あらすじ
戦後、リアリズム至上の伝統歌壇に激震を起した前衛歌人の中でも歌と評論両輪の異才で光芒を放つカリスマ塚本邦雄。非在の境に虚の美を幻視する塚本は自らの詩的血脈を遡行、心灼かれた唯一の存在として宿敵・藤原定家を見出す。選び抜いた秀歌100首に逐語訳を排した散文詞と評釈を対置、言葉を刃に真剣勝負を挑む「定家百首」に加え、『雪月花』から藤原良経の項を抄録。塚本邦雄の真髄を表す2評論。※この商品は紙の書籍のページを画像にした電子書籍です。文字だけを拡大することはできませんので、タブレットサイズの端末での閲読を推奨します。また、文字列のハイライトや検索、辞書の参照、引用などの機能も使用できません。
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Posted by ブクログ
-2005.12.08記
塚本邦雄の「定家百首-良夜爛漫」は見事な書だ。
「拾遺愚草」3564首を含む藤原定家全作品四千数百首の中から選びぬいた秀歌百首に、歌人塚本邦雄が渾身の解釈を試みる。
邦雄氏の本領が夙に発揮されるのは、一首々々に添えられた詩的断章だ。
一首とそれに添えられた詩章とのコレスポンデンス=照応は、凡百の解釈などよりよほど鑑賞を深めてくれる。
たとえば、百首中の第1首ではこうなる。
「見渡せば花ももみぢもなかりけり浦のとまやのあきの夕ぐれ」
上巻「二見浦百首」の中、「秋二十首」より。新古今入選。
はなやかなものはことごとく消え失せた
この季節のたそがれ
彼方に 漁夫の草屋は傾き
心は非在の境にいざなはれる
美とは 虚無のまたの名であったろうか
以下、成立背景なり、古来からの評釈なりに、時に応じ言及しつつも、あくまで一首の表象世界にこだわりぬいた歌人塚本邦雄ならではのコトバのタペストリー=織物が眼も綾に綴られていく。