【感想・ネタバレ】終わらざる夏 上のレビュー

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Posted by ブクログ 2023年02月27日

「浅田次郎」の戦争小説『終わらざる夏』を読みました。

「半藤一利」の『新装版 太平洋戦争 日本軍艦戦記』に続き、第二次世界大戦関連の作品です。

-----story-------------
〈上〉
1945年、夏。
すでに沖縄は陥落し、本土決戦用の大規模な動員計画に、国民は疲弊していた。
東京...続きを読むの出版社に勤める翻訳書編集者「片岡直哉」は、45歳の兵役年限直前に赤紙を受け取る。
何も分からぬまま、同じく召集された医師の「菊池」、歴戦の軍曹「鬼熊」と、「片岡」は北の地へと向かった。
―終戦直後の“知られざる戦い”を舞台に「戦争」の理不尽を描く歴史的大作、待望の文庫化。
第64回毎日出版文化賞受賞作。

〈中〉
「片岡」の一人息子「譲」は、信州の集団疎開先で父親の召集を知る。
「譲」は疎開先を抜け出し、同じ国民学校六年の「静代」とともに、東京を目指してただひたすらに歩き始めた。
一方、「片岡」ら補充要員は、千島列島最東端の占守島へと向かう。
美しい花々の咲き乱れるその孤島に残されていたのは、無傷の帝国陸軍、最精鋭部隊だった。
―否応なく戦争に巻き込まれていく人々の姿を描く著者渾身の戦争文学、中編。

〈下〉
1945年8月15日、玉音放送。
国民はそれぞれの思いを抱えながら、日本の無条件降伏を知る。
国境の島・占守島では、通訳要員である「片岡」らが、終戦交渉にやって来るであろう米軍の軍使を待ち受けていた。
だが、島に残された日本軍が目にしたのは、中立条約を破棄して上陸してくるソ連軍の姿だった。
―美しい北の孤島で、再び始まった「戦争」の真実とは。
戦争文学の新たなる金字塔、堂々の完結。
(解説/「梯久美子」)
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集英社が出版している月刊小説誌『小説すばる』の2008年(平成20年)6月号から2009年(平成21年)10月号に連載された作品で、第64回毎日出版文化賞受賞作です… 歴史の闇の中になかば隠れつつあった太平洋戦争終戦後(もしくは終戦準備・戦闘停止 期間中)における占守(シュムシュ)島での戦いにスポットをあてた物語、、、

1945年(昭和20年)8月9日、ソ連は日ソ不可侵条約を一方的に破棄して対日参戦… ポツダム宣言受諾により太平洋戦争が停戦した後の8月18日未明、ソ連軍は占守島も奇襲攻撃し、ポツダム宣言受諾に伴い武装解除中であった日本軍守備隊と戦闘となり、戦闘は日本軍優勢に推移するものの、軍命により21日に日本軍が降伏して停戦が成立、23日に日本軍は武装解除されたが、捕虜となった日本兵はその後大勢が法的根拠無く拉致され、シベリアへ抑留された という史実を忠実に辿りながら、アメリカとの和平交渉の通訳要員として兵役年限直前の45歳で招集された翻訳書編集者「片岡直哉」、岩手医専卒・東京帝大医学部の医学生で軍医として招集された「菊池忠彦」、大陸でたてた手柄で金鵄勲章を授与された鬼軍曹で4回目の招集で占守島に送られた「富永熊男(鬼熊)」の三人の登場人物を軸に、過酷な状況下での人間の本質を照射しつつ、それぞれの場所で、立場で、未来への希望を求める人々を描いた巨編(上・中・下で約1,050ページ)です。

重層的で物語の奥行が深く、人物造形にも優れている作品だったので、読んでいるうちに、どんどん作品の中に引き込まれていき、登場人物の目線で物語が展開していく感覚で読み進めていくことができました… 『終章』では、辛いとか、哀しいというよりは、胸が苦しくなるような気持になり、「鬼熊」の母親に宛てた手紙や、少年兵「中村末松」の遺した押花帖が出てくる場面では、涙が止まりませんでした、、、

