【感想・ネタバレ】会社は頭から腐るのレビュー

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ネタバレ

冨山氏の名著
経営、人間ドラマのリアルが描かれており素晴らしい。
自身も出向経験があるだけに共感できる部分なども一部あった。

メモ
・ほとんどの人間は土壇場では各人自身の動機付けの構造と性格に正直にしか行動できないという現実。
・腹落ちするコミュニケーションの重要性
・余計なことを考えず、ひたすら何をやらなければならないのかを整理する。合理的に必要最低限の人間と的確な能力と動機付けを持つ人間を揃え、しかるべき役割ときて権能を名実ともに与えて、マネジメントできれば本部機能は少人数ですむ。
・一人の人間も集団としての組織も、インセンティブと性格の奴隷である。
・私たちの判断や行動は情理に支配されている。
・いかに組織の人間を組織目的、戦略目的に整合する方向で勇気つけ、動機づけるか。
・市場や競争状況は頻繁に変わるが基本的な経済構造は実はあまり変わらない。
・将来に向けた戦略は予測できない状況変化の察知能力、適応力、戦力の柔軟性。みたい現実でなく、ありのままの現実をみられるか。
・戦略的自由度を大きく変える意思決定が重要となる。店舗を出店するかどうかなど。
・情理は日常の小さなところから、実践していくしかない。
・ガバナンスとは究極的には人間に対するリアルな影響力。自らをリスクに晒さなければその統治力は現実の影響力にはならない。
・一部のエリートが計画的にものを考えよりも、それぞれが自由に考え、自由にお金と人が結びついた方が効率的。社会主義と資本主義経済で実証されている話。
・リーダーに必要なのは人間性✖️能力=人間力。そのベースにあるのは一人一人の市井に生きる人々の切ない動機づけや喜怒哀楽というものが理解できるか。

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2020年02月10日

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 著者は、産業再生機構の元COO。この組織の運営を引き受け、倒産した起業の経営及び再生に従事してきた。この経験からの提言だけに非常に迫力があり、最近メディアで人気になっている経済アナリストや、経済学者、元大臣だった作家などとは、まったく重みが違う。 特に、「ゲマインシャフト(地縁や血縁で深く結びついた伝統的社会形態。日本的)」と「ゲゼルシャフト(利害関係に基づいて人為的に作られた社会。アメリカに代表される。)」との対比からの日本の進むべき方向や優位性に対する言及は、マネージメントの端くれである自分にとっても非常に重要な示唆であった。この話から思い出すのは、「民族は、それを偉大にした特性により滅びる」との塩野七生の言葉である。確かに今の日本企業、特に大企業は、「和(悪く言えば、シガラミ)」によってがんじがらめ。残念ながら、我が社もその例に漏れず、日々社内調整に莫大な時間が浪費される。このような悩みをお持ちのビジネスマン諸氏よ、この本を読み、あなたの組織を変えよう。

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2018年10月23日

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ネタバレ

筆者は、ボストンコンサルティングや産業再生機構で豊富な実務経験をお持ちの冨山和彦氏。著者自身、本書の中で「経営と事業のリアルな本質を語れるものは企業価値や資本政策を語るべからず」と述べられており、実際の現場経験をベースに書き綴っている内容にとても説得力を感じます。

組織を動かしていく上で、筆者が重視する視点の一つとして、「人間の弱さ」が挙げられている。人間は物事を認識する際、「見たい現実を見る」生き物とのこと。「性弱説」に立って人間を理解すれば、社会、組織の多くの現象が理解可能になる。そして、そのような現実にこそ、経営や組織がとんでもない過ちや腐敗を起こす根源があると述べています。
「現場にいる人たちのパワー」の重要性にも触れています。「経営とはとにかく人である」と言い切っておられます。細々した職務規定や指示命令なしに、自発的に働く現場人材の存在が求められる。そのため、小賢しい組織論やスキル論なんかよりも、人間集団に対する動機づけが必要とのこと。この部分が、リーダーシップの一つのポイントなのでしょう。筆者も、産業再生機構のご自身の経験を引用し、「合理」だけでなく、「情理」も踏まえたマネジメントの重要性を指摘しています。

