あらすじ
ルネサンス期のフィレンツェ、10年以上もかけて描き続けているサン・ロレンツォ聖堂のフレスコ画の前でマニエリスムの画家ヤコポ・ダ・ポントルモが槌で殴打され、鑽で胸を刺されて殺害され、彼のアトリエにはフィレンツェ公コジモ・デ・メディチの長女マリアの顔をしたヴィーナスとキューピッドの猥褻な絵が残されていた。ポントルモを殺したのは誰か? いかがわしい絵を描いたのは彼なのか? コジモは信を置く画家で建築家で美術史家のヴァザーリに事件の解明を依頼する。ヴァザーリは、ローマでサン・ピエトロ大聖堂の建設に携わっているミケランジェロに書状を送り事件を知らせ、助言を求めた。ヴァザーリとミケランジェロ、マリアと遠縁のフランス王妃カトリーヌ・ド・メディシス、カトリーヌ・ド・メディシスとコジモの敵であるフランス軍元帥ピエロ・ストロッツィ……火薬庫のような当時のヨーロッパを舞台に繰り広げられた陰謀劇、恋愛劇・・・・・・。目もくらむような人物たちの書簡が全176通。事件は書簡で語られ、書簡で捜査され、書簡で解明される。『HHhH──プラハ、1942年』、『言語の七番目の機能』、『文明交錯』と次々に読者を驚嘆させてきた著者による、傑作書簡体歴史ミステリ。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
うーんビネ好き。ビネはノンフィクション風の虚実混濁創作スタイルを確立したなあ。今回の全編お手紙オンリーという手法もすごい。良家の娘がポルノのコラに使われて父親激怒し探偵雇って犯人探し、発端は大御所画家の死で終盤には大洪水まで。ルネサンス時代の史実を扱っていながらなんか個々の要素はすごい現代的なのがおもしろかった。手紙は近視眼的な一面的な主観で書かれるけど、物語としてそれを読んでるこちらは全体を俯瞰出来て、藪の中のような大岡昇平の事件のような面白さがある。タイトルの遠近法は、近視眼的vs俯瞰を表してもいるし、絵画手法なのもセンスいい。
Posted by ブクログ
フィレンツェで起きた画家殺人事件。
ミケランジェロが描いたシスティーナ礼拝堂の壁画。裸体を描くのが卑猥だとして、後から別の画家によって布の部分が描き足された。そんな時代の話。
書簡体歴史ミステリということで、本書はすべて個人的な手紙のやり取りからなる。読者は登場人物たちが交わすすべての手紙を見ることができ、神の視点から少しずつ情報を得ていく。
文書のやり取りで話が進んでいくからこそ、同じものを見て違う感想を抱くのとは逆に、同じ感想を抱いているのに、実は違うものを見ていたという行き違いが生まれるのが面白かった。
宗教観や画家としての信条によって、同じ言葉や出来事に異なる意味を見出してしまう。その思い込みが、すれ違いを生むのも興味深い。
「遠近法以上に確実なものはなく、本質的なもの、永遠なものはない」
写真の技術などもなかった時代。遠近法を発明することで、神と対等であるかのように現実を創造できる。「地上の無限」。
芸術家の苦悩や狂気、権力者たちの思惑。
過去に書かれたはずの手紙の中に生々しく残る痕跡を辿っていく、刺激的な読書体験だった。
Posted by ブクログ
★5 16世紀中葉のフィレンツェ、なぜ画家は殺害されてしまったのか? 全て手紙のやり取りだけで物語が進行する書簡体小説
■あらすじ
16世紀中葉のフィレンツェ、サン・ロレンツォ聖堂のフレスコ画の前で、画家が殺害される事件が発生。さらに彼のアトリエには、フィレンツェ公コジモの長女であるマリアを模した猥褻な絵が残されていた。
コジモは信頼している側近のヴァザーリに事件の解明を依頼、彼は関係者に書簡をおくり助言を求めるのであった…
■きっと読みたくなるレビュー
★5 全て手紙のやり取りだけで物語が進行する書簡体小説。ルネサンス期のイタリアはフィレンツェを舞台にしており、現実にあった出来事を背景に描かれた歴史ミステリーでもあります。
最初の目次と人物表だけで強烈です、いきなり引かないように。安心してください、メインの登場人物はそれほど多くありませんし、関係性も比較的シンプルでわかりやすいです。正直自分も理解できるか自信がなかったんですが、ちゃんと読み切ることができましたよ、むしろ熱中しちゃいましたね~
人物については、とりあえず以下の人たちを理解しましょう。
依頼人:コジモ
└妻:エレオノーラ、娘:マリア
探偵役:ヴァザーリ、ボルギーニ
被害者:ポントルモ
政敵:メディシス、ピエロ
その次は被害者の近くにいる画家、彫刻家で、いわゆるメインの容疑者です。ま、厳密に理解しようとしなくても大丈夫です。
画家、彫刻家たち:ミケランジェロ、チェッリーニ、アーニョロ、サンドロ、ナルディーニ、マルコ
まず本書の何がスゴイって、やっぱり書簡体形式でストーリーが展開するところですよね。ひたすらAさんからBさんへの手紙として、その内容が綴られてゆくのです。
手紙は1対1のやり取りなので、当事者にしか言えない内容だったり、本音だったり、はたまた騙したりと、その人の感情や思惑の密度が濃いのよ。人間性の本質がにじみ出てる感じで、興味深いんだけど独特の気持ち悪さが伝わってくる。
しかしそんな手紙のやり取りを読み続けていくと、ちゃーんとミステリー小説として生き生きと躍動していくんすよ。本作メインの謎であるポントルモの殺害犯は誰なのか、その動機は? さらにポントルモは何故マリアを模した猥褻な画を書いたのか。
この時代でなくとも、現代でも同じようなことがあって、なんつーか歴史は繰り返すよなーと思わざるを得ない。もう極端なことするの、やめませんかと言いたい。
そして本作は歴史小説としても学びが多いです、イタリアの歴史などまったく存じ上げずでした。さらには本作のタイトル『遠近法』ですよね。これは絵画技法のことではなく、きっと中世の変わりゆくヨーロッパ史を暗喩したものなのでしょう。
■ぜっさん推しポイント
ひたすら手紙のやり取りを読んでいく小説なんですが、特に俗っぽくて面白かったやり取りがあります。フィレンツェ公コジモと妻エレオノーラ、そして政敵であるフランス王妃メディシスとコジモの娘マリアとの関係性ですね。
おまえら公爵なのに、内容がとにかく俗っぽいっところが愛せます。なんかもう現代で言うところの、他人のLINEのメッセージを覗きみてる感覚に近かったなー。
Posted by ブクログ
中世ヨーロッパを舞台とした書簡ミステリ。
サン・ロレンツォ聖堂の壁画を製作中のヤコポ・ダ・ポントルモがかの壁画の前で殺された。
時のフィレンツェの公、コジモ・デ・メディチは側近のヴァザーリに犯人調査を命ずる。
この時代の背景となる芸術家達の世の中での地位や政治との関わりに不慣れなまま、大袈裟で回りくどい言い回しがこれでもかと飛び交う多対多の書簡のやりとりに投げ込まれ、序盤は混乱の方が強い。
こいつ誰だっけ?あの面々とどういう関係?あれ、さっきは何か別のこと言ってなかった?
