あらすじ
「どんな仕事をしたいか」と尋ねるなど、若手と丁寧に接する職場が増える一方で、「やる気のない若者」をイメージさせる「静かな退職」という言葉が注目されている。なぜか? そのような現実をふまえた若手の育成問題への解決策を提示する。
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Posted by ブクログ
辞める理由ではなく辞めない理由にこそ着目するべきである、という前提を覆す著者の意見は鋭く、勉強になった。
古屋星斗さんのデータの使い方はいつも見事。論拠もあるうえに、自身で反証をしているので信憑性が高い。
▼「Z世代」なんてのはウソ
過去の企業統計や経済紙などの情報を統合すれば、若者は変わっていない。
「現代っ子は権利優先を主張して、いまの上司はワリに合わない世代だ」(1971年日経ビジネス)
「最近の若者は満ち足りた環境で育ったために活気に乏しい」(1977年日経ビジネス)
「いまのミドルは、最近の若者は理解できない。宇宙人と接しているようだ。と言う」(1979年ビジネス時計)
「最近の若者は、残業が嫌、仕事が合わないなどと気軽に辞める」(1981年日経)
「ここ数年入ってくるひとは考え方もしっかりしているし、優秀。ただ、ハングリー精神がないと言うか、与えられた仕事は一生懸命にこなすが、自分からは率先してやろうとしない傾向がある。」(1982年日経)
「最近の若者は、挑戦しなくなった」(1985年朝日新聞)
「最近の若者は自分の信念を大切にしたいと考えている一方、他人が自分をどう見ているかという他人の目を気にしている。安定志向がつよい」(1986年読売新聞)
「上司の飲み会にふだんはあまり乗り気ではない彼女たち」(1988年日経)
「昨今の若者は温室育ち」(1989年日経)
このようにあげだすとキリがないくらい、今も昔も若者に対する投げかけは一緒である。
ではなぜ、いつの時代もこのような言葉がありふれるのか。
理由は簡単で、「共感されて、書物が売れるから」である。
どのような時代であっても、上司の苦労は変わらないので、同じメッセージで事足りる。
「近頃の若者はなっていない。とんでもない時代になったものだ」なんて言葉は、何千年も前のエジプトのショウケイ文字にも記されているくらい普遍の価値観である。
「Z世代」は存在しないのだ。
▼変わったものはある
・SNSによる比較(青く見える芝)、承認欲求への対応速度(すぐにいいねやコメントがもらえる)
・情報入手経路の多さによる、世代格差の縮小(消齢化)。Z世代という括りどころか、世代間の差がなくなってきている
・メールやLINE。若者とのコミュニケーションは過去と比較し、とりやすくなっている。昔は役員と気軽に連絡がとれるなんてありえなかった。
・転職情報の多さ。転職が昔よりしやすい。
若手がやめていくのは、若手の価値観が変わったからでも、我々の世代との違いでもない。
社会ろ構造が変わったからである。価値観の変化と捉え、無用な施策や考えを持ち出すのはやめよう。
▼若者に対する勘違い
・「若者は職場の飲み会に来たくない」と思ってしまうのか
日本財団が継続的に実施している新成人対象の統計では、2025年時点の「飲み会・イベントに参加したいと思うか」という質問に対して、68.6%が参加したいと回答している。
実に7割。しかし上司たちは、7割以上は来たくないと思っている、、、と思い込んでいる。
なぜそのように感じるかと言うと、前提として「自分たちの世代とは異なる」と思っているから。前提がそうなので、情報にたより、情報をキャッチアップすればネガティブな回答が目立つし、バイアスがかかっているので強力に受信してしまう。
直接のコミュニケーションがこのバイアスによって減ると、当たり前にさらに若者が分からなくなる。その負のスパイラルによって距離が遠くなる。
・このバイアスは、大昔からあるので、呪縛から解き放たれるのは難しい。
・「若者は答えを求めたがる」「安定志向である」「権利を主張する」も同じ類。50年前から同じことが言われていて、自分たちの代では「一括りにするな!」とおもっていたのに、自分が歳を重ねると同じことをおもうという愚に皆気づかない。
とはいえ、今の若手との関わりに気をつけるべきポイントはあるかという問いがある。答えは簡単で、
「気をつけすぎないこと」である。
どの時代も、一人ひとりに向き合うことはベースだが、人と人のコミュニケーションになんら代わり映えない。
むしろ、世代間の差がなくなってきていることのほうがファクトなので、昔より今のほうが楽にコミュニケーションがとれる。
▼辞めない理由を積み重ねる
辞める理由を分析して改善することには、あまり意味がない。