官僚機構の問題点を指摘した部分では、「相互安全保障」を目的とした会議や根回しの業務量は人と人との組み合わせの数に応じて増えていくこと、スタッフ部門が超多忙な状況では、管理職や中高年オジサンの頭数は思い切って減らした方が業務遂行能力も意思決定のスピードと的確性も向上するなどと書かれています。思い切った意見ですが、現在社会のパラドックスの一面かもしれません。

私が個人的に注目した部分に、チームのメンバーの役割に関する記述がありました。筆者は産業再生機構で行っていた「再生の仕事」は「戦時」であると述べています。そして、極度の緊張感がある環境下で、他の職員に業務にも理解を求め、自分の専門外とする態度を認めないようにしたといいます。なぜそのように決めたかというと、仕事が佳境に入るほど専門家はプロであろうとし、チーム内に衝突を生むためだそうです。ただ、それぞれの専門家は壁を破るべく、猛烈な勉強をする必要があります。

私たちは組織の中で働きながら、社会を考えています。筆者は、自己益(=一人ひとりの動機づけ)、組織益(=企業組織として動機づけられている方向性)、社会益(=社会全体の有する動機づけ)がシンクロすることが重要であると述べています。「経営者は飲み屋での話題が昔の自慢話になったら引き際かもしれない。ゴールのない経営に自慢や答えがあるはずがないのだから」と書かれています。経営は本質的に絶え間ない努力が不可欠であり、そのためのリーダーシップが求められているのではないかと考えらさせられます。
本書の後半はリーダー論ですが、とても興味深く有意義な学びの時間を得ることができました。また、いつか、自分の立場が変わってから読み直してみたいと思う一冊です。

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2016年07月14日

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著者の作品は「結果を出すリーダーはみな非情である」(2012年の作品)を先に読んでいました。本作品はこれより5年前のものとなりますが、基本的な著者の考え方やスタンスが、この間に変わっていないことがわかります。

東大法学部卒、司法試験合格、MBAホルダーと、超エリートの著者ですが、基本的に勉強ができるだけの人間に対しては厳しいスタンスをとっており、もっと泥臭い現場力や人間力が必要であると訴えています。超エリートの著者だからこそ、説得力があり心に響きました。

本作品は経営者目線で書かれてありますが、サラリーマンである私にとってもその考え方は十分参考になりました。しかし、前述の「結果を・・・」の方が経営者色が薄いため、サラリーマンの方で著者のリーダー論に興味がある方は、「結果を・・・」の方がより実践的かもしれません。

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2015年05月31日

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日本経済や経営戦略、筆者の事業再生の現場体験など話題は多岐に渡り、かつ濃密。筆者の熱い気持ちが伝わってくる良書。

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2015年03月08日

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知識だけはなく現場の人間の起こす行動まで踏み込んで記載されている。
インセンティブと性格の奴隷や戦略は仮説でありPDCAの道具は机上ではなく現場でとても重要になる要素を実体験を元に書かれており単なる経営論で終わっていない。
人に焦点を当てた経営について書かれている。

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2013年06月27日

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「人は、インセンティブと性格の奴隷である」という言葉は、大変ためになった。自分の言動が「何でこんなふうに考えているのだろうか」と客観的に見えるようになり、本質をはずさない思考がしやすくなった。

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2012年03月11日

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人間の心理の深~い部分を全部炙り出した1冊です。

『「人はインセンティブと性格の奴隷である」だから、小賢しい組織論やスキル論よりも「人間集団を正しく動機づける」ことの方がパワーを生み出す』

『人間の価値観、行動洋式そのものを変えるのが真の経営者だ、という人もいるが、実態は、そこにいる個々人が本来持っていた個性ややる気に対して働きかけた結果、モチベーションと組織能力が飛躍的に高まった』