ぶつ切りにされた一方通行の思いのたれ流しというこの形式でこそより強く感じる人間関係の多面性。
次第に登場人物達の立場や陣営、思惑とその交錯ぶりが見えてきて、その分野に明るくないなりにも中々興味深い物語が見えてくる。
殺されたポントルモが残していたミケランジェロの下絵を基にしたヴィーナスとキューピッドの絵。
一糸纏わぬ姿はこの時代のすう勢としては、ただでさえ嫌厭される代物だが、その顔はコジモ公の娘マリアにすげ変えられており、もはや猥褻画扱い。
この絵画の入手を巡っても、ああでもないこうでもないと右往左往するんだけれど、それと並列に語られるのが国対国同士の戦。
現代で言うアイコラ的なことに当事者にとっては心痛むのは分かるけど、絵描きが描いた一枚の絵と風評文だけで権威の転覆が狙えるっていう気風が悪意の出処もそうだけど、ゴシップをある意味待ち望んでいる大衆の浅はかさ推して知るべしのところがいつの世も変わらぬ人間性を感じてげんなり。
書簡の中で殺人事件のあっと驚くようなツイストや解決があることを期待しまっていたが残念ながらその色は弱め。
でもポントルモを始めとして殆どの人物や大きな時代の流れが史実だということに気付いてから、歴史の隙間をたぐい稀な想像で広げた物語と思えば、また違った楽しみ方をすべし物語ということで納得。
終盤ちょっとややこしめな芸術論的なものが混じり混んできて素人には辛いところもあったけど、最終信がポントルモ自身の書であり、これがまたぐっと視野を広げる効果を持っていて締まりとしては良かった。
Posted by ブクログ
ルネサンス期のフィレンツェ、10年以上もかけて描き続けているサン・ロレンツォ聖堂のフレスコ画の前でマニエリスムの画家ヤコポ・ダ・ポントルモが槌で殴打され、鑽で胸を刺されて殺害され、彼のアトリエにはフィレンツェ公コジモ・デ・メディチの長女マリアの顔をしたヴィーナスとキューピッドの、問題視される絵が残されていた。ポントルモを殺したのは誰か? いかがわしい絵を描いたのは彼か?コジモは、信頼する画家で建築家で美術史家のヴァザーリに、事件の解明を依頼する。ヴァザーリは、ローマでサン・ピエトロ大聖堂の建設に携わっているミケランジェロに書状を送り事件を知らせ、助言を求める。謎を解き明かすのは誰になるのか。
ヴァザーリとミケランジェロ、マリアと遠縁のフランス王妃カトリーヌ・ド・メディシス、カトリーヌ・ド・メディシスとコジモの敵であるフランス軍元帥ピエロ・ストロッツィ、ミケランジェロとヴァザーリ、ルネサンス期末のイタリアを巡る人物たちの書簡で構成ーいわゆる書簡文学である。書簡文学の有名どころはラクロの危険な関係だ。あちらが175通に対して、こちらは176通、一つ多い。
当時、イタリアには統一国家が存在しなかった。もっとも統一国家を望んだのが、ロドリーゴ・ボルジア(教皇アレクサンデル6世)の息子のチェーザレと言われる。よって有力者は婚姻によって強い絆を保とうとした。トスカーナ大公コジモが狙ったのは、イザベッラ・デステで有名なフェラーラ―侯爵領を有するデステ家だ。両家の縁談が壊れれば得をするのは、商業で栄えるイタリアの都市国家を我が物にせんと企む君主たちだ。フランスか、それとも、神聖ローマ帝国か。
書簡は基本一対一のため、主観しかない。それらを全て目にする読者だけが、俯瞰した視点を手にする。つまり、絵の一部分しか見られない登場人物に対して、遠近法を用いた絵を見ることができる。事件の謎を巡る話と並行して、『危険な関係』へのオマージュと見られる、もう一つの企みも進行する。
尚、マリアはデステ家と婚姻せず、代わりに彼女の妹ルクレツィアがデステ家に嫁ぐ。しかし相手はとかくの噂がある人物で、その顛末はルクレツィアの微笑に詳しい。ルネサンス期が好きな人にはお勧め。