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Posted by ブクログ
メディアジャーナリストと音楽プロデューサーのコラボレーションを通じて、今後の音楽業界のあり方を考えていく試みのようだ。
かつて音楽メジャーは、レコードやCDの売上と、著作権・著作隣接権の管理の仕組みを以って莫大な利益を得ていた。彼らがその仕組みを維持できた理由は、かつて音楽を消費者に届けるためには、レコーディング、プレス、流通、マーケティングなどに対する主にコスト面での参入障壁が高かったためだ。
この仕組みも悪い面ばかりではなく、莫大な利益の一部を使って新人育成や、メジャー内の小レーベルの維持などを行っていた良い面もあり、一概に否定できることではなかった。しかし、バブルが崩壊しCDの売上が落ちていくに従って、この、暗黙の仕組みは崩壊し、利益を優先した音楽作りが業界の主流となってしまった。
そうした中で、音楽メジャーは、CDや音源の販売だけでなく、ライブにおける物販や、コミュニティの運営による利権にその手を延ばしつつあるらしい。その一形態が、360度契約という考え方だ。
これは、ライブ活動のコストを折半する代わりに、その音楽活動から得られる全ての利益も折半するという形態の契約だ。これからのアーティストは、こういった選択肢も含めて自身の音楽活動をデザインしていかなければならない。
こういったやり方に馴染めない場合には、他の方法もある。インターネットの普及と、USTREAM、twitterの開発、収録機材のコモディティ化は、レコーディング、プレス、流通、マーケティングなどに対する参入障壁を格段に低くした。アーティストと周辺の少数で、音楽のための音楽作りをすることが可能な環境は整ってきつつある。
だがこのやり方にも、まだまだ問題も多い。こうしたインターネットにおける音楽利用には、著作権、特に著作隣接権の管理の仕組みが出来上がっていないのが現状だ。このため、原盤権を侵害しかねない音楽利用には慎重にならざるを得ない。音楽を普及させたいという意志があっても、古いタイプの業界慣習がそれを邪魔しているのだ。
著者それぞれの立場から、自身の経験などを交えつつ、今後の音楽業界のあり方を考えていくわけだが、現実はなかなか彼らの考えるように素直には進まないようだ。音楽がオイシイという考え方は廃れるといっても、現実を見れば、CDに付加価値をつけてひとりに何枚も売るというようなやり方が、ひとつの完成を見つつあるのだから。
しかしツールの発達は、音楽を広めたい人間にとっての選択肢を増やしていることは間違いない。これを現実社会の仕組みに落とし込むまでの活動を誰がやっていくのかを、これからは考えていく必要がありそうだ。
Posted by ブクログ
①マネタイズの変化
かつてのレコード会社は新人育成・レコーディング・CMとのタイアップによる広告などに投資しCDの売り上げにより利潤を得ていた。しかしデジタル化とコンテンツの多様化によりCD売り上げ市場が縮小化してきた現在ではレーベルも新しいビジネスモデルの構想が迫られている。筆者二人はライブ収入と物販収入に価値を見出している。特にTシャツなどは原価率が低く済むので、「高く、狭く」売るようなファンを囲い込むビジネスの行い方が今後優勢となってくるとみている。この閉鎖性とブランディングは相性が良く、どちらも未来型レーベルのキーとなる概念のようだ。またライブやフェスは年々市場規模を拡大している分野である。この状況下でレーベルが打ち出しているアーティスト活動の全てにレーベルが噛んでいくような経営戦略を360度契約という。
しかしいかにライブ産業がこれから興隆していこうと、一定の観客数に満たない場合アーティストに補填させる「ノルマ制」などを採用しているライブハウスは淘汰されていくだろうと予見している。
②アーティストの個人発信
ネット上に様々なプラットホームが生まれたことは間違いなくアーティストの個人発信を容易にした。アーティストは宣伝・販売を個人で行うことが可能になったためである。現在ではMySpaceなどのプラットホームで自身の曲をリスナーにストリーミング再生させ、購入するリスナーにはMP3でアーティストとリスナーが直接取引するといったかたちである。またユーストリームでライブの映像を中継されることも多くなってきた。これも新しいタイプの広告といえよう。このようにアーティストが自ら(あるいはごく小規模の協力者と)宣伝・販売などを手掛ける構想を筆者は「一人1レーベル」と呼んでいる。
③新時代の著作権
DOMMUNEとはUstream上にあるライブ・ストリーミングとDJプレーのストリーミングを中心とする音楽コンテンツである。この番組のようなタイプでは多くの楽曲が番組内で使われえるため、事前に個々の著作権者に許可を得るのが難しい。よって現在DOMMUNEはいつ閉鎖されてもおかしくない状況で運営しているのが現状である。しかしこれがもし電波で放送されるコンテンツだとしたら状況はことなる。というのも電波上の放送には「著作権者に事前に許可をとる必要はなく、著作権者は放送の後に使用料を請求できるのみ」という特権が認められているからである。筆者は新時代の著作権はネット上でもやみくもに排他性を主張するのではなく、ゆるやかに権利を保持し宣伝としていかす必要があると結論づけている。
前に読んだクリスアンダーソンの「フリー」から多くの問題認識のフレームワークを借用しているように感じた。そしてその予想は筆者が後半でロングテールという言葉を用いることで確信に変わった。ただフリーよりも日本の状況というものに寄り添って考察しており、ガラパゴス的な日本に固有の問題というのも多いものだと認識させられた
Posted by ブクログ
非常に読みやすい。
CDが売れなくなった理由や背景、好調なライヴ・フェス、音楽業界がどう変わったのか等々分かりやすくまとめられてる。
