あらすじ
身体も顔も河馬に似ている弁護士に案内され、一登はまだ見ぬ父親に会うため秋庭邸を訪れた。そこで一登は言語能力を持たない弟に出会う。彼は言葉を話せない代わりに、聞くものの心を癒す特殊な能力を持つ〈天使の歌声〉を発することができた。訓練では決して到達し得ない、澄みきった神秘の歌声。その弟をめぐってある悲劇が起きる。そして六年後、一通の手紙によって、一登はふたたび秋庭邸を訪れた──。静かな探偵・嶺原克哉が、調査依頼を通して出合った六つの難事件。不思議な親子関係と複雑に入り組んだ謎、多重どんでん返しが魅力の、著者初のシリーズ連作集。
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Posted by ブクログ
探偵・嶺原克哉が関わった六つの事件からなる連作短編集。それぞれの短編が非常に淡々とした文章で書かれている上に,地味な印象の事件が多い。嶺原克哉のキャラクターも非常に地味。創元推理文庫らしい作品である。
連作短編といっても,シリーズを通した大きな仕掛けがあるわけではない。同じ探偵が登場しているだけである。この探偵が,まるで個性がない。では,面白くないかというと,これが案外面白い。面白いと感じた理由は,個々の短編に無駄がほとんどないからだろう。テンポよく話が進む。
「多重どんでん返し」が魅力とあるが,犯人やトリックに意外性があるというより,意外なオチが用意されているショートショートのようなイメージだった。読む前の期待値が低かったこともあって,それなりに楽しめた。★3で。
個々の作品の所感は以下のとおり。
○ 警告
血液の研究をしている研究者に,遊ばずに研究をするよう脅迫していた男の話。その研究者の愛人と脅迫していた男が殺される。犯人は,脅迫されていた男の子どもである隼人という少年であるというオチ。これはイマイチ。
○ 白髪の罠
妻が不倫をしているかもしれないと,嶺原に調査を依頼する男の話。不倫ではなく,死んだと思われていた依頼者の父が生きており,妻はその秘密を守ろうと弟と協力していた。嶺原は,妻と弟が父を殺害しないよう警告するというオチ。
○ 絆の向こう側
臓器移植絡みの話。養子にもらった少年に臓器移植ができるよう,血のつながった兄を探すが,父が現れる……。オチは,父だと思っていた人物が兄で,祖父だと思っていた人物が父であるというもの。ややこしい話だが,結構面白かった。
○ 父親の気持ち
中学時代に娘にレイプ未遂をした男と,娘の親友が付き合っていることを知り,ショックで事故死した娘の復讐をしようとする父の話。
父は,レイプ未遂をした男と娘の親友の間の子どもを誘拐し,殺害したかに見える。しかし真相は,その子どもはレイプ未遂をした男の子どもではなく,そのことがばれないよう,本当の父親であった娘の従妹が犯人だったというもの。ややこしい話だが,これもなかなか。
○ 隠れた構図
小林成絵の夫であり,かつてはカリスマ講師と言われた小林幸造が急死する。塾講師の粕谷容子が塾を辞めるが,実は容子は幸造の愛人。愛人関係をばらすと脅迫してくる。
成絵は容子を殺害し,トイレの盗撮を利用したアリバイ工作をする。しかし,そうすることで息子が疑われるおそれがあることを知り,自殺をするというオチ。六作の中では白眉。まさに二転三転するどんでん返し。ややこしく,分かりにくい話ではあるが……。
○ 天使の歌声
表題作。言葉を話せない代わりに,聞く者の心を癒す歌声を持つ弟。そして,その母代わりだった愛人。弟の主治医が死に,嘘をついていた愛人が犯人だと思われるが,実際は弟は言葉を話せる可能性があり,そのことがばれないよう弟を殺そうとした主治医が事故死した話。
これも意外性はある。及第点以上のデキではある。
【思い出し用メモ】
・地味な探偵・嶺原克哉。
・全体を通した仕掛けはなし。
・ショートショート的なオチ。
・「隠れた構図」がベスト。
・全体的にややこしい話が多い。
・期待値が低かった分,意外と楽しめた。★3。
Posted by ブクログ
★★★ 表題作はおもしろかったです。ただ、あとの5編も、設定は違えど表題作の派生みたいな真相だったのがちょっと。表題作が最後だったのでおもしろかったのはおもしろかったですが。
Posted by ブクログ
まだ見ぬ父親に会うため秋庭邸を訪れた一登は、そこで言語能力を持たない弟に出会う。彼は言葉を話せない代わりに、聞くものの心を癒す“天使の歌声”を発することができた。その弟をめぐってある悲劇が起きる。そして六年後、一通の手紙によって一登はふたたび秋庭邸を訪れた。探偵・嶺原克哉が出合った六つの難事件。多重どんでん返しが魅力の連作集を文庫オリジナルで贈る。