『経営者としての私のスタンスは、まずは人間を動機づけているものの本質を理解する努力を行う。そこに的確に働きかけ、勇気づける。本人が相互に矛盾するインセンティブの相克に苦しんでいるのなら、それを整理して、あるいは自分自身がその一部を引き受けて、その人を葛藤状態から解放すべくベ ストを尽くす』

『部下は上司の「見たい現実」を報告するように動機づけられている。ミクロの次元では「理に適った」行動が、全体としての転落を加速していく』

『ホワイトカラーおやじ組織で、やたらと会議が大人数になるのは、意志決定に関する責任が自分ひとりにふりかかって来ないようリスクヘッジをするインセンティブが働くから。こうした「相互安全保障」を目的とした会議や根回しの業務量は、人と人の組み合わせの数に応じて増えていく』

『そもそも、経営が送り出すメッセージに対して、ただちに心から反応し、動機づけられて行動する人間は多くない。経営者がそのメッセージをどこまで本気で送っているのか、それに素直に乗っかることが自分にとって得か損か、自分にとって気分のよいことか悪いことか。まずは、値踏みモードに入る。』

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2011年12月04日

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冨山さんの本は初めて読むけれど、非常に面白い。
再生機構で経験されたことに基づいての主張は
非常に迫力があり、また切れ味が鋭い。
人はインセンティブと性格の奴隷
情と理、修羅場をくぐることの必要性、その他
なるほどと思うところと、自分の身を振り返って
反省するというか、身が引き締まる思いがするという
読んでいて緊張感が高まる思いがする。
示唆に富んでいて学びの多い本だった。

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2011年10月14日

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経営者に必要なのは,決断力。情と合理,それを両立させた者がふさわしい。著者の過去の経験から導かれる日本企業の問題点とその洞察は納得感がある。挫折力にもあったが,やはり修羅場をくぐりぬけてきた経験があるとないでは,窮地に追い込まれた時に使えるか使えないか決まる。リーダーはいつでも責任をとれる存在であるべし。
自身が東大→MBAというキャリアを持ちながら,学歴社会に疑問を呈するのは不思議ではない。まったく自分もそう思う。大企業に行くことで安定を手に入れているのかもだけど,大企業病にじわじわと汚染されてしまうのも事実。そんなのはまだ御免。今のうちに社会で食っていけるスキルを身につけて,30,40代で更なるフィールドで活躍したい。それが今のところのライフプラン。
がんばろう。

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2011年08月28日

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引き続き富山さんの一冊。

「再生の修羅場からの提言」と題し、今後日本の課題を述べております。

ボリュームはかなりあるのですが、内容がとてもおもしろく、一日で読んでしまいました。

修羅場を経験することの大切さを強く訴えています。

自分の周りでも、(その過程の良し悪しの判断は難しいですが)あまり先輩や上司に指導してもらえなかった人の方が仕事ができていたりするのも事実です。

そういった意味で日本は一度失敗した経験者に再チャレンジする機会を増やしていく必要があるのではと思いました。

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2011年06月19日

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『挫折力』が面白かったので、遡って読んでみた。
その昔、毎日のようにニュースで見た産業再生機構の4年間のドラマはすごく刺激になった。

P132
重要なことは、カネボウの意思決定者が、合理的な意思決定を下せるように、プラットフォームをすっきりしてあげることなのだ。

P146
経営というのは、基本的に自由裁量行為である。違法行為や反社会的行為は論外だが、何をするのかは経営に委ねられる。執行と監督を分離した取締役会なら、ビジネスジャッジメントの範囲である限り、そこで口出しはするべきではない。

P152 (株主主権に関する記述)
マルクスではないが、生産手段、付加価値の源泉は、再び「働き手」、人的資本の側に戻ってきたのである。そんな彼らにとって、納得感のない統治権など、現実には機能しない。観光客に選挙権を与えるような仕組みがあるなら、そこに住む住民は、たまったものではないだろう。

