あらすじ
空き巣稼業の伊太八は、「身内に迷惑を掛けない」というのがモットーだ。豊蔵から共謀を持ちかけられ、目的の瓦屋に忍び込んだはよかったが、何とそこは豊蔵の弟の家だった。自らの信条に反する仕事をさせられた挙げ句、あらぬ罪まで着せられてお尋ね者になってしまった伊太八──彼の運命やいかに? 元南町奉行所同心の隠居・森口慶次郎が人々の心を潤す、粋と人情のお江戸事件簿。
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何回読んでも…涙。
2023年11月読了。
もう刊行されてから何十回と繰り返して読んでいるシリーズなのに、一番初めの「その夜の雪」を読むと、必ず涙が溢れてしまう。
こういう手合の連作短編小説で、一発目にこんな物語を書けるのは、著者が女性だからかな…と思ってしまう。男の作家では、こんな悲惨なエピソードから書き始める度胸は無いんじゃないかと…w。
二篇目以降は(その悲劇を通奏低音にはしているものの)オーソドックスな「江戸時代の市井を描いた小説」に成っていくので、この最初の一篇の峻烈な悲しさは読者にとっても「いつまでも引っ掛かる《傷》」と成り、他の作家では作られない見事な「味」に昇華している。
著者が早逝され、もう続きが読めないのかと哀しんでいたが、つい最近、本書の一篇目と二篇目の間に位置する「長編」が書かれていて、文庫で刊行されたばかりと聞き及び、今から楽しみにしている。
「人の心こそが一番のミステリー」と言ったのは池波正太郎だったと思うが、そうした男性作家が描く「勧善懲悪」なものと違い、著者は「人の世は必ずしも勧善懲悪では済まないし、又、世の人(男女)の心には、単純に善悪や正邪では割り切れないものが潜んでいる」事を良く教えてくれる。それこそが正に「人の心はミステリー」なのだ。
Posted by ブクログ
遅まきながら初 北原亞以子。
【北原 亞以子(本名:高野美枝、1938年1月20日 - 2013年3月12日)は、東京・新橋の祖父の代からの椅子専門の洋家具職人の家に生まれる。4歳で父が南方戦地で戦死し、6歳の1944年(昭和19年)11月30日に空襲で生家が焼失し、7歳で終戦を迎える。千葉県立千葉第二高等学校卒業。高校のころから小説家を志望し、石油会社でOLをしながら書き続ける。
28歳の時に同人誌「文藝首都」の同人への推薦人のつてが無く購読と批評提出のできる会員となり、処女作を提出するが出した原稿が訂正の赤入れだらけで真っ赤になるほど酷評され、ショックを受けて会員をやめる。1968年、同人誌「文学地帯」の同人となる。翌1969年、同誌に発表した『ママは知らなかったのよ』で第1回新潮新人賞を受賞。同作は、人気作家の処女作でありながら唯一の現代小説ということもあり、死後の2016年まで単行本収録されなかった。同年、『粉雪舞う』が司馬遼太郎に賞され、第12回小説現代新人賞佳作を受賞。
以後は、勤務先を変えつつ、年1、2回「小説現代」や「小説新潮」に短篇を発表するが、書いても書いても多くはボツになり、まったく評価されないどん底を味わう。
しかし、写真スタジオに事務員として勤務していた40歳のとき誘われ、もう一つの憧れだったコピーライターとして広告制作会社に入社して、生活が安定してから、時代小説に本格的に分野を移し、作家として再デビューして、1988年単行本『小説春日局』、『歳三からの伝言』を初めて出版する。この時は、新人賞から、ほぼ20年たっていた。その後すぐ『歳三からの伝言』出版記念パーティで機会を得て「小説新潮」で断続的に連作掲載されていた『深川澪通り木戸番小屋』が1989年講談社より刊行され、注目を集め出世作となり、シリーズ化される。それから5年後1993年に『恋忘れ草』で第109回直木三十五賞を受賞する。1997年から始まった『慶次郎縁側日記』は人気シリーズとなり、NHKで高橋英樹主演で断続的にドラマ化された。
2011年心臓病の悪化で入院、手術後の復帰インタビューで余命が少ないことを述べていた。2013年3月12日、東京都内の病院で心筋梗塞のため死去。75歳没。】
シリーズ化された本作は、奉行所同心のご隠居、森口慶次郎の活躍と哀しみを描いた人情時代劇小説。
シリーズのっけからレイプされた嫁入り前の娘の自殺というショッキングな話から始まる。本書には11の短編から構成されているが、藤沢周平作品の様な感動的な展開は少ない。本書では特に「早春の歌」「饅頭の皮」が面白かったが、暇を持て余したご隠居がお節介をやくという展開がテンプレの様。
北上次郎の解説にもあるが、各短編で起きる(小さな)事件に首を突っ込みながら「問題は何一つ解決しない」結末を、リアリティ重視と見るか、消化不良と見るかでこの作者の好き嫌いが別れそう。
登場人物をあえてキャラ立ちさせていない様なので、誰それが何をしている人物かを覚えるのに難儀した。とはいえ、本書1冊のみでの作者評価は控えたいので、後数冊はきちんと読んでみたい。