あらすじ
近代化の行きつく先に、必ずや「大衆人」の社会が到来することを予言したスペインの哲学者の代表作。「大衆人」の恐るべき無道徳性を鋭く分析し、人間の生の全体的建て直しを説く。
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Posted by ブクログ
NHKの100分で名著という番組で紹介されていたので手に取った。
ノブレス・オブリージュ。高貴であることには義務が伴う。現代においては過去に比べたらまるで貴族のような生活をしているのかもしれないが、使命感が欠落しているとの指摘による警告。王政において存在した支配者層と被支配者層の構造が崩壊したことによって、野放しになったかつての隷属する側だった大半の人々が、指針を失いまるで原始人のように欲求のみに忠実に暴れまわるようになる時代が訪れるだろうと予測していた。
これぞまさに昨今のSNSにおける炎上を見れば明白になる。誰しもが自身の信ずるところの正義に寄って濁流のように翻弄し撹乱している。
かといって大衆自体を否定するというわけではない。人々が寄り集まり、広場で言葉を用いて、より良い集団になるために協議する。その行為自体は太古の都市(ポリス)が成り立った歴史的事実を見れば否定できない とのこと。
オルデガが本書で最たる脅威として挙げたのは大衆による「反逆」という部分であると思う。隷属的な営みから解放されて勝ち取られた自由をどう扱うのか、という点において啓発しているのだと受け取った。
何より、現代において享受している様々な道具・機械・サービスも全て、過去において自身すら想像だに出来ない知性ある人々の恒久的な努力によって、生きながらえられていることを忘れてはいけないのだと心に留めるべきことだ。
しかして本書においてその「知性」においても言及されていたことが印象に残る。知性、あるいは専門性に特化し過ぎるあまり、社会的行為、倫理観などが育たない以上、それもまた前述した「原始」性を発現しうることになる。
後半には没落したヨーロッパに妥当する存在を求め彷徨う世界を憂いでいるように見えたが、勝手な憶測ではあるが第二、第三の存在が現れては消えていくことを延々と繰り返すのではないだろうか。それこそが人間の営み、あるいは社会的な動物の営みに他ならないように思った。
だからこそ、ノブレス・オブリージュの精神が必要になるのかもしれない。望み高くあるのであれば使命を果たさなければならない。常に「より良さ」を求めるのであれば苦痛を伴うに違いないのだ。
なんだか進撃の巨人にも繋がる哲学な気がする。