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2021年12月24日

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現場で闘ってきた人の重みがある。内容をしっかりと腹に落とし込めることができれば…と思うが、まさにインセンティブのしがらみが頭をよぎる。

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2017年03月04日

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産業再生機構のCOOを勤めた筆者の経営者を語った本ですが、極めてストイックかつ、バランス感覚を持った意見に思いました。

経営は理詰めで合理的に進めなくてはいけないものだが、いかんせん人間は情に流されやすい存在なので、経営者たるものは合理と情理の両方を極めなくてはいけないとの意見は、経営現場で苦労された方だからこその意見に思いました。

この本に書かれてある事を踏まえますと、日本大企業にプロの経営者と言えるべきトップはほとんどいないように思います。他の本で筆者が現場の最前線にいる30代に経営者的視点を持つように提言していますが、経営者世代の方がしっかりとした経営者の観点を以てもらえれば、日本の閉塞した状況は打開できるように思いました。

30代でも組織のリーダーたらんと考えている方は読んでみれば参考になることは多いと思います。

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2013年02月07日

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ネタバレ

あたりまえのことをあたりまえにやることが大事。でもそれが難しい。
所詮、「競争ごっこ」。覚悟・決心は、生温い中からは生まれてこない。

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2013年01月03日

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リーダーシップと組織経営について著者の実体験をもとに書かれた本。
産業再生機構での経験を中心に、”現場”と”経営者”、”ゲゼルシャフト”と”ゲマインシャフト”など二項対立で解説されており読みやすい。

「リーダーとはかくあるべきである」ということはもちろん
組織を変革するためにはどう行動するべきなのか、など示唆に富んでいる。

図書に示されているデータには若干の疑問があるものの、
著者の主張には納得させられる点も多かった。

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2012年08月19日

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非常に読み応えのある一冊。ライターの人がまとめているんだろうなぁ、というのは途中からよくわかってしまったんですが(職業病ですね)、それにしてもここまで濃い内容を一冊にわたって綴れるというのは、それだけ濃密な経験をなされている証拠。
企業再生というテーマは自分の中でもずっと携わってみたいものでもあるので、濃密な本でありながら最初から最後まで熱く読み解くことができました。
こういう本を読むと、本当に企業の経営者って、それがサラリーマン社長だとしても社員とその家族の人生という重すぎる十字架を背負っていて、毎日仕事しているんだろうなぁと思う。そして自分には人数によらずその十字架を背負える覚悟がないということを改めて感じてしまいます(笑)
「会社は頭から腐る」と言いつつも、「頭が発展させる」のも事実ですから、現在ワンマン経営者と呼ばれるほど強烈な経営者のリーダーシップで成功を成し遂げているユニクロだったりソフトバンク、楽天などの企業がどのように腐らないでいけるか、という処方せんも今後は求められてくるのでしょうね。「会社を腐らせないために」みたいな。

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2012年08月14日

Posted by ブクログ

タイトルが過激ですが(きっと編集者が付けたのでしょうね。)、内容は秀逸。
全経営者、必読の一冊。

経営は至って当たり前のことを実行していけば成功するものですが、当たり前のことを実行することがいかに難しいか、我が身で実感しています。
本書を座右の書とし、常に戒めとしなければいけませんね。

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2012年03月30日

Posted by ブクログ

著者は「人はインセンティブと性格の奴隷である」と説き、個々人のインセンティブを理解するよう努め、方向付けることで企業の繁栄がもたらされると主張している。企業再生という重要な局面に立たされた時、人々は各々のインセンティブと性格に正直にしか行動できないという現実を直視した著者は、動機付けと性格の奴隷となる「弱さ」にこそ人間性の本質があるとする指摘は鋭い。

