あらすじ
少年時代、虫でも殺すように幼女を川に突き落とし、溺死させた波多野と的場。共に社会人となった二人の共犯者が三十数年後、偶然街で出合った。互いに近況を語り合ううちに、的場がとてつもないことを告白した。時折、無性に人を殺したくなるというのだ。波多野は、家族も本人も死を望んでいる末期癌患者を教えてやった。的場は自殺に偽装し、その患者を殺した。やがて波多野は、限度を超えて家庭内暴力を振るう息子正介を的場の標的に供したのだが……。異色の社会派長編推理。
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Posted by ブクログ
森村誠一のお得意分野、家庭内暴力、それを煽る害悪の原因であるテレビ、心理学などのいろいろな豆知識、残存証拠と家庭崩壊と十八番がここまでそろうか。って、このテーマ何作目だ。
最近純文学ばかり読んでいたので、箸休め的な1冊。一部の人から「どこがやねん」とツッコまれるが、あくまでも森村誠一や松本清張は箸休めなの。
勉強もせず、3流の高校にしか入れなかった息子が、父母へ暴力を振るう。父である波多野は苦々しく思っているものの、仕事の何でも屋が忙しく、根本的な解決を見いだせない。そこへ、小中学校の同級生である的場が現れ、「殺人をしてみたい」と言い出す…。
窮鼠猫を噛むというか、猫に鈴をつけにいくというか、家庭内でのもやもやした鬱屈感を表現させると、森村誠一はたちまち活き活きしてくるから、まあ駄作やマンネリが多くとも許せるかなと。
ただ、安易にリビドーに走っていってしまって、そこから崩壊するというのもいつものとおりで、正直なところ若干げんなりもする。赤旗とか読んでる人はこういうシチュエーションが好きなのかしらん。
でまあ、最後は事件が解決するのかと思ったらそうでもないという、ちょっと変わった終わり方(読者は予想はつくと思う)。
この手の初期の小説だったのかもしれないが、心理学的な話は専門書かインタビューそのまま引き写しだったり、最後には長々と「他人事ではないのです」みたいなことを書いたりと、やや言い訳がましいところはあれど、こういう居心地の悪かったり、嫌な気分になったりも含めてが森村小説でございますという代表作的な出来であるので、やや高評価をしておきたい。