あらすじ
一度きりの個別の出会いのなかに普遍的な本質を見る。「時間」「人間理解」「倫理」「家族」「友情」の五つのテーマに分けて語る豊かなカウンセリングの知恵。
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Posted by ブクログ
善意というものほど怖いものはない、闇のなかにどれほどの光が入っているのかわからない
身近な人の力になりたいと考え、カウンセリング・マインドを身につけるために購入した。河合隼雄の本は『村上春樹、河合隼雄に会いに行く』で対談を読んだだけだったが、そのときの話の内容にいたく感銘を受けたのを覚えている。
傾聴、受容が何よりも大切であることを思い知らされる。聞き受け入れることはたやすいことではない。つい何かを言ってしまいたくなる。それは、自分がその人の悩みをともに悩むことがしんどいからだ。ともに悩んでくれ、話を聞いてくれる存在がいてくれるだけで救われるのに。
反省の意を込めて読んだ。大切な人が悩み苦しんでいるときに心ないことばをかけた。その人がよりよく生きるための物語を紡ぎ出す手助けができなかった。
Posted by ブクログ
今週おすすめする一冊は、心理学者で元文化庁長官の河合隼雄氏に
よる『河合隼雄のカウンセリング教室』です。タイトルからもわか
るように、本書はカウンセリングを学ぶ人のための連続講座を文章
に起こしたもので、もともとは専門家向けのものです。しかし、基
本的な内容ばかりですし、一般向けと考えて問題ありません。
特に、人との関係のあり方を考え直してみたいと思っている方、人
の話を聞くことに苦手意識を持っている方、人を受け入れることに
困難を感じる方、には得るところの多い内容になっています。
対象が仕事であれ、家族であれ、私達が向き合うのは人間です。人
間を離れた抽象的な仕事や家族は存在しません。そして、具体的な
人間と向き合い、関係し合う時に問われるのは、自らの人間観です。
ここで言う人間観とは、その人なりの人間に対する理解と言い換え
ても良いでしょう。そして、人間に対する理解を深めるためには、
自分自身に対する理解を深めないといけません。結局、人と向き合
うためには、自分と向き合うことが不可欠なのです。
人と向き合い、自分と向き合う上で、臨床心理学は多くのヒントを
くれます。特に、向き合う「態度」については多くを教えられます。
日本における臨床心理の第一人者である河合氏の「態度」を貫くの
は、「全体性」と「関係性」という二つの言葉です。「全体性」と
は、人を部分では見ず、常に全体として見るということ。つまり、
見えていない部分も含め、その人の可能性を信じるということです。
そして、「関係性」とは、自分から相手との関係を断ち切らない、
なんとしてもつながろうとする、その関係性の中で相手とのあり方
を考えるということです。どちらも人間として、とても大事な、基
本的態度ではないかと思います。
本書の中には、「カウンセラー」「クライエント」という言葉が頻
繁に出てきます。「カウンセラー」を「自分」、「クライアント」
を「自分の相手」と置き換えて読んでみてください。「相手」は上
司でも部下でもパートナーでも友人でも恋人でもいい。きっとより
深くその相手と向き合い、関係し合うためのヒントが見つかるはず
です。是非、読んでみてください。
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▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)
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「ここは何でも話をしていいところですから、十分に話をしてくだ
さい。何でもいいんですよ」と言う人がいるんですが、そういうこ
とは言われれば、言われるほど「こんなやつに言うか」という気が
起こってきたりするんですね。(中略)大事なのは言葉で言うこと
ではなくて、自分の態度がどんなに開かれているか、どれだけ待つ
ほうに傾いているか、ということです。
一般にわれわれは「なぜ」と言うのが好きです。(中略)しかし、
「なぜですか」というのをしばらくやめてみませんか。直接「なん
でですか」と言うよりも、この人間はいったいどういう考え方で生
きているのだろうか、どんな生き方が好きなのだろうかというよう
に考える。すぐに、「なぜ」とか「どうですか」と言うよりは、ゆ
っくり構えていこうとするほうが、人間理解というのが意味をもっ
てくるかもしれません。
結局、人間理解というのはだんだん自分自身をどれくらい理解する
かという問題になってきます。そして、それをやり抜かないと人間
理解はなかなか深まりません。
ある意味で言うと、カウンセラーは試されていると言えます。「い
ったい、あなたはどんな人ですか」ということを、正面からぶつけ
てきていると思ってまちがいありません。
人間には考え方がいろいろあるし、生き方もいろいろあるのだと思
いながらやっていないと、クライエントが来たときに、自分の考え
方で「こうしなさい」「ああしなさい」と言いたくなったり、こち
らの考えを押しつけてしまったりすることになりかねません。(中
