【感想・ネタバレ】画家小出楢重の肖像のレビュー

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Posted by ブクログ

画家であり、エッセイにおいても優れた才能を示した小出楢重の人物像について記した本です。

本書は、楢重の生涯をいろどるさまざまな事実がとりあげられていますが、小出楢重の評伝ではありません。清岡卓行に師事していた著者は、小説が書けなくなる状態にに陥りますが、そのなかで『小出楢重随筆集』に出会います。楢重は、著者とおなじ大阪出身でありながら、大阪の空気にときおり苛立たしさを感じることを告白しており、そこから著者は小説家としての自分をとりもどしはじめます。「それなら、なにが私に書けるだろうかと問うたときに、まず頭に浮かんできたのはどこかごたごたした大阪の空気であった」。「しばらく私を見限っていたかにみえた言葉が、ようやく大阪弁をとおして、ふたたび手のなかに戻ってきそうな気がしてきた」と、著者は語っています。

著者が見ようとしたのは、大阪出身者の雰囲気を濃厚に帯びていながらも、どこかその事実になじめないでいる楢重のたたずまいでした。そして本書でとりあげられている、彼の生涯をいろどるさまざまなエピソードにも、そうした自分が自分自身の生きかたに対してズレているような印象があり、それが彼のとぼけたようでありながらふだんはなかなか見えてこないものごとの裏面を鋭くえぐるエッセイにつながっているように感じます。さらにいうならば、そのような彼の態度と、みずからが小説家であることとの共通点のようなものを、著者は感じていたのかもしれません。

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2022年09月29日

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