戦争は終わったのに、戦闘が始まる… この大いなる矛盾の中で、戦う兵、死にゆく兵、戦争の禍々しさと非情さ、そして愚かさに胸を打たれましたね。

終盤の戦闘シーンは、その少し前から登場していたソ連の現場第一線の兵からの目線で描かれているのですが、彼らもまた、終わったと思っていた戦争で、再び命を賭して闘わなければならないという矛盾を抱えながら行動しており、戦争というものの非情さや非人間的な部分が、巧く描かれていたと感じました、、、

この戦闘の矛盾を訴えた「アレクサンドル・ミハイトヴィッチ・オルローフ中尉(サーシャ)」の報告書には共感する部分が多かったですね… 略奪を目的とした大義なき作戦行為は、現場では誰も望んでいないんですよね。

不条理な戦争(戦闘)に、国土とそこに暮らす人々を守るために誇り高く戦った人たち… 軍人も民間人もそれぞれの誇りと愛するものを守るために戦ったんですよねぇ、、、

久しぶりに読書しながら泣いちゃいました… 涙が止まらないほど感動した、忘れられない作品でした。



以下、主な登場人物です。

「小松少佐」
 大本営参謀。参謀本部編制課動員班の動員担当者

「甲斐中佐」
 陸軍省軍事課員。参謀本部編制課に合流

「佐々木曹長」
 盛岡聯隊区司令部第三課動員班長
 
「蓮見百合子」
 盛岡聯隊区司令部の庶務係。岩手高女の女学生

「遠山敬一郎大佐」
 盛岡聯隊区司令部司令官。地元の名士

「佐藤金次」
 滝沢村役場の戸籍係兼兵事係

「勇」
 滝沢村役場の給仕の少年

「片岡直哉二等兵」
 東京外国語学校卒の翻訳書編集者。岩手県の寒村出身。
 英語通訳として招集され占守島に向かう

「片岡久子」
 片岡の妻。女子高等師範卒の文学書編集者

「片岡譲」
 片岡の息子。国民学校四年生。信州に集団疎開しているが疎開先を抜け出す

「吉岡静代」
 譲と同じ国民学校の六年生。信州に集団疎開している。譲とともに疎開先から東京を目指す

「小山雄一」
 国民学校の教師。四年男子学級の担任

「朝井マキ子」
 国民学校の教師。六年女子学級の担任

「岩井萬助」
 渡世人。懲役に服していたが、召集のため放免される

「尾形貞夫」
 片岡と同じ出版社に勤める、翻訳書出版部の部員。
 警視庁で洋書や英文記事の検閲を行う

「尾形佐江」
 尾形の妻。夫妻で久子の住まいに引っ越す

「野中良一」
 久子の異父弟。フィリピンで戦死

「野中きぬ」
 久子の母。久子の父親との離婚後、良一の父親と暮す

「安藤仁吉」
 東京で岩手県出身者たちの面倒をみる篤志家

「菊池忠彦軍医少尉」
 岩手医専卒の医師。東京帝大医学部に在籍。
 招集されて占守島の軍医となる

「富永熊男軍曹」
 盛岡のタクシー運転手。金鵄勲章を授与された軍曹。
 四回目の招集で占守島へ向かう

「吉江恒三少佐」
 第五方面軍司令部参謀。敗戦処理の任務を負う

「大屋与次郎准尉」
 戦車第十一聯隊第二中隊段列長。旭川出身

「中村末松兵長」
 戦車第十一聯隊第二中隊段列の少年兵。東京出身

「池田大佐」
 戦車第十一聯隊長

「岸純四郎上等兵」
 南方帰りの船舶兵。三陸の宮古出身

「工藤軍医大尉」
 野戦病院の軍医。菊池の岩手医専での先輩

「渡辺中尉」
 第九十一師団副官。札幌出身

「森本健一」
 日魯漁業社員。占守・幌筵島の漁場と缶詰工場の責任者

「石橋キク」
 缶詰工場で働く女子挺身隊員。函館高女の卒業生総代

「沢田夏子」
 缶詰工場で働く女子挺身隊員。キクの同級生

「ヤーコフ」
 占守島出身のアイヌ。色丹島の診療所で助手を務める

「池田大佐」
 戦車第十一聯隊長

「アレクサンドル・ミハイトヴィッチ・オルローフ中尉(サーシャ)」
 ソ連軍の将校。シベリアに住むコサックの子孫

「ボクダン・ミハイトヴィッチ・コスチューク兵長(ボーガ)」
 ウクライナ出身のソ連兵

1
ネタバレ

Posted by ブクログ 2020年08月22日

