【感想・ネタバレ】半導体 尖端覇権の興亡のレビュー

あらすじ

尖閣諸島沖の波高い2010年、中国漁船が海上保安庁の巡視艇に体当たりし、海保職員によって船長が逮捕された。中国はこれに反発し、レアアースの輸出を全面禁止すると通告する。狼狽した民主党の菅直人首相は処分保留のまま船長を釈放した。一連の経緯によって、中国はレアアースを「戦略物資」することを学習する。翌年の東日本大震災と福島第一原発の放射能漏れ事故によって、日本は太陽光発電を中心とした自然エネルギーに大きく軸足を移すが、すでに太陽電池の生産は中国メーカーに主導権を奪われつつあった。中国は先進諸国から学んだ技術をもとに政府から巨額の補助金を得てあっという間に日本メーカーを駆逐し、世界市場を握ってしまったのだ。同じころ、半導体製造の根幹となる露光装置でも日本は後発のオランダ企業に打ち負かされようとしていた。次世代の露光装置に極端紫外線(EUV)を使うというアイデアを世界に先駆けて考案したのは日本人研究者だった。しかしニコンが手をこまねいている間にオランダ企業が実用化に成功し、この分野の「世界一強」となった。リーマン・ショックとそれに続く円高によって、DRAMと言われる半導体メモリを製造するエルピーダが破綻し、米マイクロンに買収された。続いて、液晶テレビで世界に先駆けたシャープが、新参者の台湾の鴻海精密工業に下克上された。2010年代初頭、日本のハイテクメーカーは急速に凋落し、気がつくと、韓国や台湾どころか中国に先端製品を抑えられるようになった。中国への警戒感が台頭するとともに「経済安全保障」という思想がアメリカやヨーロッパからもたらされた。日本企業の持つ技術や製品を囲い込んで、外国の「侵略」から守るという戦略を模索し始めた。経産官僚はまずTSMCを誘致することに成功し、渋る財務省を押し切って巨額の補助金をもぎとった。するとアメリカのIBMから「最先端の半導体製造技術を提供する」という話がもたらされる。当初、一部の官僚は半信半疑だったが、ロシアのウクライナ侵攻が転機となった。もし中国軍が台湾に侵攻したら――その連想が、背中を押す。こうして、新興企業「ラピダス」に10兆円もの国費が投入される巨大プロジェクトが、うなりをあげて進行しはじめた。日本の電機企業の盛衰を30年にわたって取材してきた著者にしか書けない壮大な叙事詩。現在進行形のドラマを追う、ビジネスマン必読の一冊。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

感情タグはまだありません

Posted by ブクログ

1980年代に世界を制した日本の半導体産業が、みるみる凋落した1990~2000年代の経緯と、2020年代になって発表されたTSMCの熊本進出、ラピダスの北海道進出の舞台裏を詳細に描くノンフィクション。
本書は2部構成です。前半部分はレアアース、太陽電池、EUV(半導体製造に必要な露光装置)、液晶など半導体が絡むデバイスで日本がその地位を失っていく経緯が各章毎にまとめられています。
後半部分はTSMCとラピダスの誘致を勝ち取るために奔走した経済産業省の担当幹部や自民党国会議員の動向が時系列でまとめられています。

前半部分は読んでいて辛くなります。「あの時、こうしていれば…」的な局面が次から次へと描かれています。日本国内にメーカーが多過ぎた、各メーカーが設計から製造までの垂直統合モデルに固執し過ぎた、リスクを取って開発を続けられなかった、技術流出に対して鈍感過ぎた等々、原因はいくつかありますが、それがほぼどの分野でも共通しているように感じました。
メモリーや太陽電池については本や新聞記事で目にすることも良くありますが、EUVについてはその仕組みなども含めて詳しく触れている著書があまりない中、本書は結構詳しく述べられていて非常に興味深かったです。

後半部分は、経済産業省というのはこういうやり方で政治家を動かして、そして産業振興の方向性を定めて行動するのかという部分が詳細に描かれています。半導体産業はもはや民間だけで成立する産業ではなく、国が積極的にバックアップして育成するのが当たり前となった今、それに立ち遅れて地位を失った日本がいかに復活を目指しているのか、熊本のTSMCと北海道のラピダスを舞台として紹介されています。
ラピダスについては、「半導体の微細化が限界に達しようとしている今、巨額の資金を投入するラピダスは航空機の時代に戦艦大和を建造することに似てなくもない。その方向性は数年後に明らかになるだろう」と結んでいます。果たして、兆単位の投資が実を結ぶのか、非常に気になります。

産業・企業ものノンフィクションで著者の大鹿氏の本は、ハズレがありません。その著者が30年にわたる取材を基に半導体という重要分野を扱った本書は500ページを超えるボリュームですが、それを感じさせない充実した1冊でした。

0
2026年06月18日

「ノンフィクション」ランキング