あらすじ
赤ん坊が、突然、何かに怯えて泣き出したり、何かを思い出したようににっこり笑ったりする。母の胎内で見残した夢の名残りを見ているのだという。私たちは、かつて胎児であった「十{と}月{つき}十{とお}日{か}」のあいだ羊水にどっぷり漬かり、子宮壁に響く母の血潮のざわめき、心臓の鼓動のなかで、劇的な変身をとげたが、この変身劇は、太古の海に誕生した生命の進化の悠久の流れを再演する。それは劫初いらいの生命記憶の再現といえるものであろう。
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Posted by ブクログ
受精卵から胎児の個体発生においてその姿や身体構造は魚類両生類哺乳類というような系統発生を歩む。生物進化の道筋を短期間に辿って今の胎児の姿となるその意味は一体何なんだろうか。発生過程の歴史を文字通り身体に刻んで産まれてくるってどういうことなんだろう。
動物も植物も、命を持つ生物とは一体何のために存在するのだろう。
命を保つために形作っては形を崩してを繰り返す。そうやって形を持って留まる、その意味。
原子が集まって分子が集まって集まって集まって命を形作るその科学的根拠、その必要性。
何が命を必要としているのか、不思議でたまらない。
だから、この本はおもしろい。
抗えない魅力と解ききれない謎。
Posted by ブクログ
赤ちゃんが母親のおなかの中にいることへの記述に関心があり、また、「アイデアを形にして伝える技術」(原尻淳一氏)の中で紹介されており、気になっていたのが、きっかけで読んだ本。解剖学者の立場から、様々な話題を提供してくれるが、かなり難解。でも、受胎30~60日くらいの胎児の正面図のスケッチは、母親の子宮の中で、生物の進化がものすごいスピードで進行しながら(魚類→は虫類→ほ乳類といったダイナミックな変化を遂げながら)、人間が生まれてくることを目の当たりにするとともに、衝撃を受けた。文章全体が難解で一回読んだだけで理解することは難しい。でも、文章の所々に文学的な表現がちりばめられ、著者の文学的素養の高さが伺える。忙しい合間にも、読書をされていた方なのだと思う。
いつか、もう一度読んでさらに理解を深めたい(挑戦したい)本だと思った。