戦後75年、絶対にしてはいけなかった日米開戦、浅田さんの「終わらざる夏」でそれを実感したかった。終戦間近、岩手県に3枚の赤紙が届く。菊池(東大医学部学生)、片岡(英語翻訳家)、富永熊男(軍曹で戦争の達人)。この3人が根室港から北の孤島・占守島に向う。この3人にはそれぞれの人生があり、家族がいる。赤紙...続きを読むを届ける役人、受け取る家族。「おめでとうございます」「ありがとうございます」。この何とも言えない絶念の挨拶。無数に届く赤紙の数だけ、家族が絶念してしまう。絶対にしてはいけなかった戦争、鎮魂とともに読んでいく。

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Posted by ブクログ 2020年05月05日

コロナ緊急事態宣言で巣ごもり状態での読書。
昭和20年6月下旬、既に敗色濃厚の処から話が始まる。
これから中、下巻に向かって波乱が起こってくるだろうが、上巻では登場人物の紹介に多くが割かれている。
悲惨を予感させるものは、残される者の姿。
匂いまでを感じさせる描き方に引き込まれる。

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Posted by ブクログ 2016年10月09日

戦争に巻き込まれた人たちの哀しい物語。
たくさんの登場人物の視点から、戦争の悲惨さ、理不尽さをあらわした物語です。

千島列島の最北端の占守島の戦い舞台に、さまざまな視点から話が語られることでて、戦争の悲惨さを浮き彫りにする展開となっています。
沖縄戦の悲惨さをよく耳にしますが、このような最北端のそ...続きを読むれもポツダム宣言受諾後の哀しい戦いがあったことを覚えておく必要があると思います。

上巻では、翻訳編集者の片岡、医師の菊池、傷痍軍人の鬼熊に赤紙がきて召集され、3人が占守島へわたるところが語られます。
赤紙を発行する側の思いと発行されたそれぞれの思いが語られています。
赤紙を受け取った側の思いの話はよくありますが、召集令状を発行する側のつらい思いも当然あるんですよね。
その辺が丁寧に語らることで、戦争の悲惨さが伝わってきます。

また、妻を満州においてきた戦車隊の段列長、さらには身長150CMの少年兵が軍隊に志願するまでの話などが語れています。

こうしたさまざまな人の生き様が下巻に向けてどうなっていくかがポイントになっていきます。

中巻に続く..

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Posted by ブクログ 2016年04月03日

太平洋戦争終戦直後の北海道における、悲劇的な残戦を描く浅田次郎の大作。
静かな序盤から、少しずつ哀しいラストへ向かう雰囲気・臨場感と焦燥感に圧倒され、要所要所での登場人物たちの誇りや生き様の魅力に当てられ、手が止まらない。
書き口も、読み易いながら程よく詩的で、哲学的で、情緒もあり、ストーリーと相ま...続きを読むって印象的なシーンは多い。
なにより多くのことを考えさせる、決定的な訴求力がある。小説の力を感じる傑作だと思う。
5+

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Posted by ブクログ 2014年11月06日

終戦直後、千島列島の尖端であるシムシュ島での日本とソ連の戦闘を描いた作品。人物はほぼフィクションだが、浅田次郎ならではの丁寧な調査に基づく事実と、少しの幻想が入り交じっているところが物悲しさを増すところもあり、安心させるところもあり、泣ける。戦争文学だと沖縄戦や南方戦線の数々、広島、長崎、東京大空襲...続きを読むを扱ったものが多いし、最近読んだ傑作「永遠のゼロ」は特攻隊の物語。しかし、この北方戦は地元に近いだけにより胸に迫るものがある。

最もぐっときたのは次のセリフ。「たとえミカドの勅命に逆らおうと、国家の意思に対する反逆であろうと、ふるさとを奪われてはならない。スターリンも共産党もありはしない。ひたすら母なる大地を守らんとする正義という本能のあるばかりでした。」やっぱり故郷なんだな。一方、千島=日本固有の領土という前提だが、明治以前は先住民族の千島アイヌがいたわけで、100年単位で見ると領土とか民族の解釈はとにかく難しい。

