あらすじ
坂の上の角の煙草屋まで行くのも旅だと考え、自分の住んでいる都会の中を動くことに、旅の意味を見出す表題作。小説作品のモチーフになった色彩体験を原風景に遡って検証する「石膏色と赤」ほか、心に残る幼年時代の思い出、交遊、文学観、なにげない日常の暮らしや社会への思いなど、犀利な感性と豊かな想像力を通して綴る「人生の達人」の珠玉のエッセイ選。吉行文学の創造の秘密が詰まった47篇。
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Posted by ブクログ
昭和の文壇の重鎮でもあり、対談・エッセイの名手として知られる吉行淳之介。実は彼の作品はまだ未読だったりするのだけど、他作品からの孫引きや著者の人なりについて色々目にする事が多かったり。
個人的に興味があるのは、喘息に腸チフスに結核、肺炎、躁鬱病、そして治療の副作用からくる白内障…そんな心身不安定な中でも、多くの人から慕われたというその人柄がどのように培われたのか。そのヒントとなるのが、本書に収められているエッセイ「『復讐』のために」。自分自身のプロフィールにも、以下の言葉を引用させてもらっています。
「少年の頃、激しく傷つくということは、傷つく能力があるから傷つくのであって、その能力の内容といえば、豊かな感受性と鋭い感覚である。そして、その主の能力はしばしば、病弱とか異常体質と極度に内攻する心とか、さまざまのマイナスを肥料として繁っていく」
ああ、この一文で、何か色々と報われたような気になるのは、きっと自分だけじゃない筈。時々、過去の記憶が自分を押しつぶそうとして負けそうになったりするんだけど、そんな過去があるからこそ、見える景色も有る訳で。基本的に不器用なので色々と折り合いをつける事が苦手だったりするのだけど、いつかそんな過去が些細な事になって、いい記憶に生き返らせる事が出来たらいいなとか、そんな事を思ったりもするのです。