あらすじ
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急速な近代化が進められた明治20年代に一大ブームを巻き起こした「記憶術」。卓越した記憶力の獲得という国民の欲望を扇情した仕掛け人たちの戦略をさぐり、その背景としての日本近代の形成を大衆意識の変容と教育を軸に簡明に解読する。
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Posted by ブクログ
明治時代を中心に、当時の「記憶術ブーム」をテーマにした一冊。
特に、身体を頑健にし規則正しい生活を送り精神を鍛えるという、いわば「ハード」な記憶術についての記述は面白い。現代でもハウツー的な記憶術は花ざかりですが、さすがに「適度な食事」「喫煙をつつしむ」「記憶力増進にきく薬」を推奨する人はあまりいないでしょう(ただ、薬についてはスマートドラッグブームというものがありましたが)。
表題にある「立身出世」と「記憶術」の関連も示唆に富みます。明治時代に入り、身分ではなく能力によって「出世」することが可能となりました。それに伴って必要とされたのが、学問を身につけ無数の試験に合格すること。そのために記憶術が必要とされたのは理の必然でありましょう。
この試験関連の記述がすごい。教員不足による行き過ぎたマニュアル化、一意的な答え以外をすべて不正解にし「暗記」だけを目的にした授業など、なかなか暗澹たる気分になってきます。成績優秀な生徒を選抜し点数を競う「比較試験」、その各県対抗版まであったそうで、ここまでいくとブラックジョークめいてきますね。
元が論文を集めたものなのでいささか散漫ですが、それだけに情報の正確性も確か。一読してみてはいかがでしょうか。