以下、印象に残ったフレーズ。

・人間は物事を認識するに際しても「見たい現実を見る」生き物である

・個々のインセンティブ(情の論理)を洞察し、理解することがすべてが始まる

・市場や競争の理解より、基本的な経済構造の理解のほうが、はるかに重要になってくる

・会社はそもそも人間様がより幸せになるための単なる手段にすぎない。法人の仕組みというのは、人類がこれまで編み出してきた、人間が幸せになるための方法のひとつにすぎないのである

・その哲学や価値観がトップ経営陣を中心に組織構成員によって深く共有されている企業は、真の意味で偉大であり、根源的、持続的な競争力を有している

・リーダーを目指すなら比較的若いときから、負け戦、失敗をどんどん体験したほうがいい。そして挫折したときに、自分をどうマネージするか、立ち直るか、それを身をもって学ぶ。

・日本のいわゆる一流企業の競争など、所詮は「競争ごっこ」なのだ。

・正しいことを全力でやること、結果的に失敗することを厭わないことが大事なのだ。

・どれだけ一人ひとりの市井に生きる人々の切ない動機付けや、喜怒哀楽というものが理解できるか

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2011年10月13日

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企業再生という本当に追い詰められた修羅場を短期間でたくさんくぐってきた著者ならではの、たいへん重みのある厳しい口調で、しかし人間そのものに対する情熱すら感じられる熱い心が読み取れる。

インセンティブと性格に支配される人間の弱さに着目し、それをどう克服して組織の腐敗を防いでいくか。どう企業として強くなるのか。PDCAの回転力といった当たり前のことを当たり前のようにすることの大切さ。情と理の正反合を経た難しい局面での戦い。人の上に立ち、その人たちの命運をも背負っていくリーダーとしての使命感、志の重要性、厳しさ、覚悟といったことを思い知らされる。

多くの企業で改革の必要性が叫ばれる昨今、学ぶべきところが多く、また真剣勝負を志すものにとっては武者震いするかのように元気付けられる。

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2011年07月01日

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なぜ日本の株式会社は機能しなくなったのか、なぜ人材が育たないのかを実に適切に解説。21世紀を生き抜くために必読。

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2011年06月11日

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産業再生機構でCOOを務めた冨山 和彦氏の著書。
同じく産業再生機構について触れている「構造改革の真実」の竹中平蔵氏と同様に自己正当化が若干鼻につくが、内容はまっとうだと思う。ただ、ハードルが高い・・・

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2011年02月08日

Posted by ブクログ

カネボウやダイエー等を再建した産業再生機構でCOOを務めた冨山さんの「会社は頭から腐る」(ダイヤモンド社)を読みました。

東大法学部在学中に司法試験に合格、ボストンコンサルティングを経てスタンフォード大学にてMBA取得という抜群の経歴を持つ彼が、ファクトとロジック中心に第三者的な助言を与える経営コンサルから一転して、経営破綻した企業に株主として入り込み崖っぷちの企業を再建していく中で数々の修羅場を通じて会得した「経営に関する気づき」が明快に綴られています。

その中でも僕が考えさせられたのが、本書で繰り返し登場するキーワードの1つである「動機付け」「インセンティブ」という言葉。

会社を構成するさまざまな人たちが、どんな思いで、どんな背景を背負って働いているのか。顧客や取引先がどんな動機付けで、腹の中ではどう思って我々と付き合っているのか。平時、有事を問わず、そこに関わる人々が根っこのところでどんな気分、どんな動機づけで仕事をしているのか、その気分、動機づけと会社が全体として目指そうという方向性は噛み合っているのか。表面的な組織制度や人事、報酬制度よりも、もっと底流の部分でそれを理解することが重要なのだ。(p.7)

(経営とは、)構成員各自のインセンティブ構造と性格を理解し、相互の個性をうまく噛み合わせ、そこに的確な役割と動機付けを与え、かつそのことを丁寧に根気良くコミュニケーションすることである。それを各階層で持続的、双方向的に、そして環境変化に対応しながら柔軟にやり続けることである。(p.30)

