あらすじ
宅間守は2001年6月、大阪教育大学附属池田小学校で児童・教諭を殺傷した。
2003年8月、死刑判決を受け、2004年9月、死刑が執行された。
本書は、宅間守と17回面接し、精神鑑定を行った精神科医による初の著書である。
大阪地方裁判所へ提出された精神鑑定書を、ほぼそのまま収載している。
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なんというか、いろんな意味で読んでおいた方がいい本だと思った。
宅間守の根本的な問題は、
・自分に対する理想と自分の現実の不一致
・その不一致を自分ではなく他者や社会に帰責しようとする心性
の2つ、要は「分不相応な高望み」と「自己中心的な他罰性向」ということだ。
しかし、この2つをまったく持たない人なんているだろうか。「自分がうまくいかないのは、◯◯のせいだ」とまったく考えたことのない人など、ほとんどいないに違いない。であれば、誰もが、大なり小なり宅間守になる素質があるのだと思う。
それにしても、読んでいて「とんでもないモンスターだな」と思いつつも、誰かがどこかの時点で掛け値なしに彼を愛してやることはできなかったものだろうか、というような、すこし哀しい感じも受けた。最終的に、彼はもうどうしようもないくらいに歪んでしまったわけだから、極刑も妥当だとは思うけれど、やはりそういう哀しさみたいなものは拭えなかった。
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私は全くの素人ですが、宅間守は臨床経験や鑑定経験を多く持つ著者 岡江氏でも、これといった具体的な診断を迷わせる人物であったことがよくわかった。
この本は法廷ドキュメントでもないし、重大事件のノンフィクションにありがちな著者の私的感情も読者への煽りもない、ただの報告書である。
読み進めると「宅間守はどうしてこんな人間に育ってしまったのだろう?」と思うことが多々あるけれど、お医者さん目線で観察され考察されたことが書かれているので淡々と読めた。
専門的な難しいところもあるが、適度に補足もあり素人にも読めるように配慮されているのがよくわかる。
が、内容が内容なのでスラスラとは読めない。ツライ描写もある。
重複部分も多々あるが、鑑定というのはそれだけ慎重に何度も振り返って考え、導き出されているのだろうと感じた。
この犯罪は許されることでは絶対ないけれど、宅間は社会に対して自分の適合のなさをある部分では自覚していたようなので(フォローするわけじゃないけど)とても孤独な人生だったのではないかなと思う。
他人と繋がりを持ちたい気持ちはあるのに、周りが真っ暗の無人島に一人というイメージ。
少しは理解者のような人も居たようだけど(案外電話する仲の人が数人居る)、気になることがあると頭にこびりついてしまって現状満足できない。
どういう方法で誰とどういう関係を持ったらいいか、または修復したら良いか、立ち直ったら良いか、どうやっても普通のやり方がわからない、孤独な人という気がする。
心理テストの結果や考察、あと、前頭葉の血流量の低下が関連がありそうで興味深かった。
ここまで強烈な嫌がらせや行動やもちろん犯罪はしないけれど、正直感じ方が自分とほんの少し共通点があり怖くなった。
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大変興味深かった。病院の相談員も一部登場。一度措置入院になっている経過があっても、地域関係機関とのつながりがなかった(と思われる)のは、宅間のどの診断にも当てはまりにくいことがあったのか。この事件がきっかけで医療観察法ができたわけだが、この法律があっても池田小事件を防げたとは思えないというのは筆者の語る通り。事前の段階で、長期入院という形ではなく、宅間のような人物を監視という形ではない形で、見守っていくにはどうしたらいいのか、考えさせられる。
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自験例を彷彿させるところもあり、読むほどに背筋が凍る。
専門外の人にも分かりやすく(鑑定書には必要な条件)、奇を衒わず、かつ、鑑定人の思考過程や苦慮したようすがありありと伝わってくる真摯な鑑定書。事件以前に宅間を診察したことがある多数の精神科医の診療録や証言、看護記録、なども生々しい。