そしてこれからのレーベルの有り方、まだまだ出来ること、しなくちゃいけないことへ導かれてる。
悲観的なことが全く書かれていない。
”これからのミュージシャンは、音楽以外のところから刺激を受けていった方がいい”という言葉はとても共感できる。
Low High Who?(通称LHW?)というレーベルがまさに未来型レーベルなんじゃないかなと思った。
シンガーであるPranellがレーベルを立ち上げて、自身の音源や描いた絵やアニメを直販する。さらにはPVまで作り上げる。
すべてを一人でこなしているかは分からないが、レーベル=音楽にとらわれない活動している。
他にもHaiiro de rossiというラッパーは forte というレーベルを立ち上げたりしている。
本の通り、一人一役じゃなくなっているなと実感した。
Posted by ブクログ
レコード立ち上げに関わる「中の人」の視点と、権利関連など音楽業界を客観的に分析する「外の人」の両面から、音楽業界の現状と今後の展望を対談形式で綴っている本です。
個人的には、音楽"産業"の今後について、漠然と抱いていたイメージがどういったものだったのか、を掴むきっかけになりました。
著作権や利益配分などのなかなか表に出ない様な話もあり、興味深かったです。
Posted by ブクログ
【commons】
"think global, act local" -commons
坂本龍一が主宰するレーベルcommons(コモンズ)の運営方針。
・ローリスクでの管理と、それに対応してのリーズナブルな収益の重視
・複数の能力を発揮できる、少数スタッフでの運営
・デジタルレコーディング技術の進歩による、ローコストのレコーディングの実践
多様多彩なセール、配信とパッケージ商品の両方へのこだわり、かつこだわりのなさ
・リアルショップのみならず、WEBを利用した通販ショップでの併用販売
・売上面で偏っていても、確実に顧客を持つ国内外の原盤の発売等
【これからのレーベル、ひとりから「村」へ】
これからのレーベル作りには音楽のクオリティと経営戦略の療法が必要です。
自由に出入りができる家のような、またいつのまにか住み着く人が増えていく村のような!
新しいレーベルとは、一人から始まり、少しづつ集まり、一人ぼっちではない「村」のように発展していくものだと思います。
一人ひとりが独立していて、でも時折出会いがあり、必要なときはそれこそ物々交換に出かけるような、楽しくてぎこちないもの。
【廃校を利用】
首都圏に増え続ける廃校→学校=みんなが集まりやすい場所
cf. パリでは廃校の再利用が実践されている
cf. エア・ポケットのような地域
廃校→文化施設へ
未来型レーベルは活動拠点として、リアルな場があったほうが広がりが出る。
入り口としてTwitterとUstreamを活用する。
【コミュニケーションをマネタイズ】
商品とか情報を売るというよりも、コミュニケーションに注目が集まってきています。
音楽を売る一方、アーティストとファンのコミュニケーション自体が、商売になっている。
その場合、「キャラクター」が大きな要素になる。
音楽を作ることを前提とするのはもちろんのこと、そこから先に、アーティストがどういうキャラクターやストーリーを打ち出して、ネット時代のパーソナルとしてどう消費してもらうか。
【送り手から作り手へ】
音楽SNSが登場したことで音楽を作る上でもっとも上流に位置するアーティストが、レコード会社やメディアに頼らないかたちで直接ファンとコミュニケーションを行い、自ら道を切り開くという選択が可能になったのです。言い換えれば「送り手」の中からアーティストが「作り手」として切り離され、「作り手」と「受け手」とがダイレクトにつながる現象が生まれているともいえるでしょう。
【トップダウンからボトムアップへ】
トップダウンの形だけで音楽をリスナーに伝える時代は終わったのです。トップダウンではなく、音楽SNSのようなプラットフォームを利用してボトムアップの形でファンとアーティストが一緒に成長する。未来型の音楽ビジネスはまずアーティストとファンがフラットな場でつながることから始まっていくのでしょう。
【旧来のレコード会社の3つの役割】
レコード会社はかつて音楽産業において中心的役割を担っていました。そしてその機能は大きく分けて次の3つと言われています。
①アーティストの発掘・支援
②作品を作るための資金提供
③作品を世に広めるプロモーション活動
これら3つの機能は潤沢な資金や全国規模の組織がなければ実現不可能なものでしたが、デジタル技術やインターネットが普及した現在において、コストや意義の面で大きな変化が訪れています。
【アーティスト独自のプラン】
「僕の音楽の価値は1万円だ」としてもいいし、ある人は「僕は1曲10円で売ります。そして10億人の人に買ってもらいたい」とするプランがあってもおかしくない。
【これからの時代・音楽と言葉】
津田「これからはいい時代になりますよ。お金は重要ですが、お金しか考えられない人は退場せざるをえない。逆に言うと、音楽がおいしいビジネスではなくなるのですよ(笑) だから、そういう人たちが自然に淘汰されていくことは、音楽の未来にとって悪いことではないはずです。身も蓋もないことを言えば、音楽と芸能界との切り離しは進むでしょうね。
牧村「他の文化とのコラボレーションが可能という意味では、音楽ほど広いものはないです。いろんなものとコミュニケーションができます。音楽は時間をかけて、ひょっとすると言葉と同じものになるのかもしれません。もともと音楽と言葉は同時に生まれたものだと思うからです。人間に戻るということですね。長い、長い時間をかけて生まれたところに回帰していくのでしょう。
【Twitterに種を蒔く】
津田「夢見がちというのとは別に、種をまいておくことは作業として必要ですね。ツイッターは種をまいておくには最高のところです」
ex. 「ツイッタージャーナリズム教えたいな」とつぶやいたら5分で決まったんです。