リーダーはメンバーそれぞれが置かれている状況を踏まえ、各人の性格までも考慮したうえで、その人にとって最も大事な価値観に想いを馳せることが重要だと説きます。そのうえで、その人の価値観に合った動機付けとセットで仕事を割り当てることができれば、自然と現場は動き出し、その積み上げが企業の底力につながっていくと言います。

(企業組織の強さの根源は、)動機付けられた現場人材たちが、こまごまとした職務規定や指示命令なしに、自発的な創意工夫や相互補完で臨機応変に目的を達成していく力にある。(p.15)

確かに社員の話をよく聴くことは大切ですが、ここで気をつけなければいけないのは、単に「その人がやりたいことをやらせればよい」ということではない、ということ。優れた上司は、本人もまだ気づいていない長所や得意分野をより活かすために必要となる職務経験までをも見据えて、あえて幅出しのために本人が希望しないような配属をすることがあります。そんな時、じっくり時間をかけてその配属の意図をきちんと説明し、動機づけをする。そして、中長期的に本人の成長振りをウォッチし、適切なフィードバックを行う。こうした正しいインセンティブの共有がいったんなされれば、社員も上司もそして会社全体にとってもwin-winの関係が築けるはずです。

ただし、その前提として、上記のような育成の観点を持って部下を育成・配属する管理職をきちんと評価する仕組みがあることが重要。冨山さんは本書で「ひとりの人間も、集団としての組織も、インセンティブと性格の奴隷である」と表現していますが、経営陣が考える「正しい姿」を助長するようなインセンティブ設計をその会社の人事考課制度や管理会計の仕組みの中にきちんと作り込むことができているか?

先週のエントリでも触れましたが、こうしたビジョン、社風のようなものを社員一人ひとりにまで根付かせ、自然な行動として表出させるためには、経営者の精神論だけではなく、それを正当化する各種制度面での改革もセットで進めることが肝要と考えます。この意味では、経営に対する危機感が共有されている会社の方が思い切った改革をしやすいという点で有利とも言えるのではないでしょうか。

そして、冨山さんが最後に力説しているのが、これからの日本に求められる経営者像について。「これまでの日本が何よりもできていなかったこと、そして、今もってなおできていないことは、その時点でベストな人間をリーダーとして選ぶということ」と主張する彼は、「できれば三十代から」「まわりに上司が誰もいない状況に放り込む」ことで「自分が決めなければいけない状況に追い込む」ことを推奨しています。

マネジメントエリートになる人間は、三十歳で一度、全員、キャリアをリセットさせてはどうだろうか。全員、一度クビにしてしまう。(中略)そして五年間、脱藩浪人として武者修行に出る。地を這い、泥水を飲んでくる。もし、それでもう一回、元いた組織が、あるいは別の組織が、使えるに足ると判断すれば、雇われる。こうやって育ったエリートなら、(中略)全く違う角度から、新しい視点を与えてくれると思う。(p.198)

少々極論にも聞こえますが、僕は少なくとも、前向きなキャリアアップ目的の転職をしていったん会社を離れた人材が他流試合を重ねて技を磨き、視野を広げてきたうえで、改めて元の会社で働きたい、というケースがあった場合は、積極的に相応の待遇で受け入れるべきと思います。日本の大企業ではこうした「出戻り」人材を正当に評価・受け入れしないケースがまだ多いように感じていますが、ステークホルダーが複雑化・多様化する一方の現在では、下手に過去の延長で当たり障りのない5年間を過ごした人材よりも、リスクを取って外の世界で揉まれてきた人材の方がより正しい価値判断をしうる素地があるでしょう。

同じ会社、同じ仲間と同じような仕事を続けている方がずっと居心地が良いですが、これでは一定期間を超えると成長の余地はほとんどなくなってしまいます。多くの職場を抱える大企業ほど、企業内あるいは企業間の人材ローテーションをもっと重視するべきと考えます。また、こうした人材の流動化を実際に進めるためには、現場のノウハウの「見える化」が必須となるため、属人的なスキルを形式知化する契機にもなります。

