あらすじ
「復興しないったってさせてみせらあ。日本人じゃあねえか。」焼け野原の銀座にたったひとつ灯った、トタン小屋の飲み屋のランプ――作家と実業家、二足の草鞋を生涯貫いた水上滝太郎(1887-1940)が、関東大震災後の銀座の人びとを描いて力強い『銀座復興』。他に、『九月一日』『果樹』『遺産』を収録。(解説=坂上弘)
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震災とそこからの復興は繰り返される日本の宿命。
うまい酒とうまい料理で元気を出して、それぞれの仕事をがんばる。そうすりゃ、天子様もお喜びだ。
上記のような具合に、人々は関東大震災後の復興に尽力するが、その姿は読者に元気と勇気を与えてくれる。
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関東大震災をテーマとするもの3篇と、新婚夫婦を描いたもの1篇。
2012年に文庫版第1刷が刊行されたのは、恐らく東北の震災を受けてのことだろう。
関東大震災と聞くと、亀戸事件、甘粕事件、被服廠の火災旋風など陰惨なイメージが強い。この本は前向きに復興を志す人、社会から孤立し続ける人、被災した若者などが描かれており、地震に直面した人々の等身大の感覚が味わえるという点で良い読書体験だった。
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関東大震災によって焼け野原となった銀座を舞台に、人々の復興に向けた様々な思いを描いた表題作を含む四編を収めた短編集。文語体の面影を残す叙述が昭和初期の時代を感じさせるが、現代においても違和感なく寧ろ心地よく読み手に響くところに著者の力量がうかがえる。震災という大きな事件におかれた市井の人々の様子を淡々と描写してみせることによって、その非日常性が効果的に表現されている。
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表題作は、関東大震災で焼け野原になった銀座でいち早くバラックにより営業を再会した飲み屋を舞台に、街の復興に取り組む人々の絆を描いている。この飲み屋は、現在も営業している「はち巻き岡田」である。全四編の内三編が関東大震災が背景になっている。昔も、大地震は、天罰という(天譴論)バカがいたらしい。水上滝太郎は、実業家と作家の二足のわらじを履いていた慶応ボーイで、明治生命在職中に亡くなっている。この作家は、初めて読んだが、都会的で、理知的な作風が好ましい。
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今年2023年は関東大震災100年に当たる年ということで、書店では夏ころから新刊を含め関連書が多数陳列されていたが、そんな中で本書を見つけたもの。収録作品4作のうち、表題作の『銀座復興』『九月一日』『遺産』は関東大震災に直接関連した作品。
『銀座復興』は、今でも銀座に店を構える「はち巻き岡田」がモデル。関東大震災でほぼ壊滅状態になった銀座で、小屋を建て「復興の魁は料理にあり 滋養第一の料理ははち巻にある」と銘打ち、いち早く復興の第一歩を踏み出した店があった。その店を舞台に、復興を期待する主人公、店の主人夫婦や店に集う客たち、もう銀座は駄目だとあきらめている主人公の友人などの会話を通して、復興への前向きな姿を描きていく。
それに対して『遺産』では、震災で隣家の壁が崩れたため、付き合いのなかった隣人と思わぬ交流が始まったが、隣人は高利貸しの子どもということで後ろ指を指されてきたため周囲との付き合いを拒絶し隠遁生活を送っていた。震災後、町内会で夜回りをするということで、嫌々ながらも隣人を誘って参加したのだが……。ここには、自警団に見られる暴力的にもなる同調圧力の厭らしさがはっきりと描かれている。
作者は、実業家と作家の二足のわらじを履いていたとのこと。文章は平易でとても読みやすい。
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銀座復興(1931/昭和6年)
九月一日(1923/大正12年)
果樹(1925/大正14年)
遺産(1929/昭和4年)
解説 震災と水上文学(坂上弘)