あらすじ
海底は、ある意味「宇宙よりも遠い場所」ともいえる最後のフロンティアであり、日本が世界の最先端を走る研究分野だ。ニュージーランド沖の海底から掘り出される珪藻の化石を研究すべく、新鋭の古生物学者が国際共同研究に参加した。トイレの横の絶妙な貼り紙、外国人研究者とのけんか、改めてわかった日本人研究者の強味……。デビュー作で産経児童出版文化賞大賞を受賞するなど独特のみずみずしい表現力で注目を浴びる著者が、科学掘削船上の研究生活を快活に綴る。一方で、世にも美しい珪藻の紹介、地球の気候さらに世界史にも大きな影響を及ぼした海洋大循環など、古生物学や地球史研究の魅力も取り上げる。「研究のリアルな描写が非常に面白い!」と毛利衛氏も推薦。
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Posted by ブクログ
マイナーな仕事だけど、地球史を研究する研究者。
いいねぇ。仕事に対する情熱と愛情がある。
でも、税金で税金でなどと言わなくても、研究者が研究者らしく
楽しめたらそれでよいのだと思う。
いい本だった。
Posted by ブクログ
微化石,特に珪藻化石が専門の著者による,海底掘削調査の紹介。海底調査の概要から船上生活の実際まで,なかなか詳しいわりに肩肘張らずに読める。地層は地球環境のタイムカプセル。
日本の「ちきゅう」やアメリカの「ジョイデス・レゾリューション」といった科学掘削船で,海底を何千メートルも掘り,コアを採取して堆積物を分析すると,地球の歴史の様々なことがわかる。過去に北極と南極が反転していたことも,この種の調査で確証された。地磁気反転説は日本人(松山基範)の業績。
掘削用のドリルピットの仕組みや,「ちきゅう」が世界で初めて導入したライザー掘削システムについても図や写真を交えた説明。コアを収容するための筒,コアバレルの「最先端」にはコア脱落を防ぐ弁「コアキャッチャー」がついてるそうだ。それでもときには回収率は二割を下回る。厳しいんだな。
専門の微化石研究についても熱く語る。珪藻,有孔虫,放散虫,渦鞭毛藻などの小さな海生生物は,「進化速度が速く、世界中に広がりやすく、繁栄しやすいと同時に絶滅しやすい」(p.107)ため,地層の年代を詳細に決められる。示準化石の優等生。おまけにコアから採る試料の量も少なくて済む。
掘削船の生活にも興味津々。飲酒は禁止だけど何かにつけてパーティ。二交代のシフト制で,一番の楽しみは食事とか。研究者だけでなく,屈強な体格のドリラー,運搬や半割などコアの取扱をしてくれるテクニカルスタッフ,コックさん,清掃スタッフ,カメラマンなど裏方の紹介も忘れない。
他の分野の研究にも一通り触れてくれる。堆積学,古地磁気研究,地球化学と微生物学。物性物理では,回収が不完全なコアだけでなく,掘削孔に直接センサを入れる調査もするそう。乗り組む人々の国籍も様々で,活気があって楽しそうだなぁ。喧嘩など多少のトラブルはあるようだけど。
一つ間違った記述を発見。K-Ar法の説明で,「岩石中に含まれるK40とAr40の量が等量であれば、岩石が固まってから『12億5000万年経った』ということがわかりますし、K40の量がAr40の量の2倍あれば『6億2500万年経った』とわかります」(p.109)。
半減期の半分の間に元の量の1/3が崩壊していることになるってわけないよね。半減期の半分では,1/√2が崩壊しているはずだから,「K40の量がAr40の量の2.414倍あれば」でないと。あるいは,log2/log3≒0.631だから,「K40の量がAr40の量の2倍あれば『6億2500万年経った』とわかります」じゃなくて,「K40の量がAr40の量の2倍あれば『7億8900万年経った』とわかります」じゃないと。
Posted by ブクログ
前職の時の知人が地質調査のための海洋掘削船「ちきゅう」に関する仕事をしているので、「地球ごりごり」のタイトルの良さと合わせ親近感を感じ買ったのが本書。とは言え、残念ながら名大助教授である著者がここで実際に乗った掘削船は米国の掘削船の「ジョイデス・レゾリューション」で掘削海域はニュージーランド沖なので「ちきゅう」は殆ど出てこない。
でも掘削そして地質年代調査の方法などが判りやすく説明されており読みやすい。その中で著者が専門とするのは「微化石」、その中でも珪藻。太古の昔からそこに水さえ有れば存在した珪藻の微化石を、船上で掘削したコアサンプルから収集して地質の年代測定等を調べていくというのが仕事の内容。海藻がどうして化石になるのか不思議であったが、どうやら水中のカルシウム成分を取り込み細胞を覆う殻を作っているので、そのまま化石化し易いのだそうだ。その他にも有孔虫だの渦鞭毛藻だの沢山の微化石がコアサンプルから収集されているそうだ。
恐竜の化石などは見た目もわかりやすいが、何せ稀少なので簡単には見つからないが、こうした微化石はほぼ何処にでも存在しているので年代特定には極めて有効、と言われるとなるほどと思う。
ふうん、という感じだが何と言っても見所はそれらの「微化石」の顕微鏡写真だ。大きさがわずか数10ミクロン程度の微化石なのだが、ピザ形、円盤状、サッカーボール状、ヒトデ型、ミトコンドリア風など様々な形状をしており、これがまた何とも言えずに美しい。
地質学上の定義とかの真面目な話も当然出てくるのだが、個人的にはこれ等の顕微鏡写真を見られただけで本書の元は取った気分だ。