ページをめくるごとに「そうだよな」と同感しつつ、自分の会社に当てはめて色々と考えさせれました。典型的な日本企業の構造的な問題点を肌で感じながら数多くの修羅場をくぐり抜けてきた筆者ならではの、冷静で、かつ熱い想いを感じることができる一冊です。現役の経営者のみならず、現状に飽き足らない中間管理職にもオススメします。

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2011年01月15日

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経営共創基盤代表 冨山さんの著書

読書メモ
「人は足りない」が多い組織は人を減らした方が効率化する。
→不必要なプロセスが多いことが多い

会社は頭から腐り、現場から再生する
→ドラッカー 管理職の生産性は昔から改善されていないという話と一致

コンサルをするにあたって
人や組織は機械ではない
→人間であることを忘れるな。合理だけでなく情理をそなえる。

個人、組織、社会の動機付けの同期化
→武田塾の動画プロジェクトの話とかぶった。よく分かる。
 本当の意味での全体最適を探るのが大事だ。

規模の経済と密度の経済を考慮
→中小企業ほど後者を活かすべきだと思う。土屋カバンもそんな感じか

飲み屋の話題が昔の自慢話になったら経営者は交代
→経営、マネジメントにゴールはないのだろう

産業再生は会社を救うのではなくその中にある事業、とりわけそれを支える人材である。
→人がすべての知識社会においてこれは腹に落ちる。

再生を担う人間に必要な3つの能力
1 事業を知っていること 2 経営を知っていること 3 人間に対する洞察力

ゲマインシャフト(村社会)の問題は主犯の分からない腐敗が進む
→挑戦をしない風土、減点方式、いわゆる優等生が上に進むシステムを変えないといけないと思う。

情報に意味をつけたインテリジェンスに昇華させられるか。



ガバナンスとは経営者が適切であるかどうかの判断を行い適切である者を経営者にさせること
かつての有効なガバナンス
メガバンク制、官僚によるコントロール、財閥
現代に必要なガバナンスはどんなものだろうか?



いろいろと示唆に富む内容だった。

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2010年12月04日

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確かにこの著者は経験・実績もあり、言ってることも筋が通っている。
経営者をやるからにはそれなりの覚悟を持ち、私利私欲だけではなく、社会のために・・・ということだが、なにかしっくり腑に落ちないところもあった。
だが、ところどころ良いことも書いてある。

P118
・人間は安心したい生き物
・人間は、自分が見たい現実しか見ない生き物
・企業の再生は言い訳との戦い

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2020年02月24日

Posted by ブクログ

・性悪説でも性善説でもなく性弱説で見ると見えてくる
・相互安全保障を目的とした会議や根回しの業務量は人と人の組み合わせの数に応じて増えていく
・組織のハコをいじっても、成果主義を導入しても、それらが現実に仕事をする人間の根源的な動機付けに響き、シンクロしていないならば絶対に機能しない。
・戦略が仮説にすぎないことを本質的に理解し、やってみて、検証することに精力を注いでいる会社こそ、経営戦略が実践されていると言える。
・79 四つたして4で割る
・管理職の地位で付加価値を生むには相当の能力が必要
・ストレス社会というが硫黄島決戦に投入された兵隊たちを超えるストレスが現代に存在するだろうか。
・クビになることを厭わないような人間を育てる。周りに上司が誰もおらず、自分が決めなければいけない状況に追い込む。
・人間のインセンティブの中には非経済的なものがたくさんある。過去からの思いやメンツ、自分の得意なことをしたい、新しいことはやりたくない、といった気持ちが次々に折り重なって人は仕事に向かう
・観の目つよく、見の目よわく 宮本武蔵