時代の変化が激しいこと、情報がありすぎること、なによりそうやってどの企業も改善をおこないノウハウ化されたものは散々活用したにも関わらず、効果は一定で歯止めがかかっているはずだから。
従い、今の時代に重要であり、過去にトライしていなかった「辞めない人材に着目し、辞めない理由を言語化して、仕組みや運用を磨く」ことを推奨する。
一人ひとりと向き合い、対話しながら、理解する必要がある。そしてそれはいつの時代も本来重要なことであり、そこから「辞めない理由」を掴むことが新しい。
辞めない理由を1人対して複数つくる。辞めない理由を言語化できた人材は、辞めなくなる。
そして、その輪を広げる。
辞めない理由の認知と共有を通じた職場作りこそ、企業や組織が努力すべき方向性である。
また、以下のように「語れる定着」へ舵をきることが可能である。
・転機となる経験を増やす(異動・出向・学び直しなど「視界が変わる」機会を、若手のうちから意図的に設計する)
・制度の認知を高めるとともに、「自分ゴト」にする(使い方を伴走型で示し、活用した人とそのストーリーを社内で可視化する)
・企業内越境的な対話の場をつくる(他部署・人事・経営層等日々の業務で関わらない者と話すことができる場を設ける)
辞めない理由を開発したり、予見可能性を高める努力をすべき。
定着とは、辞めない理由が蓄積されたり、言語化していくプロセスである。
離職とは、辞めない理由が蓄積されにくかったり、言語化の機会がない結果として発生する減少である。
従い、辞めない理由の蓄積と言語化が肝要である。
▼職場への不平不満を話す若手の以外の心情
・エンゲージメントや離職対策として、若手に職場の不平不満を聞く座組も多く見受けられる。
「自分の意見やアイデアを発信しても、上司や先輩に聞き流されてしまうことが多い」
「成果を上げても正当に評価されている実感が持てない。公平ではない。えこひいきされている人がいる」
「キャリアパスが不透明で、今の仕事が将来につながっているのか不安がある」
・しかし、盛んに不平不満の声を出してた若者の本音は「まあ、実際はそんなに悪い気持ちはないんですけどね」である。
・聞かれたから、探せばある。言語化できる。他にも出すことは可能だから不満を言う。
・故に、ネガティブな理由をかき集めるのは不合理に近く、辞めない理由を積み重ねるほうが生産的である。
▼辞める理由を聞く手法の限界
・転職経験者の75.6%は前職の上司や人事に退職理由を伝えている。一見すると、企業は若手の離職理由を十分に把握できているように見える。
・しかし①円滑に退職するため、待遇・人間関係・異動など「具体的で対策しやすい不満」を挙げやすい。②残る同僚への配慮や後腐れを避けたい心理から、「やりたいことが見つかった」などの当たり障りのない理由を語りやすいことが真実。
・結果として企業が集めているのは「退職の真の原因」ではなく「退職者が語ることを許された理由の平均値」にすぎない
・この限界を前提とした上で「辞めない理由なら濁さずに聞ける」ことが本著の転換点であり、独自性である。
なぜ辞めるのかは繰り返し問われてきた一方、「なぜ辞めていないのか」はほとんど問われてこなかった。
▼若手が語る「辞めない理由」と定着の関係
・定量調査における会社を辞めない理由は「安定しているから」「仕事で高いパフォーマンスを発揮できるから」。
・自由回答では、辞めない理由がより多岐にわたって挙がる
上司や部下との信頼関係/給与や評価への納得感/フレックス・リモートなど柔軟な働き方/会社の理念への共感/将来の成長への期待/家庭事情との両立のしやすさ。
・ここまでは、本質ではない。興味深いのは、回答の「レアさ」と定着率の関係。ありふれていない辞めない理由を答える人ほど、コミットメントが高くなる。
・「辞めない理由」は離職防止のため
企業は、静かな退職にばかり気を取られるが、静かな定着に注目しない。
今いる理由も、多数派の理由だけでなく、少数派で個性的な理由ほど組織への愛着が強いという相関があるのに知ろうとしない。
知ろうとすれば、語れるようになる。若手本人にとっても、自分の在職理由を言語化する機会になる。
▼ジョブ・エンベデッドネス
ジョブ・エンベデッドネス(Job Embeddedness)とは、従業員が職場に深く「埋め込まれ」、そこから離れにくくなっている状態を示す組織行動論の概念。
3つの主要な要素
・絆(Links)同僚や上司などの人とのつながり
・適応(Fit) 自分の価値観や能力が、仕事の環境に合っている感覚。
・犠牲(Sacrifice)会社を辞めることで失うもの(給与や人間関係、便利な環境など)の大きさ。
なぜ辞めるかではなく、なぜ留まるか。
不満がないから残るのではなく、周囲との結びつきや環境から「辞めにくい」状態を説明できるのがジョブ・エンベデッドネスを活かすと現れる特徴である。