あらすじ
呪われた天才画家は光と影で世界を魅了した
『クリムトと黄昏のハプスブルク』に続く「名画×西洋史」シリーズ第3弾!
大阪・関西万博で『キリスト埋葬』が展示され、日本でも注目度が急上昇中の画家、カラヴァッジョ。斬新な明暗法を用いた写実的な作品で一斉を風靡し、ルーベンス、レンブラント、フェルメールら後の巨匠たちにも多大な影響を与えた天才画家は、血の気の多さから殺人に手を染め「呪われた画家」とも呼ばれていた――
17世紀初頭のイタリアを舞台に繰り広げられた彼の短い生涯を追いながら、その過程で誕生したカラヴァッジョ作品の魅力を解き明かす。
登場する絵画はすべてフルカラーで紹介。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
本文にある
「カラヴァッジョが驚かれるのは、無法者なのに天才だったというのではなく、天才で、しかも社会がそれを正当に認めているのに、なおまだ無法者であり続けた、という事実である。」
この一文に、カラヴァッジョという人間のすべてが詰まっていると感じた。
天才でありながら破滅する人物は珍しくない。
しかし彼の場合は、すでに成功し、評価も名声も手に入れていたにもかかわらず、自ら無法者であり続けた点が異様である。
今で言えば、米津玄師が現在の地位のまま、歌舞伎町で荒れた若者たちとつるみ、日常的に喧嘩や暴力に明け暮れ、ついには人を殺してしまうようなものだろう。
そのくらい、彼の才能と行動はちぐはぐで理解しがたい。
実際、カラヴァッジョは教会から高額の依頼を受ける売れっ子でありながら、暴力沙汰を繰り返し、ついには相手を死なせ、追われる身となる。
彼の転落は不運ではなく、差し伸べられた手を自ら振り払い、転がり落ちていくような圧倒的な自業自得だった。
しかし一方で、彼自身がどのような考えを持っていたのかは、ほとんど語られていない。
逮捕歴などの記録は詳しく残っているのに、内面は驚くほど見えてこない。
暴力に明け暮れる無法者でありながら、聖書の場面を独自の切り口で描き出し、無学では成し得ないような壮大な作品を残している。
その矛盾が、彼を単純な人物として理解することを拒んでいるように思えた。
作品には神聖さというよりも、血の通った肉体や、今この瞬間の「生」が描かれている。
どこか泥臭く、生々しい。
また、艶やかな少年像に比べて女性があまり魅力的に描かれていない点から、著者が指摘するような性的指向についても、素人ながら納得感があった。
同時代のルーベンスが社交性と知性で地位を築き、満ち足りた生涯を送ったのとは対照的に、カラヴァッジョは制御不能な衝動のままに生きた人物である。
その危うさこそが魅力なのだと感じた。
さらに、彼はイタリアではお札に描かれたとも言われているが、冷静に考えれば人を殺している。
日本の偉人の逸話とは明らかに次元が異なる。
それでもなお評価され続けるという事実に、彼の天才と社会の受容の異様さ、そして一口では語れない底知れなさがよく表れていると感じた。