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Posted by ブクログ 2014年02月16日

占守島の死闘やシベリア抑留は、新潮文庫「8月17日、ソ連軍上陸す」を読んで知っているつもりでした。私的にハズレなし作家がどの様に表現するのかと、少し意地悪な気持ちで購読。

登場人物から語る言葉により、太平洋戦争末期、占守島での著者流のストーリー展開される。
見逃せないのは、戦争に参加せざるを得ない...続きを読む事情が、日本だけでなく、対戦国(ソ連)にもあったはずだということを悟らせてくれる。
これこそが本当の主題であり反戦を伝えたい著者のメッセージだろう。
二巻で子ども達の戦いが始まり、。また、主人公の出征の理由が明かされる。
三巻は、主人公のラストシーンは、賛否あるかもしれないが、私にとっては良かった。
意外なのは、戦車隊の活躍する描写が少なかったことだ。
著者が陸上自衛隊に所属していたが故に、思い入れがあり過ぎるため、敢えてあっさりと終わらせたのかなと邪推します。
プチミリオタの私程度では、反論することが出来ないぐらいに作品を作るまでの資料収集•分析は、国民作家の実力。

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Posted by ブクログ 2014年01月22日

人の幸せは、極めて単純なものなのに、こんな理不尽な戦いの為に奪われた。戦争末期に招集された兵隊の、現実的な不幸に今まで気がついていなかった。

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Posted by ブクログ 2013年09月19日

上巻。
戦争末期の日本を舞台に主人公たちのいままでの半生と、赤紙がくるに至った背景が描かれる。
浅田節全開の戦争文学で、胸をつかれるようなエピソードが多数。

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Posted by ブクログ 2024年01月08日

太平洋戦争末期にアリューシャン列島の最先端部である根室から1000キロ、ソ連のカムチャッカ半島先端と目と鼻の先の占守島(シムシュとう)に取り残された戦車部隊の奮闘を描いた作品。ぜひ実写化して欲しい。
「終わらざる夏」は第11戦車連隊の顛末だけを描いた作品ではない。徴兵された元出版社勤務の45歳の老兵...続きを読む、缶詰工場に送られた女工達、上陸作戦に駆り出されたソ連兵、その後のシベリア強制労働など、さまざまな人の織り成すドラマ。
第11戦車連隊の兵士の目線と上陸部隊のソ連兵の目線と、両方から語られる。
心に響いたのはヤクザ者の萬吉が45歳老兵の子供(集団疎開中だが脱走)を助けるシーン。
浅田次郎は戦争の悲惨さを伝える事に人生を賭けていると感じる。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2023年07月21日

歴史物は、よく知られた事件に関してはおおむねネタバレである。
現代に生きる我々は、昭和20年の8月15日に、玉音放送で全日本国民に敗戦を知らされるということを知っている。
だから、昭和20年7月などという日付を見れば、ああ、もう少しで終わるのに、と思う。
しかし、当時でももう少しで終わるだろうと予感...続きを読むしていた人たちがいたとて、赤紙が来たならば逆らうことはできないのである。
今私たちがこれを読んでどうすることもできない。
しかし、知っておくことくらいは出来る。そして大切だろう。

時に、昭和20年7月。
すでに沖縄は陥落し、軍は本土決戦に向けて最後の「根こそぎ動員」にかかっていた。

プロローグでは、その「動員」の仕組みが描かれる。
今まで、よく知らなかった部分だ。
参謀本部は動員の人数割を決めて下命するだけ。
どこに何人。ここでは具体的な名前は上がらないし、個人の顔は見えない。
それが地元まで下ろされて初めて、人数に合わせて名前が与えられ赤紙が下るのである。
「地元」で、人員を選び出す苦悩。
人口の少ない地方の村ゆえ、名簿のほとんどは顔見知りである。
自分が兵隊に行くより辛い。
戦争が終わったら腹を切って死ぬつもりだ、と村役場の戸籍係兼兵事係。

