【感想・ネタバレ】破戒のレビュー

あらすじ

新しい思想を持ち、新しい人間主義の教育によって、不合理な社会を変えて行こうとする被差別部落出身の小学校教師瀬川丑松は、ついに父の戒めを破って公衆の前で自らの出自を告白する。周囲の因習と戦う丑松の烈しい苦悩を通して、藤村(1872-1943)は、四民平等は名目だけの明治文明に鋭く迫る。1906年刊。(解説=野間宏)

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Posted by ブクログ

ネタバレ

勝野君なぞは開化した高尚な人間で、猪子先生の方は野蛮な下等な人種だと言うのだね。は丶丶丶丶。僕は今まで、君もあの先生も、同じ人間だとばかり思っていた。

丑松のこのセリフ。ダイレクトで強烈なメッセージだ。生い立ち、身分、性別、老若、貧富、障害の有無。
全ての差別(差別意識)が馬鹿らしく思えて来る。
人としての根幹を問われた気がした。
そして、この差別社会の中で、ひたすら周囲に出生を隠し、自身までをも欺き通す苦悩。
丑松自身、清廉であるが故にこの苦しみは耐え難かっただろう。終盤、彼のこぼした涙が胸を抉る様だった。

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2023年07月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ただただ「根が深い」という感覚を覚えた。
同和問題は西日本で主に語られる、という印象でいたが、舞台は長野である。

主人公の瀬川丑松が段々と追い詰められる様は読み応えがあった。「川の向こう・・・」という表現が、本当に出てきた表現であり、戦後であれそれは存在した表現であるそうだ。
そして、彼が独白するシーンの後、生徒が校長室に直談判をしにいく、その様も感動的であった。

最終的に彼は厄介払いのように扱われてしまう。

同和問題は今にも尾を引く問題である。大阪符豊中市の森友学園の場所は、関西では公然の秘密のように語られる場所であるそうだ。今後どうなっていくのか。問いかけられている気がした。

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2018年04月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

士農工商穢多非人.
明治以降に定められた身分制度に焦点を当てた,
文学界ではあまり類を見ない作品.

初めに感じたのが,文章の平易さと読みやすさである.改訂版で
あるから,多くの歴史的仮名づかいが現代仮名づかいへと変更
されていることは容易に想像できる.それが原因かは定かではないが,
同時期に発表された漱石の作品と比べるとはるかに理解しやすい.
また,共に自然主義を確立させた花袋よりも好印象を持った.
急に波風が立つことはなく,ストーリーは緩やかに進む.
自然主義たる威厳を十二分に示している.ここで,先に述べた
文章の平易さが潤滑油となり,理解の困難から来る退屈を決して
味わうことはない.

差別に塗れた世間で穢多はいかに生きていけばよいのかという
指南書的役割や,差別にどう向き合うべきかという問題に対する
根本的解決を,本書は一切果たしていない.しかし,身分制度
から来る差別を初めて取り上げた業績は,多いに賛称されるべき
であると考える.

約100年経った今でも,本書で起きた出来事が日本のどこかで
起きている.仮に,部落問題が解決する日が近い将来来たとして
も,一般的普遍性を備えた問題を文学という形で提起した本書を,
私達は未来永劫読み継ぐべきである.

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2012年02月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

被差別部落を出自に持つ瀬川丑松は、「たとえいかなる目を見ようと、決してそれは打ち明けるな」「隠せ」という父の戒を守り、師範校を卒業し小学教員となったが、同じく被差別部落出身の思想家猪子蓮太郎との出会い、厳格だった父の死、同僚の猜疑などから、ついに戒を破るという話。
被差別部落、いわゆる穢多非人を題材とした話ですが、単純な「差別はいけない」という内容ではないです。
社会問題を題材としていますが、作中にそのアンサーはなく、丑松はラストで自身が卑しい穢多であることを詫び、教師を辞職します。

私自身出身が大阪のミナミ出身なため部落は大変身近な存在だったのですが、本作中の部落の人々の振舞には違和感を覚えました。
それもそのはずで、調べたところ本作中の穢多は、仏教や神道を信奉してきた日本において忌み嫌われてきた鳥獣の血肉に携わる仕事、革製品であったり屠殺であったりを古くから生業としてきた人々で、限定された技術から保護されていた時代もあったが、いつの頃からか差別を受けてきたそうで、私の知る部落とは微妙にポジションが異なる様子です。
もっとアウトローな話かと思ったのですが、そういうわけではなく、出自による謂れのない差別を受けている部落民の話でした。
ただ、主人公は被差別部落の出身ですが、学問を立て、身分を隠しながらも教師という職について月給をいただいている身のため、作中に差別を受けながら生きる姿は無く、ただ戒を守りひた隠しに隠す話となっています。

本作は日本の自然主義文学の走りというべき作品です。
ある状況下に主人公を行動させてみてそれを写実する。自然科学的な考えから人間の思想が普遍的であるという証明を本作によって成そうとしたのですが、本作においては実はそれは失敗だったというのが、巻末解説の野間宏の言葉。
本作が自然主義文学としてどうかという部分はさておき、本書の結末については人間のリアリティーを追求した結果として相違ないと私は思います。要するに、「人間は本質的に、周りが皆差別すると差別が当然と考える」と。
不勉強ながらゾラもルソーも読んだことがないのですが、私的には自然主義文学としては本作のラストはまさに理にかなっているのではないかと思いました。

文語体ではなくため、大変読みやすかったです。
散々文語体を読んでいたので、言論一致体がこれほど読みやすいとはと感動しました。
有名な作品なので、改版していくうちに修正が行われた結果ということもあるのでしょうが、今まで格闘してきた文語体の作品に比べると読みやすさは段違いでした。
中学生くらいでも十分に読める内容だと思います。
また、とても面白かったです。結構、長い作品なのですが、あっという間に読んでしまいました。
単純に面白い小説が読みたいという人にもおすすめです。

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2018年01月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ルーツを隠し続けなければ教職という世界では生きていけない現実の中で、それを隠し続ける行為に後ろめたさや罪悪感を感じずにはいれなくなる主人公。それは一重に理解ある友、仲間、生徒、そして先輩の存在故であるが、彼らに影響を受け彼らを信じて正直に生きることを選択する彼の「真面目な」姿が魅力的。

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2011年09月15日

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