あらすじ
日本人は、はじめて差別に憤り、平等を希求した。本書は、忌まわしい日本ファシズムへとつながった〈昭和維新〉思想の起源を、明治の国家主義が帝国主義へと転じた時代の不安と疎外感のなかに見出す。いまや忘れられた渥美勝をはじめとして、高山樗牛、石川啄木、北一輝らの系譜をたどり、悲哀にみちた「維新者」の肖像を描く、著者、最後の書。(講談社学術文庫)
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Posted by ブクログ
著者が途中で亡くなったことで、未完となっているため残念ではあるが、面白い。
渥美勝、石川啄木、平沼騏一郎、北一輝などなど、様々な人物の思想を丹念な一次史料の読解から、近代日本における国家意識がどのように展開したのかを論述する展開は素晴らしい。
単に右翼、左翼という風に思想が分かれてきたのではなく、政治過程や社会情勢に影響されて思想が離合集散し、戦前の日本政治思想が展開されていくことが分かる。
難易度としてはある程度近代史に詳しいことは求められるので初心者向けではないのでご注意を。
Posted by ブクログ
[転回の夢の跡]第一次世界大戦を経たのちの精神的荒廃から、当時多くの日本人の心をとらえた「昭和維新」という思想。人それぞれに思い浮かべたものが異なるこのおぼろげな概念を、代表的な思想家の考えを基にしつつ検証を進めた作品です。著者は、本書の執筆中にお亡くなりになられた日本の政治思想史の研究者、橋川文三。
20世紀初頭からその前半にかける思想の一断片が、一次資料等を用いながら記されており、当時の人々の考え方が那辺にあったのかがおぼろげながらつかめるのではないかと思います。「昭和維新」という考え方そのものが一つの極めて明快な思想を語っているわけではないためか、著者の筆がときに揺れ動く感があるのですが、その揺れも含めた昭和初期の思想の「つかみにくい感じ」を体験できるかと思います。
本書を通じて伝わってくる大正から昭和初期にかけての思想を貫く特徴はなんと言ってもその「悲壮感」。危機感というよりは、その危機を目前としてなす術がなく立ちすくんでいるというように受け止められるほどの絶望にも似た思想家たちの考えが、今から振り返ってもその時代の思想がなんとも「暗さ」に満ち溢れたものにしているのかもしれないなと考えてしまいました。
〜北の天皇論は理論的にはきわめてラジカルな「天皇機関説」の側面をそなえていたのに対し、青年将校一般の天皇論は、北のその機関説的契機を抜きにして、心情的な天皇帰一を空想したというちがいである。〜
上記抜粋のように北一輝の箇所は読み応えが特にあります☆5つ
Posted by ブクログ
明治中期以降の青年の疎外感・不遇感、ときの支配層の自信喪失、日本的儒教の流れ、国家主義運動、北一輝の天皇論などが複雑に絡み合って昭和維新へと突き進んでいったのであろう。いまは、支配層の景気回復・デフレ脱却による自信の回復、領土問題に対する強気な姿勢などナショナリズムの気配がじわじわと表舞台に現れてきたようだ。ところで、日本維新の会の凋落ぶりは何を物語っているのだろうか。国民はきな臭さを感じ取ったのであろうか。
Posted by ブクログ
改造の雰囲気が絶えずしてあった。
それが総力戦を見越した国家総動員の体制に向かうか、維新の理念の完成に向かうか、とにかくどのような方向にでも変革し続ける気風や気概が戦前にはあった。
前提として明治末の危機意識があり、一方には第一次大戦を契機とした戦争という概念の変化、もう一方には資本主義社会の進展による社会のひずみの増大。
しかし変革しつづけることを目的化してしまった歴史が1930年代にあったのではないか。
しばしば「坂道を転げ落ちるように」と枕詞がつくように。何のために変革を目指すのかが見えていなかったから、気付いた瞬間にはっと突然目が覚めたような感覚を覚えるのだ。