この「根こそぎ動員」で岩手県から招集された、主要人物となる人たちが、最果ての占守(シュムシュ)島に集結するまでが上巻である。
本土決戦を想定した、人数的にも異常な動員に加え、「特業」動員では単なる頭数合わせではなく、確実に「使える」人物を選定しなければならず、村の兵事係は血眼になって名簿を繰る。
結果、【首を傾げるような招集】となったのは、彼らの持つ『特業』が理由だった。

・片岡直哉(かたおか なおや)は【兵役年限ギリギリの45歳もあとひと月残すのみ。極度の近眼】で、徴兵されたことはない。
東京の出版社で翻訳の仕事に就いていた。『英語に堪能』である。
・菊池忠彦(きくち ただひこ)は【東京帝大医学部に在籍中】だったが、実は岩手医専を出てすでに『医師免許』を持っている。
もう、岩手県は無医村だらけである。
・富永熊男(とみなが くまお)はタクシー運転手。この男だけは歴戦の軍曹で、金鵄勲章を授与されている。ただし、名誉の負傷で【右手の指が三本失われている】。
現在と違い、『運転免許証』を持つ人物は多くはなかった。

皆の来し方が語られ、すっかり感情移入してしまっている。
ここから、誰が生き残り、誰が命を終えるのか・・・
タイトルが示すように、彼らの戦いは、8月15日には終わらないのだろうな。

0

Posted by ブクログ 2023年03月12日

市ヶ谷台で行われる大本営・動員班参謀というエリートが起草したのは命を数値化した無機質な動員表だった。それは末端である東北の盛岡連隊区、そして村役場に伝達されれば、一人ひとりの顔と名前が想起しうるものとなる。動員の最前線に立たされた村役場吏員。赤紙に翻弄される国民。敗戦処理の通訳として動員されたとは知...続きを読むらぬ片岡。不足する軍医を補充するため召集される菊池。激減した運転要員の代替として召集された鬼熊。その3人が運命の渦中に巻き込まれる描写が、戦争の悲惨さを否応なく際立たせる作品。中巻へ読み進める。

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Posted by ブクログ 2022年02月08日

占守島の戦いを描く歴史小説。占守島は千島列島最北端である。日本の無条件降伏後にソ連が攻撃してきた。日本軍は占守島で善戦し、ソ連の侵攻を遅らせた。占守島の戦いがなければ北海道までソ連に占領されていたかもしれない。その意味で日本を持ち上げたい立場にとって占守島の戦いはもっと知られて良いものである。しかし...続きを読む、日本軍が占守島で善戦できたことは大本営の戦力配備のミスの結果であった。

大本営はアッツ島玉砕後に米軍が千島列島沿いに日本を侵攻すると考えた。そこでソ連との国境を守る関東軍の戦車部隊の精鋭を占守島に配備した。ところが、米軍は南洋諸島を攻略し、そこから日本を攻撃したため、千島列島を攻める必要はなくなった。この頃の日本は輸送船が不足し、占守島の戦車部隊を輸送することができず、遊兵となってしまった。ソ連は精鋭部隊のいるところに攻めたため、苦戦は当然である。

占守島の善戦は大本営のミスの結果であり、「日本凄い」ともてはやす話ではない。公務員的な資源配分の失敗によって、たまたま占守島が手厚い布陣になっただけである。逆に占守島に精鋭を配備した結果、満州のソ連国境が手薄になり、ソ連軍は容易に満州を攻略できた。その結果、満蒙開拓団の多くの悲劇が起きた。もっとも関東軍はソ連の侵攻に際して民間人を見捨てて我先に逃げており、そのような関東軍の配下にいるよりは占守島に配備した方が良いと言えるかもしれない。

『終わらざる夏』は占守島の戦いがテーマであるが、下巻に入っても占守島の戦いは始まらない。根こそぎ徴兵や学童疎開、勤労動員など終戦時の日本人の生活を描くことが主眼である。戦記物を期待すると肩透かしになるかもしれない。

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Posted by ブクログ 2021年10月28日

(上中下含む)
文庫で3巻構成だが、読むのに苦労を感じることはなかった。
強く熱い信念を持つ人物が多く、かっこいい。鬼熊すてき。
終戦時期における千島列島が舞台というのはほとんど知識がなかったので勉強になった。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2019年01月03日

