信が離れず、彼氏の部屋をあさったりし、徐々に仕事がうまく運ばなくなる。かかりつけ医や神経内科医へかかるが、異常なし。しかしついに痙攣発作を起こす。そしてニューヨーク大学に入院するが、その後幻覚などが出現し・・・
前半は謎解きのようなホラーミステリーのような感じ。後半は、疾患から立ち直っていく姿。自身とは何か?のような哲学的話もあり、疾患の解説も含まれています。
自身は、病気の間の記憶が曖昧のようで、様々な情報(病院のビデオなど)や、自身に浮かんだ心中を混ぜて、小説のようになっています。記者としての冷静な目も見られ、興味深く読める体験記です。目次にIVIGや脳生検などがあり、知る人は何かわかると思いますが、一般には知れれていない病気と思います。

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2014年06月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 悪魔にとりつかれる映画エクソシスト。実は類似の例が世界各地にあるそうです。ひきつけを起こす、手を奇妙な形に曲げる白目をむく、妄想にかられる・かと思うと正常に戻る。そしてこうした急激な変化と正常との間と行き交う。

 実は私の近しい人間(義弟の彼女)にこのような症状が出ました。物忘れが増え始め、ぼーっとしていることが増え、そしてある日突然意味不明なことをしゃべりはじめ、ひきつけを起こし、卒倒しました。錯乱の末階段から転げ落ち、前歯を一本折り、そのまま救急搬送されました。その後意識を戻ったものの彼氏のことも家族のことも認知せず、うめき声をあげるだけ。

 たまたま起きたのが旧暦のお盆の時期であったため(華僑の人たちはこれをゴーストシーズンといい、死者と生者と世界がつながると言われている)、家族は”この子は悪魔にとりつかれた”と思ったそうです。私がお見舞いに行ったときにも、虚ろな目でブルブルと震え、私のことも認識せず、私のことも見ているのか見ていないのかもわからずウーっとうなるばかりでした。

 本書は、上記のような症状を示す抗NMDA受容体自己免疫性脳炎という極めて珍しい病気にかかり、幸運にも生還した女性による、世界でも症例の少ない奇病についての手記です。自己の顛末を”他人から聞き取り”、一部自分の当時の記憶を取り混ぜつつ自分に起こったことを明らかにしています。

 この病気は、一見統合失調症らしく見えるため、精神科的アプローチを施されることが多いようですが、実際にはいわば脳でアレルギー反応が起こっている状態であり、これにより精神錯乱状態が起こされているようです。

 本書にも書かれている通り、うちの義弟の彼女にも大きな腫瘍が片方の卵巣に見つかり、この腫瘍を摘出したところ快方に向かい、約半年後には大分普通の生活ができるようにはなりました。

 この本の価値は、ひとえに、このような一見”悪魔憑き”のように誤って取り扱われてしまい適切な処置が施されない可能性のなる病気の存在、そしてその症状と治療の過程を知らしめ、そして誤診を防ぐという点にあると思います。その点では迷妄を科学へと連れ戻す非常に意義あるドキュメンタリーかと。

 他方、筆者が若いからなのか、あるいは翻訳の問題か、筆致がやや幼いというか自意識過剰気味で、その点が少し読んでいてゲンナリしました。

 精神を急に病んでしまった方が周囲にいる方、唯脳論を信じる方、リアルエクソシストについて知りたい方というのはおすすめできる本かと思います。

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2021年05月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

NMDA脳炎の闘病記。
2005年に症候群として発表され、2007年にNMDA受容体に対する自己免疫がその原因として特定されたばかりの病気。著者が発症したのが2009年で、テラトーマもなかったことを考え合わせると、発症したのはともかくとして、その後の経過はかなり幸運なものだったといえるだろう。

聞記者だそうだが、文章は特にこなれていないし、NMDA脳炎についての記載は自身でも消化不良なのでは、と思わせる内容なので、一般的な読み物としてはやや難が多い。NMDA受容体は海馬に特に多いため、記憶の錯誤などの症状が起こりやすいというのは納得。

かつて野口英世が分裂病と診断されている者の一部に進行麻痺が含まれていることを示したように、現代の精神医学で統合失調症と診断されている者の中にこうした自己免疫性疾患の者が含まれているのだろうか?国内にも推定1000例以上はいる、とされているようだし、その比率が0.01%だとしても適切な診断・治療が施されずに統合失調症として放置されているのであれば多すぎるだろう。

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2014年09月28日

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