【感想・ネタバレ】いつまでも美しくのレビュー

あらすじ

ピュリッツァー賞を受賞した女性ジャーナリストが三年余にわたり密着したインド最大の都市の実像。貧困と過酷な現実の中で懸命に生きる二家族の姿を描き、全米図書賞ほか各文学賞に輝いた傑作。 大野更紗氏(作家。『困ってるひと』)絶賛!「自らを表現する言葉をもたぬ人に言葉をもたらした、ナラティヴ・ノンフィクションがひらく新境地」
インド最大の都市ムンバイの国際空港にほど近いスラム、アンナワディ。急速な経済発展を遂げる大都会の片隅で、3000人がひしめき合って暮らしている。イスラム教徒のフセイン家は、長男のアブドゥルがゴミの売買で家計を支え、生活も少しずつ上向きはじめている。アンナワディで最も成功しているワギカー家では、野心家の母親アシャが権力者とのつながりを利用してのし上がろうとする一方、このスラムで女子として初めて大学に進んだ長女マンジュは、母の生き方に反発をおぼえる。路上で暮らす少年カルーは盗んだゴミを売って生計を立て、ガッツと明るい性格で仲間うちでは一目置かれていた。そんなある日、ひとつの事件をきっかけにフセイン家の運命は大きく変わり、アシャやカルーたちもまたアンナワディをめぐる情勢の変化に巻き込まれていく――。インド人を夫にもつアメリカ人ジャーナリストが、3年余にわたる密着取材をもとに、21世紀の大都市における貧困と格差、そのただ中で懸命に生きる人びとの姿を描く。全米ベストセラーとなり、数多くの文学賞に輝いた真実の物語。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

この本はインドのムンバイにあるアンナワディと言うスラムの中のノンフィクションである。私はこの手のノンフィクションは好きなのだが、それは心の奥底に「いつか自分もこうなるかも知れない」という不安があるからだ。とは言え、この本に描かれていることが、東京の山谷、横浜の寿町、大阪の釜ヶ崎で展開されているとは思えない。本が無臭で良かったと思わざるを得ないほど、取材時は物凄い異臭の中を筆者は取材していた筈である。アンナワディのようなところが日本にあるとは、あまり思えない。日本人が死ぬまでに全く知らずにいる環境のように思う。

我々日本人にとってはある意味極限状態にあると思われるムンバイのスラムであるが、そこでの徹底的にきれい事を排した世界が描かれていた。とにかく誰かを踏みつけてでも今をひたすら生きるし、生きる希望を見失うと殺鼠剤を飲んで自殺してしまうと言う情景も書かれている。筆者があとがきで、「インドは輪廻転生と人口の多さから、命の重みが小さいと思われがちであるが、そうでは無く、一人一人が死を極めて重いものと受け止めている」と言うように書いていた。死を選ばざるを得ないほど、一人の人間にとって環境が過酷すぎると言う様が描かれていた訳で、従って人の死に軽重など無いと言うことである。

死を選んだ人間が絶望せざるを得ないほど、ムンバイのスラムは過酷だ。隣に住んでいる片足の無い、昼間から男を連れ込んでいる人妻がいた。この人妻と主人公の家族はしょっちゅうケンカをしているが、ある日我慢の沸点を超えた人妻が、ケンカをした主人公のお母さんに復讐するため、自らガソリンをかぶって自分の体に火をつけて悶絶し、病院に担ぎ込まれた。人妻は火をつけたのはこの主人公のお母さんが悪いと言うのを警察に訴える。だからなんだとなりそうだが、全然悪くないお母さんが賄賂を警察はじめ色々払わないがために、家族のほぼ全員が阿鼻叫喚も恐ろしい拘置所で殴る蹴るの暴行を受ける取り調べを受けるという世界だ。正義はどこにあるのか。因みに火を付けた片足の女は、病院でろくな処置も受けずに死んでしまう。明らかに不衛生な環境で感染症によって死んだのに、全然違う、病院としては手の施しようのない死因で処理される、と言うものである。

私は実際にものを見ていないし、これが真実であるかどうかを判断出来る立場には、究極的にはいない。でも、輪廻転生とか、人口が多いとか、そう言う部外者である自分が分かりやすいような理由によって日々の出来事が起きている、そう言う単純な世界では無いことは分かる。

テストで模範解答を書くことで正解が貰える、そう言う世界が虚構であることを痛感する。まあ、だからといってテスト勉強しなくて良いという訳じゃ無い。

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2018年01月15日

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