浅田次郎はお約束の「鉄道員」とごく一部の短編集を手に取ったほかはあまりこれまで縁のない作家であったのだが、ほかの多くの人と同様、「終戦後に北方領土に取り残された日本軍がいた」という歴史的背景に興味をひかれて読んでみることになった。

北方領土どころか当時の日本領の最北端、カムチャッカ半島のすぐ南、占...続きを読む守島(しゅむしゅとう)の日本軍は終戦の8月15日以降にソ連軍の猛攻を受け、これを撃退しながら、最期は武装解除されたらしい。この部隊に様々な背景を持った(多くは招集された一般市民が)集まってくる経緯が小説の多くの部分を占める。

大本営が策定する何十万人単位の本土決戦計画が各自治体に下達され、県庁、さらには村役場と降りてくる過程で召集令状の宛先となる個人名が特定されていくシーンは綿密な取材を想像させ非常に読ませる。

また、そうした応召兵だけでなく、満州の精鋭部隊も配置転換されてくる。彼らは行き先を知らされない。(激戦の)南方か北方か、まさかとは思うが本土帰還か。戦車がディーゼル型とガソリン型に分けられ、ガソリン型の隊員が「寒さに強いガソリン部隊は南方はない」とひそかに安どするシーン、港で防寒服を返納する命令がなく兵士たちが喜びにどよめくシーンは胸に迫る。

同時に作者は東京の留守を守る家族も丁寧に記述する。調布から京王線で新宿に通勤する人がいる。新宿の伊勢丹はにぎわっている。が、変電所を爆撃された京王線は新宿手前での折り返し運転となり、伊勢丹の壁には機銃掃射の跡が残る。このあたりの描写は「ついこの間の非日常」を読み手に強く意識させる。

物語終盤では、鉄道員さながらのファンタジーめいた展開が「さあここで泣いてください」とばかりに展開し、そういうのはちょっと、という人もいそうだ。というか私もその一人だったのだが、それでも作者の思い、メッセージは強く訴えかけてくる。浅田次郎は集英社の「戦争×文学」の編纂を担っている。「記録」ではない「記憶」を残そうという意思はこの小説にも強く表れているように思う。

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Posted by ブクログ 2018年11月05日

千島列島の先端、カムチャッカの目の前にある占守島でおこった8/15より後でのソ連との戦闘に材をとった小説。舞台は占守島だけでなく、出征する兵隊を見送った東京・盛岡や、疎開先の長野にわたる。群像劇仕立て。

直球勝負で好みの作風であり、題材も絶妙。ただ、やや器用さが先行したきらいがあるか。赤軍将校と疎...続きを読む開先の子供との夢幻的な交わりのところも面白い。こういうことができるのは小説ならでは。

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Posted by ブクログ 2018年07月16日

 綺麗に書くなら戦争の悲劇が、汚く書くなら戦争のクソッぷりがよく分かる小説です。

 年齢や身体の状況などで、本来であれば招集されるはずのない人々に、赤紙が渡され否応なく戦争に巻き込まれていくのです。

 不意の招集に衝撃を受けるのは、兵士以上にその家族です。特にこれまで何度も招集に応じ、指を失って...続きを読むいるにも関わらず、再び赤紙を渡された鬼熊とその年老いた母。二人のそれぞれを思う心情と、それに関わらず引き裂かれる場面は、戦争の理不尽さや不条理さを、改めて示していると思います。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2018年03月07日

暗い内容で気が滅入り、読む終えるまでに何ヶ月もかかってしまった。
入れ替わり立ち代わりそれぞれの立場の人間が語り手となっていく手法だったが、読みづらいと感じたときもあった。
占守島の戦いのことは全く知らず、たまたま聞いていたラジオ番組のゲストが著者で本書の紹介をしていたため、手に取った。
日本でこの...続きを読む戦いの知名度は低いが、教科書に載せても良いのではないだろうか。

結末は救いがなく、心が重くなった。
生き残った人々はシベリアに送られ、無事に帰国できたかどうか胸が痛い。
娯楽のための読書はすばらしいが、ときどき本書のようなジャンルを読むことは大事なことなのかもしれない。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2016年04月05日