略)われわれの考え方をクライエントに押しつけるためにわれわれ
は仕事をしているわけではありません。話をじっくり聞いて、一緒
に考えていくということがとても大事だと思います。
不思議ですが、変化するときにはいろいろマイナスのことが起こっ
たりします。(中略)マイナスのことが起こることによって転機が
訪れるということは、よく覚えておいてください。そのかわり、そ
れはまさにのるか反るかの事態です。ほんの少しでも悪いほうへい
くと、ものすごく悪いほうにいきます。逆に、少しよいほうへいけ
ば大きく変わります。
「悩んでいる人」こそが強いのです。悩んでいる人は何とかしよう
という力をもっているし、何とかしようという意欲をもっている。
(中略)悩んでいる人、悪いことをしている人、変なことをしてい
る人というのは、可能性を秘めていると思えばよいと思います。可
能性をもちながら、その可能性を生きられないので、何か変なこと
が出てくるのです。健康な人というのは、ある意味処置なしで、そ
れ以上変わる可能性はありません。
対話というのは、相手の痛いことを言わないと本当の対話にはなら
ない。「あなたはこういうところがある」「おまえはこういうとこ
ろがある」と、そこに踏み込みながら、しかも仲よく家族としてや
っていけるか。そういうことを本気でやろうと思うと、普通ではで
きない。子どもが学校へ行かないとか、子どもが万引きしたとか、
子どもが死にたがっているとか、そういうことがあって、「これは」
というときから本当の対話が始まるのです。
家族のことをよく見ていると、自分がどう生きるとよいのかがわか
るように思います。家族が私の職業によって何か損なわれるという
のは、やはりクライエントのためにもよくない。そこが大事だと思
います。(中略)全体としてバランスがとれてうまくいくようにす
る。その「全体として」という中に自分の家族が入っているという
ことはすごく大事なことではないかと、私は思っています。
家族というものが単に自分を支えてくれるというだけではなくて、
家族とのあり方ということで自分がチェックされている。家族を見
ていると自分がどの程度に生きていたらよいかがわかる。そう言っ
てもよいのではないでしょうか。
人間の心というものも、酒造りと似ていて、ゆっくり醸成されるも
のではないでしょうか。ゆっくりつくり上げていかないとだめなよ
うなところがある。せっかく麹がうまくできかかっているのに、
「まだできあがらんかな」と何回も覗いていたら、だんだんおかし
くなって酸っぱくなってしまいます。
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●[2]編集後記
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先月三歳になったばかりの娘は、今、トイレトレーニングの真っ最
中です。まだまだ漏らしてしまうことも多いですが、出したい時に
出すことを随分と覚えたようです。オシメはもうほとんど卒業です。
初めておしっこが出来た時の娘の嬉しそうな顔は今でも忘れられま
せん。何とも言えない達成感と満足感に満ちた笑顔でした。できな
かったことができるようになるというのは、本当に嬉しいことなの
ですね。人はこの喜びを感じたくて自ら成長するのでしょう。
娘の成長を見ていると、当たり前のことが当たり前にできることの
凄さということを痛感します。寝返り、ハイハイ、歩行、言葉、お
しっこ・・・。何一つこちらは教えていません。教えないのに、気
付くと勝手にできるようになっている。遺伝子にインプットされて
いると言ってしまえばそれまでですが、それにしたって、どうして
こんなふうにできるようになるのか不思議でしょうがありません。
そういう目で見ると、生物が生きて動いているということ自体が本
当に不思議に思えてきます。この週末、畑で娘と一緒にミミズを観
察していたのですが、ミミズというのも改めて眺めてみると相当に
不思議な生き物ですよね。くねくね動くその動きも、何色とも形容
しがたい光り輝くお腹の色も。この世界は本当に不思議に満ち満ち
ています。
そうやって世界の不思議さに気付くと、世界の有り難さを実感しま
す。当たり前だと見過ごしていたことがいかに、特別なことなのか。
それは「なかなかない」という意味で「有り難い」ことなのだと今
更ながらに教えられます。娘のおかげでこの有り難い世界に自分が
生きていることに感謝ができるようになりました。本当に有り難い
ことです。娘の存在には感謝しても感謝しきれません。
Posted by ブクログ
「四天王寺カウンセリング講座」の講演記録の一部。カウンセリングと時間・人間関係・倫理・家族・友情の5章にわかれている。
わかりやすい言葉で読みやすい気がするんだけど、よく読むと書いてあることは深いし難しい。日々の暮らしや仕事で少しでも実践できたらいいなと思う。
・大事なのは言葉で言うことではなくて、自分の態度がどんなに開かれているか、どれだけ待つほうに傾いているか。
・カウンセリングというのは「治してあげる」ではなく、その人がもつ自分の潜在的な力で治るようにするということ。クライエントはものすごく努力して苦しみと闘って、自分でやり抜いていかないと治らない。