【感想・ネタバレ】哲学の慰めのレビュー

あらすじ

本書は、「最後のローマ人」と評されるアニキウス・マンリウス・セウェリヌス・ボエティウス(475/77頃-526年頃)が生涯の最期に残した著作である。
ローマ貴族の家に生まれ、アテナイに留学したあと故郷で研究・執筆を行ったボエティウスは、プラトンやアリストテレスの著作をラテン語訳したほか、神学者としては三位一体論を扱う著作を書き、音楽の理論書である『音楽教程』(講談社学術文庫)を、数学の理論書である『算術教程』をものして、四学科(幾何学、算術、天文学、音楽)の基本的な体系を中世に伝えた。
プラトンの『国家』で語られる「哲人政治」を理想としたボエティウスは、政治家としても東ゴート王国のテオドリック王のもとで宰相の地位にまで昇り、510年には西ローマ帝国の執政官となる。しかし、コンスタンティノープルとローマ教会の首位権をめぐる抗争、東ローマ帝国と東ゴート王国の対立に巻き込まれ、叛逆罪の嫌疑をかけられてパヴィアに投獄、処刑された。本書は、獄中で処刑直前に書かれたものにほかならない。
散文と韻文が交互に配され、人格化された「哲学」との対話形式を採った本書は、中世には聖書に次いで読まれた著作として知られる。研鑽を積んできたギリシア哲学を土台としつつ、自身の悲痛な体験を背景に抱えながら、理性によって俗情を克服し、徳と善の中で生きる境地を示した本書は、古代哲学の倫理学的な美しさを今に伝える古典である。
本書の日本語訳は、これまで4種類を数える。その中で最も古いものが、スピノザの翻訳で知られる畠中尚志(1899-1980年)による1938年のものである。「旧字体・旧かな遣い」のままになっていたこの名訳を、「新字体・新かな遣い」にして、お届けしたい。今日の読者にとって読みやすくなる工夫を施すとともに、『畠中尚志全文集』(講談社学術文庫)で熱意あふれる解説を執筆した國分功一郎氏が再び解説を担当した本書は、最新の校訂・研究に基づく他の訳書が存在する中でも、唯一無二の価値を持ち続けるだろう。

[本書の内容]
第一部
第二部
第三部
第四部
第五部
ボエティウス――生涯・業蹟・文献
解 説(國分功一郎)

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Posted by ブクログ

ネタバレ

反逆罪の嫌疑をかけられた神学者・音楽理論家・数学者であったボエティウスが、死刑を待つ牢獄で書いたという「哲学の慰め」。悲しみと怒りに暮れるボエティウスと、哲学を擬人化した高貴な女性との対話という形の書物になっている。「なんで自分がこんな目に」と悲しみにさまよって哲学という「祖国」を離れてしまったボエティウスに、女性が哲学の見地からひとつひとつ物事の道理を解き明かしていくのである。
混乱と動揺の中で自分の陥った境遇を確認し、それらがどのように哲学的に肯定されうるのかを考え抜いていくその姿は死を眼前にしたボエティウスの思考をそのまま追っていくようで、凄みが感じられる。4章の最後には「一切の運命が全く善いものだということ」が確認され、哲学は「さらば行け、汝等勇敢なる者どもよ、この偉大な先例の気高き道へ!」と高らかに歌い上げるのだが、絶望から舞い上がった精神の高揚が美しく、尊い。

哲学とボエティウスが確認していく内容として、
・富や権力、名誉、快楽などでは幸福は得られない
・神=最高の善=一なるものが、すべてを支配し、悪をなすことはない
・運命によって善人が嫌な目にあい、悪人が良い目を見ているように見えても、神の摂理の中では巡り巡ってそれが善になるようになっている
・運命が肯定されると一見人間の自由意志がないように思えるが、自由意志と運命論は両立する
などがあり、純粋に哲学的な内容も濃い。最後の5章は自由意志について論じられており、難しくてあまりついていけなかったのだが、現代の決定論・両立論の議論にも通じるところがあって面白いと思った。また読み返したい。運命を恨む気分の時とかに(笑)。

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2026年04月23日

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