この話は、第二次世界大戦末期の最北の島「占守島」の話。

いろいろな立場の人が出てきます。
東京でこの戦争の作戦をまとめている軍人、
東京で働いていて召集されるはずがない45歳の翻訳家、
そして焼け野原に唯一残った近代的なアパートに暮らす妻
父の召集を知り疎開先から脱走した息子と
道を共にした女の子...続きを読む
二人の疎開先の先生。
二人と夢を介して出会ったロシア兵。
何度も召集されてその度に話を盛り立てられて金鵄勲章をもらった指のない軍人、
召集される人々のため病気を偽って申告し続けた医者、
体が小さくて戦車に乗れない少年兵とそれを教育する老兵、
大本営から終戦の際に立ち回るために占守島にやってきた参謀

などなど

本当にたくさんの人が登場する。

そして最後にはそのほとんどが死んでしまいます。
その死はなんだかとてもあっけない。



終わらざる夏を読んで、
一番に思ったことは
信じていること、想ったことに関わらず
運命が定められた人生が
あの時代にはいくつもあった、ということ。
日本だけじゃない。ロシアだけでもない。
たぶん、戦下ではみんなそう。

戦う理由がわからない。
でも戦わなくては殺されてしまう。
そうお互いが思いあって
言葉を交わしてわかり合う暇もなく殺しあう。

銃を撃つそれぞれの個人は、
相手に家族があることも、ましてや命があることも
お互いにわかっているのに、
戦局のために戦う、殺しあう。

何でもあって安全で自由な現代を
あの戦争で死んだ人たちに見せてあげたい。
この時代に生まれついていれば、
きっとあなたも選ぶことができただろうね。
そして本来はあなたもそうあっていいはずだった。
言葉が通じていれば、わかりあって
殺しあう必要なんて何もなかったはずなんだ。


よく、お国のためにって戦って死んで行く日本兵の映画があるよね。
でも、それは洗脳されていたわけではなく、
心の中にある生きることへの気持ちを
お国のためって言葉で押し隠すために
誰かが言い始めて、広まったんじゃないかなと思った。
何かのためにという理由がないと戦えなくて死ねないから。
命を投げ打って戦えないから。


本の中で、このあとの世界では
人々は戦争なんて愚かな行為はしないだろう。
この戦争でそのことを知るんだと書いてあったの。
きっとあの戦争に関わった人は
一人の例外もなくそれを望んだんだろうな。
こんなことはもう世の中から消える、
そのために今自分は死ぬんだと思って
たくさんの日本人や敵国の人々が死んだんだと思う。
それなら無駄ではないって。

でも、まだしてるよね。
もうすぐ70年になろうとしてるのに
今も地球上には戦争がある。
くだらないね。
愚かだ。


国防軍の話。
自衛隊は盾だと思うのです。
自衛隊の任務は戦うことじゃなくて
「守ること」

災害から人を守る
隣国の脅威から人を守る
もしものときに、攻撃から国民を守る

戦いを仕掛けられないというのは
日本が第二次世界大戦から得た宝物だと思う。
おかげで日本には戦争がないし
たぶんこれからもない。
日本人は戦争が勝っても負けても失うものしかないことを知ってるから。
戦う術がないというのは、それだけで平和への一歩を進んでることになるよね。
今の日本なら、戦後日本がしてきた世界貢献のことを考えたら
戦わない日本に対して戦争を仕掛けた国は
世界から孤立するだろうなと思う。

あの頃の日本とは違うから。
戦後、日本は武力で権力を得るのではなく
優しさで心からの信頼を得る方法を選んだ。

外国の人は決まっていうよね。
日本人はみんな優しいって。




終戦のエンペラー見ようと思います。
今年は終わらざる夏をきっかけに
終戦について考える夏にしよう。

#ブログのコピー

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Posted by ブクログ 2014年09月07日

1945年の終戦間近になりながら、本土決戦に向けた準備をする。歴史として知っていることはわずかばかり、知らないことの中に多くの物語がある。上巻では急遽召集された編集者の片岡、医師の菊池、いったんは除隊した鬼熊軍曹がであって北の地へ向かうまで描く。切なく悲しい物語は淡々と力強さをもちながら進んでいく。

