あらすじ
愛しい猫、可愛いメロウ、美しい、優しい……私の天使……。どれくらい捜したことか?目につくかぎりを、思いつくかぎりの手段を講じて。森本翠が三十八年間勤務した出版社を定年退職した日の夜、メロウは山ほどの花と薔薇色のシャンパンの隙間をぬって、戸外にはじきだされた!?黒猫メロウの捜索と、スターを夢見る隣人の殺人事件がクロスして……。滑稽なぐらい切実で、臨場感あふれる奇想天外なサスペンス。
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Posted by ブクログ
お耽美かと思いきや、コミカルでスラップスティックな味わい。
かと思いきや、所々まぶされていた暗い情念が、終盤にぶわっと明らかになって、ぞっ。
思わず二度目を読んで、構成の巧みさにびっくり。
翠と昭平という主旋律の奥に、瑠璃という副旋律の毒がぎらりと光る。
いろいろ連想できたのも面白い。
マンションからオペラグラスという構図は『裏窓』。だがあちらとこちら互いの誤解という捻りが効く。
殺人者の精神が乱れていく『黒猫』。あるいはホフマン『砂男』。
ごーん、ごーん、という工事現場の神経をささくれ立たせる音響は丸尾末広『電気蟻』を思い出したりして。
ある書き物ではキューブリック『シャイニング』。
老婆の取り乱しと憔悴の雰囲気は『何がジェーンに起ったか?』。
佳品。
Posted by ブクログ
定年退職した翠の飼い猫メロウが失踪する。
隣の古いアパートの昭平は妻幸子を殺したばかり。死体をバラバラにして、隣の建設現場のコンクリートに埋める。メロウは昭平のアパートに住みついていた。
狂ったようにメロウを探し続ける翠。その姿は、事情を知らない昭平には自分を監視しているように見える。いまいましい老婆。
実は、翠の仕事仲間瑠璃が、酔っ払った翠に愛想をつかし、メロウをベランダから放り投げたのであった。瑠璃の妹も翠といい、あまり仲が良くない。どころか憎悪している。もう故人。
翠も妹の茜と仲良くない。姉妹って大変なんだねー。でも容易に想像つく。
この方の小説って、イヤな男多いね。昭平も美青年設定だが、すぐキレて劇団も仕事も辞めるくせに、自尊心ばかり増徴している男。
イヤな男と変な女が出てくる物語。
てか、老女にステキな物語かも。
やっと去ってくれるかとまわりに思われて定年退職して、
でも翻訳の仕事の引き合いはあって。
愛するネコともっともっと一緒にいれて、
土地持ちで歯科医の初老の男性に見初められて。
翠の老後はハッピーなのかも。
Posted by ブクログ
出版社を退職し、翻訳家として再スタートを切った翠。
その矢先に愛猫メロウが行方不明に。
一方、口論の末に妻を殺してしまった昇平。
メロウは、昇平の部屋にまぎれこんでいた。
必死にメロウを探す翠と妻の死体を始末しようとする昭平。
一匹の黒猫を軸に二人が出会ったとき、事件は起こる…。
翠の猫へののめり方は、滑稽を通り越して狂気じみたものがあって怖い。また、昇平のナルシスティックな上昇指向の狂気ぶりも、翠に劣らずすさまじい。
軽めの語り口だが、崩壊へと向かう電波な登場人物達の切実さが重い。
最後まで読むと、ミステリというよりもホラーサスペンスな印象が強かった。