あらすじ
「それでも……おれは手錠をかけねばならん」──ベテラン刑事の八坂は、犯罪者のやりきれない事情に理解を示しながらも、犯人に手錠をかける。人間の裏表、抵抗と復讐、犯罪者の心理を描く10話(表題作)。千変万化する話の手練手管は、技巧が技巧で終わらぬ厚みがあり、読者を虜にする。まさに風太郎ミステリーの真骨頂! 10話からなる表題作を含め、全13篇収録。
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Posted by ブクログ
短編集。表題作「夜よりほかに聴くものもなし」も連作短編集だが主人公と〆が共通している以外設定に連続性はないのでどこからでも読んでいい短編集である。
どれも面白いがテーマが強すぎて小説としての枠を通り抜けている作品もある。どれも重苦しくなかなか読み進めなかった一冊。そもそも物理的に重く持ち運ぶのに苦労する点もあった。
この中で一番出来がいいのは跫音だと思う。
時点で黒幕と吹雪心中。
以下メモより
「跫音」
善人である男が発作より悪人を絞め殺した。新聞報道に追い詰められ野次馬の冷たい目、妻・愛人・依頼主にも見捨てられ発狂し世間様に申し訳ないという話。
何より怖いのは群衆の冷たい目。そこに本当の悪があるという山田風太郎が常々描いているテーマの一つ。かなり暗い。
「とんずら」
結婚詐欺師の夫と美人局の夫婦に50万という大金を騙し取られた男の話。
「不死鳥」
45歳の時15歳の少女を自分の手で育てて理想の女性を作り上げた教授が老いを自覚し"身を震わせ魂に火を灯すため"に近所の少年を性的に勧誘させるよう女性に指示をするNTRらせもの。
この女性の生命力と美しさを讃える一遍。
「吹雪心中」
ふと出会った二人が不倫旅行にでかけた先で吹雪の旅館に閉じ込められ、なんとかして脱出しようともがく内に互いのエゴが見えていきどんどんその人間性の汚らしい部分が露呈していく話。
「黒幕」
傍観して助けようともしない人への批判が強い。とてもできが良く野次馬の恐ろしさが身に迫る。
「無関係」
今のネット上で叩く人々そのものだ。この話は不注意から百数十人が亡くなった鉄道事故の被害者の家族に対して全くの無関係でありながら悪口をいい冷たく弄ぶ理髪店の家族に、これまた無関係な青年が義憤で「不注意による事故を体験させる」という嫌がらせを仕掛ける話。
この事件には関係のない野次馬の冷たいあしらいに怒りを覚えている山田風太郎のメッセージがかなり強くでている。
「夜よりほかに聴くものもなし」を通して
最終話ですべての作品がまとめ上げられ1作品として完結する予想・期待は外れた。
最終話も罰しきれずどこに罪があるのか不明確な犯罪を取り扱った連作の一部だった。
良い作品もあればあまり出来栄えの良くない作品もある。中でも税務署を扱った話は特に出来栄えがわるく税務署の批難で作品の大半を占めている。
十分面白い作品だが期待以上ではなかった。空気が重く読んでいて暗い気持ちになった。