あらすじ
人間はなぜ音楽を生み出し、社会においてどのように役割づけてきたか? そして私たちはどのような曲を美しいと感じ、どうやってそれを受け入れていくのか? 謎の多い分野に脳科学と映画音楽の第一人者が挑む!
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Posted by ブクログ
「バカの壁」の作者 養老孟司さんと、
ご存知、宮崎アニメや「おくりびと」の作曲をした 久石譲さんが
耳、音、聴覚をキーワードに、語り合う対談です。
考えただけで、わくわくする方同士の対談!
いや~、一気に読んでしまいました。
「なぜ人は音楽で感動するのか」など
人間が音楽を美しいと感じるメカニズムについて徹底的に語り合っています。
久石さんが音楽について感じていることを語ると、それは人間の脳がこんな風に働くから
音に対してそう感じるんだね~と養老さんがメカニズムを解説する。
そして、最終的には聴覚の持つ神秘の力を問い正す。
面白くないわけがない!というのが感想です(笑)
例えば、映画音楽の第一人者、久石さんが素朴な疑問としてあげているのが、
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映画に音楽をのせる際、厳密に映像に合わせて音楽をつけると、映像より音楽の方が先に聞こえてくるという現象が起きるということ。
映像は光だから、普通に考えると音速より早いはずなのになぜ??
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それに対し、養老さんが
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ある見たもの、聞いたものに対して
脳の神経細胞が伝達して意識が発生するまでの時間が、視覚系と聴覚系では違う。
だからズレて聞こえる。
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という説明をします。
そして、
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その2つの神経は元来別々のものだから、根本的にはそれは当然こと。
それを一緒に組み合わせて考えているのは人間だけだ。
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などと、脳のメカニズムを解説するのです。
他には、久石さんが
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今の時代、目から入ってくる情報にものすごく依存度が高くなっている気がする。
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と言えば、
養老さんが
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意識を失った人が意識を取り戻す時も、最初に耳が回復し、次に目が開くのを考えると、
生きていくときに基本となるのは、目よりもむしろ耳ではないか。
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という意見を述べる。
音好きとしては、音についての対話というだけで興味わくものですが、
それプラス「へ~~、そうなのか~」ということも多い。
音への感覚(それも久石さんの研ぎ澄まされた感覚)に養老さんのメスが入るという感じでしょうか。
音好きな方に(特に理系の方 笑)
オススメな本です。
ちなみに、養老さんは音楽は基本「ながら聞き」らしいです。
仕事の邪魔にならないものが名曲らしいですよ(笑)
本当に集中しているときは聞こえない。
それでも思考の途中で、ふっと気持ちがよそへ行く、そういう時に聞こえてくる音楽が気持ちのいいものだといい。
「聴きなさい!」とばかりに何かを強く訴えかけてくるようなものだと
具合が悪い。
なーんて書いてありました。
Posted by ブクログ
解剖学者の養老孟司さんと音楽家の久石譲さんとの対談集です。
本書のタイトルや表紙、裏表紙そして帯に書かれている文章を読む限り、
これは音楽や聴覚についての対談の本だと思ってしまいがちですが、
読んでみるとそれだけではなく、
現代の社会の話や意識というものの話(これは聴覚もつながっている)
にも大分、時間を割いて(ページを割いて)話し合っておられる。
まず、序盤の養老さんの、クオリアの話からして目からうろこでした。
一つの言葉あって、それで表現したとたんにこぼれおちてしまうもの、質感、
それがクオリアだというのですが、
僕は20代の頃に音楽を作っていた時期がありますので、
その音楽の源泉としていたのがクオリアと名付けられるのだなと
やっとわかったようなところがありました。
また、音楽づくりの話でいえば、音楽というものの論理だけで
作ってしまえう音楽もあれば、エモーションやメッセージをモチーフとして
作られる音楽もある。後者は、それがいつ「降りてくる」かをまたなければならず、
前者の方法も使えないようだと音楽家としてはやっていけないみたいな話でした。
僕は、後者のタイプで、常に何かが「降りてくる」のを待ったり、無理に降ろしたり、
そうして音楽を作っていた。
これは、2年前に書いた小説もそう言うところがって、僕の創作に対する考え方っていうのは、
その方式しかありませんでしたし、それ以外は邪道なんじゃないかとすら考えていました。
それが違うんだなというのがわかって、今さらながら少し楽になったような気持ちがします。
本書の中での音楽の話でもっというと、売れる、売れないの話も興味深かったです。
売れる音楽というのは、共感性というものが強いから売れるのだといいます。
それで、共感性ばかりが強ければいいのかといえば、それは作り手としても、芸術作品という
観点からしても、そうではないんじゃないかと、久石さんも養老さんも疑問を持っています。
僕もこの意見には賛成で、共感性だけではなしに先見性や説明的なものや新しい概念が含まれているほうが、
たとえ売れなくたって価値は高いと思いますし、大体、売れるものだから価値が高いかと言えば
そうじゃないでしょう。
よく売れる安いハンバーガーがあったとして、その価値は否定しませんが、
それに至高(あるいはその近辺)の価値があるとはいえないのに近いような気がしました。
本書には、クラシックのどうどうどうたらの曲が素晴らしいとかそういうスノッブ的な
話はほぼありませんので、音楽というものに興味があり、社会一般にも興味がある人には
向いていると言えるでしょう。養老さんファン、久石さんファンは是非。