あらすじ
歴代首相邸や政府・政党の建築物を訪ね、その空間と時間から権力者達の本性に迫る。
建築と政治の関係性という全く新たな視座を打ち立てるノンフィクション。
<目次>
「権力の館」の所在地
序論 テーマとアプローチ ――建築は政治を規定するか――
総論一 西園寺の「坐漁荘」と近衛の「荻外荘」――「衣食住足って政治を知る」世界――
総論二 「権力の館」をめぐる栄光と悲惨のパノラマ――『風見章日記』が捉える「建築と政治」――
序 権力の館 事始め
マッカーサー GHQ跡第一生命館 皇居を睥睨できぬひたすら実務の部屋
I 権力者の館
吉田茂 大磯御殿 政治も普請も道楽尽くす
吉田茂 目黒公邸 ワンマン好みの宮様の「光の館」
鳩山一郎 音羽御殿 人々を呼びこむ日だまりの丘
岸信介 御殿場邸 見果てぬ夢を館に託す
池田勇人 信濃町邸 箱根仙石原別邸 いつわりなき庭と石への執着
佐藤栄作 鎌倉別邸 ホンネ溶けこむ非政治の時空
田中角栄 目白御殿 東京への怨念と拡大する館
三木武夫 南平台邸 婦唱夫随の館の暖炉で燃やすの書類
福田赳夫 野沢邸 質実に徹した反時代の美学
大平正芳 世田谷区瀬田邸 命運分けた異例の郊外転居
中曾根康弘 日の出山荘 自然と同化する奥山の原風景
竹下登 世田谷区代沢邸 政界の父・佐藤栄作邸を居抜きで自邸に
宮澤喜一 軽井沢別邸 力ずく嫌いの決断の地
軽井沢町別荘地(戦中編) 宰相近衛と青年伯爵のバーチャル和平談義
軽井沢町別荘地(戦後編) 左社委員長も変装訪問した鳩山別荘
II 権力機構の館
首相官邸 上 保守本流は住まず、保守傍流と平成流が住む館
首相官邸 下 秩序と安定と孤高の館に「魔性の力」は蘇るか
貴族院・参議院 議事堂に埋め込まれた変わらぬ天皇秩序
衆議院 戦前戦後を生き抜いた垂直的な階層構造と配室
最高裁判所 交流乏しき静寂の司法府
検察庁 戦前は司法省と一体化、戦後は法務省とつかず離れずか
警視庁 帝都の警護そして首都の守りに七変化
財務省・大蔵省 戦前・戦後完成までに三十年の受難の館
日本銀行本店 輝きうせた三種の「権能」――権威・権限・権力を象徴する館
宮内庁庁舎 天皇の「権力」と「権威」を支え続ける濠の内外
枢密院 権力の喪失過程を象徴する「中空構造」
都庁舎 双頭の鷲にも似た「アーキテクトクラシー」
北海道赤れんが庁舎 近代日本を生き抜いた欧化の象徴
沖縄県庁・高等弁務官事務所 米軍と本土が映した戦後
III 政党権力の館
自由民主党本部 出入り自由、機能重視の「繁華街」
砂防会館 インフラ整備を背景に、党本部そして政権派閥の館へ
宏池会事務所 風化する保守本流の聖地
日本社会党(社会民主党)本部 フル回転した江田人脈
日本共産党本部 再現された「古き良き学校」のイメージ
公明党本部 鉄路ごしの創価学会との距離感の妙
民主党本部 連絡機能に特化した「ないない尽くし」
結 権力の館 事納め
小沢一郎深沢邸 「要塞」と化す政権交代の象徴
「権力の館」の原風景とコラボレーション
――あとがきにかえて――
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
歴代の首相の私邸や省庁舎、政党本部など、日本の権力が集まる建物を中心に、これまでの歴史を含めて振り返る。特に歴代首相の私邸、別邸は写真を通してでも、そこで重要な政治決定がされたエネルギーが今も残っているように感じられた。プライベートとの分離など動線に気を配る人もいれば、あえて混在させる人もいる。目指す政治がその建物、空間に凝縮されていて、面白い1冊でした。
Posted by ブクログ
オーラル・ヒストリーとして語られることの多い、政治の世界。その際、出来事が起こった現場の場所に関する詳細は、話し手の当事者には空気の如く思われていることが多く、口の端に上らないことも多いと言う。しかし、大きな決断や運命を左右する大きな出来事は、建物が持つ”場”によって規定されることが多いのも事実である。建物の構造がほんの少し違っただけで、その後の未来は大きく変わっていた可能性もあるのだ。本書は、そんな「建築と政治」の関係性に着目した希有な一冊である。