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Posted by ブクログ 2014年02月17日

先ほど、上を読み終わった。前半は、登場人物の紹介みたいな感じで、若干退屈ではあったが、じわじわと面白くなって来た。余り知られていない、終戦間際の北方領土。上の段階では、大きな動きはないが、この後一体どうなるのだろうと言う、期待と不安で読む速度も徐々に速くなっていく。沖縄戦や硫黄島とは違う、太平洋戦争...続きを読むがここにある。

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Posted by ブクログ 2013年09月15日

上巻は登場人物の背景を描いて終わりという感じ、でもおそらく壮大な物語の導入部、ゆっくりと重々しく動きだす。

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Posted by ブクログ 2019年05月12日

終戦まじかの市ヶ谷で大営からの隠密指示で終戦交渉に動きつつありその状況下で各戦地に英語通訳の派遣選定を進める。英語通訳の人選では当時45歳上限の赤紙発行対象に苦学で結婚し1男の子を持つ片岡の元に届く。矛盾を感じながら当時おめでとう!!と言われ言わざる得ない状況。。で戦地に赴く。

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Posted by ブクログ 2024年03月24日

大正生まれの人たちが次々と兵隊にとられたんですね。
たしか、祖父の兄たちが何人もそれで亡くなりました。
そのとき、曾祖母は何を思ったのか…。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2021年12月26日

終戦近くに訳あって召集された人たちが今後どうなっていくのか期待。

序章は参謀が苦慮しながら動員計画を作るところからはじまり、その計画に応じ召集する人物を決める担当、赤紙を届ける配達人とそれぞれの苦労を描いた後に、赤紙により呼び出された片岡、菊地軍医、鬼熊と共にシュムシュ島へ向かう。

当事者それぞ...続きを読むれを描くとによりこの戦争に対して誰もが疑問を抱きながら生きていたことが伝わる構成。
さすが浅田次郎!

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Posted by ブクログ 2016年06月03日

太平洋戦争末期の話。
思っていたよりも穏やかな空気が流れている作中。
中、下巻でどうなるか。
このまま穏やかにと願うけれど、きっとそうはならないのだろうな。

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Posted by ブクログ 2014年08月21日

見落としてはいけない、沖縄陥落以降の北方守備隊の話。あり得ない召集にもかかわらず前向きな主人公たちに胸が痛む。

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Posted by ブクログ 2013年11月03日

終戦末期の登場人物達の背景が描かれていく。赤紙一枚で否応無しに戦争に行かねばならない当時の状況の理不尽さや兵隊に憧れる少年達など目の前で見てるかのように感じられる。

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Posted by ブクログ 2013年10月02日

登場人物が多くて、それぞれ平行して進む構造なのですが
そこは浅田次郎。さすがの筆力でそれぞれのドラマを描き分けます。

敗戦目前の日本にあって、
新たな部隊を編成し赤紙を書く者、赤紙を届ける者、赤紙を受け取る者の
それぞれの立場の物語が描かれる。

特に編成側の話ってあまり聞いた事がなかったから興味...続きを読む深い。

1945年、終戦の年。
一億玉砕が叫ばれる中、編成の中には冷静な人間も当然いて。
この戦争は間もなく終わる。終戦を見据えた編成が必要だと、
前線に英語ができる人間を送り込もうというのは、
当時としては相当なアクロバット人事だったと思う。

それによって動くはずのなかった人材が動き、
物語が動き出す。
一路最果ての地、対馬列島最北端、占守島へ。

上巻は各キャラクターの土台語りのようですが
丁寧に描かれるので読み応えがあります。
このパートにこのボリュームを持って来れるのが
多作作家の手腕ということか。

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Posted by ブクログ 2013年08月29日

時は1945年。沖縄が陥落し、いよいよ本土決戦が想定されいる日本。
新たに召集された片岡他主人公達は、千島へ集められていく。

戦争が結末へ向かう中、召集された目的も分からないまま、
片岡達は運命にその身を委ねていく。
果たして彼らの行き着く先は?

全3巻に及ぶ大作の上巻である本書は、
登場人物達...続きを読むのバックボーンを中心に描かれている。
登場人物の多さ・方言・戦争用語のせいもあって、内容がやや難しい面も。
いよいよ、本編とも言える中巻以降に期待。

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