あらすじ
「土とは何だろうか?」まずは、近所で草木が生えている土をひとつまみ、手のひらにとって触ってみよう。軟らかい感触としっとり感。土は、その中に空気や水を含み、またほかの有機物を含むからこそ、植物をはじめ、地上に住むあらゆるいのちを育む力がある。こうした土のもつパワーの秘密にさまざまな角度から迫り、世界各地のさまざまな特徴をもつ土を紹介する。地球は豊富な水がある「水の惑星」であるとともに、その表面をヴェールのように土がおおう「土の惑星」でもある。この土があったからこそ、地球にはたくさんのいのちが住むことができた。そしてこの土は、かつて水の中に住んでいた生きものたちが陸へ上がり、長い時間をかけて、つくってきたものである。「土壌は1日にして成らず」である。ところがいま、地球上で土壌が急速に消える事態が進行している。
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Posted by ブクログ
人類の爆発的な発展〜人口増〜を支えてきたのはなんといっても農業である。農業は当然のことながら土に依存し、大まかにいえばその中に含まれる窒素とリンに依存している。これらを肥料として使用することにより、食糧生産量は急増した。
窒素に関してはアンモニアを科学的に合成する技術によって生産過剰になっている。
しかし植物の成長に欠かせないリン酸は自然界の中で生成される速度が非常に遅いため、これを掘り尽くすことが人口増に歯止めをかけるかもしれないと著者は言う。当然そこには飢餓が起こるだろう。温暖化、放射能、有毒な化学物質、水不足、表土流出など、人類の生存を脅かす要素は数あるけれど、リン酸の枯渇という新しい要素が加わった。
ただ単に人類は増えすぎたのではないか。しかし意図的に減らす事は容易ではない。人類は安全に減っていく術を探るしかないのではないだろうか...。
Posted by ブクログ
土の成り立ちや役割、水田と畑の土、土壌流出・砂漠化・塩害などの問題、土壌中の生物とその役割、肥料の歴史と功罪、農政といった幅広いテーマをカバーしている。
・地球全体の平均で、土壌1m2あたり1日1gの炭素を二酸化炭素として排出している。
・無機イオンや鉱物と結びついた高分子の酸である腐植は、団粒構造が発達して保水力や通気性がよい。中央ヨーロッパからシベリア、中国北部、合衆国北部のプレイリーからカナダのステップ、アルゼンチンのパンパスなどの温帯北部に分布するチェルノゼムで見られ、すぐれた農業地帯となっている。
・火山から噴き出した溶岩が風化し、有機物がたまり、森林を支えるのに必要な表土ができるまでに千年以上かかる。
・リン酸は鉄やアルミニウムと結合して溶けにくくなっている。pHが上がるとリン酸が溶け出しやすくなる。
・日本の畑の土は、関東以北と九州に多い火山灰由来の黒ボクが半分を占め、東海以西に見られる赤黄色土が2割近くになる。
・黒ボクは腐植含有量が高いため、赤黄色土は鉱質のため、いずれも強い酸性の土。カリウム、カルシウム、マグネシウムが少なく、有害なアルミニウムイオンが多い。
・塩害によって放棄される灌漑農地は毎年百万haで、過去300年間の合計は1億haに上る。
・窒素を固定する微生物には、根粒菌のほか、好気性で畑の土にいるアゾトバクター、嫌気性で水田の土にいるクロストリディウム(シアノバクテリア)がある。ハンノキ、ヤシャブシは放線菌のフランキアとの共生によって、ソテツは藍藻との共生によって窒素固定を行う。
・日本では、自給肥料以外の購入肥料として、江戸時代からの乾燥イワシや乾燥ニシン(ほしか)、明治以降の大豆かすが使われていた。明治初年から過リン酸石灰が輸入されはじめ、明治21年から国内生産が始まった。
・採掘可能なリン鉱石は、90年で枯渇すると予測されている。
・窒素固定に世界の全エネルギーの1%が消費されているといわれる。アンモニア合成には水素が必須であり、天然ガスを原料としている。
・肥料や農薬の多用による地下水の汚染や残留農薬、単作による土壌浸食などの問題から、アメリカでは1985年の農業法で低投入持続的農業(LISA)に転換した。ヨーロッパでは、1985年に粗放化奨励策や休耕奨励策、1992年には直接所得補償(でカップリング)や農山村保全のための補助金が導入された。日本でも、1992年に環境保全型農業を推進する政策が導入された。