◆本書の目次
序 権力の館 事始め
マッカーサー GHQ跡第一生命感
1:権力の館
吉田茂 大磯御殿
吉田茂 目黒公邸
鳩山一郎 音羽御殿
岸信介 御殿場邸
池田勇人 信濃町邸 箱根仙石原別邸
佐藤栄作 鎌倉別邸
田中角栄 目黒御殿
三木武夫 南平台邸
福田赳夫 野沢邸
大平正芳 世田谷区瀬田邸
中曽根康弘 日の出山荘
竹下登 世田谷区代沢邸
宮沢喜一 軽井沢別邸
軽井沢別荘地(戦中編)
軽井沢別荘地(戦後編)
2:権力機構の館
首相官邸
貴族院、参議院
衆議院
最高裁判所
検察庁
警視庁
財務省・大蔵省
日本銀行本店
宮内庁庁舎
枢密院
都庁舎
北海道赤れんが庁舎
沖縄県庁・高等弁務官事務所
3:政党権力の館
自由民主党本部
砂防会館
宏池会事務所
日本社会党(社会民主党)本部
日本共産党本部
公明党本部
民主党本部
結 権力の館 事納め
小沢一郎 深沢邸
やはり、抜群に面白いのは「権力の館」の章である。当然のことではあるが、主が我儘である方が、個性が存分に反映されるのだ。個人の要件定義を受けた建築物は、ときに主より雄弁にその主体を物語る。特に、着目すると面白いポイントは、”機能要件をどのように定義したのか”と”庭との向き合い方”という二点である。
◆「権力の館」の特徴
・吉田 茂
お手のものであった政治工作と同様に、始終手入れを好む普請道楽であった。非制度的な主体を好み、私邸で閣議を行う”館政治”の元祖。庭での散歩を好み、よくそこで考えごとをした。
・岸 信介
御殿場という立地に、首相復帰をもくろむ権力動機が現れている。合理的思考が反映され、いつ何がおこっても困らないつくり。り。首相復帰への願望は、主体的に関わる庭を求めたところにもあらわれている。
・池田 勇人
私的スペースをほとんど無視し、商売繁盛の料亭のようなつくり。庭にも自らのアイデンティティを求め、「石にも木にも顔がある」と述べたほど。
・佐藤 栄作
由比ヶ浜の海を一望できるパノラマ風景がすべて。また鎌倉という立地は、鎌倉文士たちとの交流も可能にした。一度だけパーティを開いた広大な庭は、他の政治家へ格の違いを見せつけたという。
・田中 角栄
フラットでフローという政治哲学をそのまま反映させた館のつくり。庭には、新潟に生まれ育った田中の皮膚感覚にあうものだけが取り入れられた。
・福田 赳夫
自身の身の丈にあわせるべく、距離感の近さを重視したつくり。倹約の精神を貫き、庭もケチに徹したゆえの狭さを誇る。
・大平 正芳
執筆活動が有名であるように、知的活動を保証するためのつくりとなっている。千客万来の”よすが”とするために、庭のボリューム感を重視した。
・小沢 一郎
神秘性におおわれた要塞のイメージ。多くの政治家にみられるような”建物と一体化して広がるイメージの庭”はなく、閉鎖感が目立つ。
また、政治家から依頼を受けた建築家という立場への興味も尽きない。吉田茂、佐藤栄作などから依頼を受けた吉田五十八によれば、「私宅でありながら、いつ公的要素が入り込むかはわからない。そのため、動と静をあわせもち、急変化を遂げるためのダイナミクスが求められた。」との弁を残した。そのため、「私的の居住部門」、「公式につかわれやすい接客部門」、「サービス部門」という3つの機能分配を行うことが、多くの「権力の館」に見られるベーシックな造りとなっている。
おそらくは建築家自身、依頼主である政治家の目利きを存分に行い、本人にも気付かれぬよう、隠れたデザインを施していたことであろう。また、多くのケースにおいて、建築物は政治家自身より寿命が長い。没後、どのような評価が下されるかも考慮し、主亡き後の館の姿も見すえて、デザインしていた可能性も否定はできない。
ちなみに、本書の構造も、「権力者の館」、「権力構造の館」、「政治権力の館」という3つの章で構成されている。権力者の館の代表的な機能分配である「居住」、「接客」、「サービス」に、なぞらえたということなのだろうか。もしそうだとしたら、本書自身も、まことに見事な「建築物」である。