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2018年12月09日

Posted by ブクログ

産業再生機構でCOOを務めた冨山和彦氏が日本企業の競争力低下の原因となる構造的問題を語っている。書中何度も引用される、ゲマインシャフト=共同対社会、ゲゼルシャフト=利益追求社会というくくりは正直わかりにくい。当然、前者が日本、後者が欧米ということであるが、ドイツ語で聞き慣れない概念なので、簡単なことがむしろわかりにくくなっている嫌いがある。説明がわかりやすいだけに勿体ない。

本書では、日本のこれまでの競争力の厳選は、経営トップやそれを構成する一部の高学歴エリートではなく、現場の人たちの底力にあるとしている。カネボウやダイエーなどの再生の実例を通じて、日本の不振企業の問題の本質をえぐり出しているのは面白い。冨山氏が就任した時点での年齢は44際だったという。そして、カネボウで社長として抜擢した当時課長クラスの知識賢司氏は41歳であった。冨山氏は、もし将来リーダーを目指すのであればその準備をしておくべきだと述べている。人事は、関係者に対する経営戦略の最大のメッセージであるというが、当時のカネボウの関係者たちは驚いただろう。しかし、冨山氏は知識氏にはすでにその重責を担うだけの準備ができていたのがすぐに分かったという。

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2018年10月09日

Posted by ブクログ

実践的な経営の役割についてまとめられています。

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個人も組織も「”インセンティブ”と”性格”の奴隷」であることを受け入れ、行動を取ること

「戦略を策定した後に、経営上本当にやるべきことは、戦略を、PDCAをまわす道具として、冷静かつ合理的に利用すること
「企業の強さを分けるのは、PDCAの回転力の差」
「初期的な戦略施策のよしあしよりなどよりも、この違いの法が、はるかに大きい。」

「挑戦すれば報われるインセンティブが、日本の企業社会にはなかったということなのである。」

「マネジメントは、自分の意思と言葉を持っていなければならない。自分の頭で考えて、自分の意思で勝ち抜こうという人間でなければ、本当に厳しい状況で正しい解を創出できないし、おそらくは厳しい施策となるとその解を断行しようとしても、現場はついてこない。」

ガバナンスの真の使命:
・経営者、経営陣をして企業価値を長期的、持続的に高めるように努力させること
・その過程で生じるさまざまなステークホルダー間の利害対立を、企業価値の本質的な向上という共通のゴールに向けて調和合一する後ろ盾となること
・これらの役割について一義的に責任を負っている経営者、経営陣に、的確性がないと判断したら果敢にその任を解き、適任者を選任すること

「自分が得られる全ての情報を把握し、自分が考えられるすべての状況判断の中で、ベストだという判断を自分がしたとしても、勝負というものは時の運である。経営は結果責任である。うまくいかなかったら責任を取らなければならない。その覚悟を最低限、持てるかどうかが問われる。」

「とにかく賛成する人間が多いことをやる。反対する人間が明確にいる状況では、間違えれば責任を追及されるからである。」

「どれだけ一人ひとりの姿勢にいきる人々の切ない動機付けや、喜怒哀楽というものが理解できるか」

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2014年03月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

冨山氏の著書は2冊目です。(1冊目は対談形式だったので実質1冊目か?)
筆者の言いたいことは、エピローグの最後に詰まっていると思います。
「経営において最終的に大事なものは、マネジメントする人の志です。経営の仕事は、社会や他人の人生に大きな影響を与えます。経営の単位が企業であれ、国家であれ、使命のために体を張る覚悟がなければ、引き受けるべきではありません。リーダーとは、そういう存在です。」<p222より>
この部分が私の考えと同じです。単に夢や目標ではなく、『志』となっているあたりがミソですね。

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2012年04月01日

Posted by ブクログ

経営論についての本です。

各論よりも総論の部分が多く、経営者とかマネジメントの仕事してる人にとってはすんなり入ってくる感じがします。


自分的には一度読んだだけでは理解ができなかったです。しばらくしたら、もう一度読みたい本でした。

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2011年10月14日

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