【感想・ネタバレ】我が父たちのレビュー

あらすじ

血のつながりのやり切れなさを、鋭敏な感性でつづり、独自の文学世界をひらく。不思議な物語の魅力あふれる力作中篇集。(講談社文庫)

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Posted by ブクログ

表題作のほか、短編二作品を収録しています。

「壜のなかの子ども」は、駄菓子屋の店主を務める父親と、おとなになっても身長が1メートル10センチにしかならないと医者に告げられている小学生の息子の物語。父親は、大学病院で小学生の少女と出会い、のどにこぶのある生体実験のためのヤギを連れて町をあるき、息子は自分を取り巻く人びとのまなざしについて醒めた眼で考えています。生まれつき障がいをもつ動物に向けられる父親の視線は彼の息子に対する態度とかさねられ、ヤギに芸を仕込もうと考える少女に反発を感じながらも彼女に引きずられるようについてあるくことしかできないところに、彼が自分のそうした態度に無自覚であることが示されているように思えます。

「火屋」は、夫のことを犬だと思っている妻と、二人の娘の物語。妻の夫に対する冷ややかなまなざしと、そうした妻に対する夫のまなざしを、両者の語る寓話によって象徴することで、心の安らぐことのない家庭のリアルな状況へ向かって読者が想像力を働かせることをねらった作品でしょうか。

「我が父たち」は、父親の違う三姉妹とその母親の物語を、姉妹のそれぞれの視点からえがいた作品です。姉妹たちの祖母から見て四姉妹のように見える女たちだけで暮らしている家に、母親が親しくなった新興宗教の教祖らしい男が入り込んできたことで、彼女たちの生活に一瞬波乱がもたらされます。しかし、どこまでも部外者である男は家庭の父にはとうていなりえず、ひとり空まわりをして早々に家から退出させられます。こうして、性格の齟齬によるすれちがいを包みながら、父親のいない女たちだけの生活がつづいていきます。

いずれの作品も、文学的な手法における実験的な試みをふくんでおり、どれほど成功しているかという点で評価が分かれるかもしれませんが、個人的には興味深く読みました。

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2024年12月07日

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