本事件によって一挙にあと押しされて成立した医療観察法であるが、当の宅間自身はこの法律があったとしても適応外とされたであろう。残された課題を思えば、皮肉ではすまされない。
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強姦、暴行、傷害、万引き、無免許、恐喝、当たり屋、ストーカー、窃盗、詐欺、動物虐待、住宅侵入、器物損壊…
池田小事件までに、これらの犯罪を犯してるヤツが、なんでシャバをうろついてんねん。刑務所からだしたらあかんやろ。
町内にこんなん1人いたら、グチャグチャにされるで。
死刑に異議なし。
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2001年6月、大阪教育大学附属池田小学校で児童・教諭を殺傷した宅間守の精神鑑定書。
家族歴、本人歴、本件犯行、現在症、診断、鑑定主文から構成されています。
この本を通して、精神鑑定の道すじについて、初めて知りました。
医療観察法についても思いを馳せながら、読みました。
責任能力の有無に関わらず、やはり、自ら犯した罪については、償ってほしいという思いが、私の中にあります。
それが刑務所の中なのか、病院とのつながりの中なのかの違いがあるだけだと、私は受け取りたいです。
この犯罪行為自体は、絶対に許せないものです。
死刑が確定し、刑の執行に至るまでの間、この罪を償う気持ちを抱くことができていたのだろうかと、そんなことを思いました。
精神科医療、刑事司法、学校教育(宅間氏も、かつては学校に通う子どもであったのですから)の角度から、それぞれの「できること」を考えていけたらいいな、と思います。
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凶悪犯罪者の心理や生育歴を記した貴重な1冊。特に犯行時の証言は胸くそが悪くなった。
事件以前のことも多く書かれていたが、少年の頃から起こしていた悪事の数々に唖然。窃盗、傷害、強姦、脅迫……等々、犯罪のオンパレード。凶悪事件に行き着く前に、このような人間をどうにかするような仕組みを作る必要があると強く感じた。罪無き人間が損をする世の中を作ってはいけない。
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子育て中の身として、何をどう間違えたらあのような人格を持った人間が誕生するのか、知る必要があると思いました。
残酷で目を覆いたくなるような表現が多数出てきます。読んでいてぐったりしてしまいました。
彼が年上女性との婚姻中、女性から保護されている関係にあるうちは、暴力的な問題行動も落ち着いていたらしい。
決して家庭環境だけが原因ではないのかもしれないが、
仮に彼が胎児期から幼少期に、深い深い愛情を受け、自己肯定感を育まれていたら、このような人格形成には至らなかったのではないかと思われる。
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鑑定書を出版するというのは批判を恐れてなかなかできないことではあるが、大きな事件でもあるし、資料的にも価値がある内容。
白眉はやはり統合失調症との鑑別か。
宅間は被害妄想や注察妄想を呈してはいるが、その場限りの一過性のものがほとんどで、妄想対象も漠然とした不特定他者へ拡散したりすることはない。不安や猜疑、恥辱、嫉妬などに由来するある程度了解可能な妄想様観念であり、妄想反応というべきもの。Scのそれとはかなり異なっている、とのことで、シュナイダーのいう情性欠如者に該当する。それに反応性の妄想、気分変調が重なったものである。制御能力などは低下しているが、人格に由来するもので責任能力には影響なし、という結論。
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附属池田小事件は、忘れられない事件だ。
その事件を起こした宅間守とは、どういう人間だったのか。
知れば知るほど、人間とは思えない人だ。
なぜ、このような人間になってきたかが、よくわからなかった。
持って生まれた気性なのか、それとも育った環境なのか。
病気のようにも見えるし、性格にも見える。
あんなに早く死刑にしてよかったのだろうか?
どうすれば、彼は改心したのだろうか?
いろいろ考えさせられる本。