あらすじ
◤推薦◢
◉寺尾紗穂さん(音楽家・文筆家)
「子を守る福祉とは?
黒人一家の歴史と離散を描き、虐待家庭への介入の在り方を問う労作」
◉武田砂鉄さん(ライター)
「抜け道はどこにあるのか。
誰が塞いでいるのか。
塞ぐ手をどうすれば剥がせるのか。」
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★2022年・ピュリツァー賞受賞★
頭脳明晰で運動神経も抜群の少女ダサニは、妹や弟の世話に追われ、自分の時間を持てずにいた。
だが、全寮制のハーシースクールへの転校を機に、貧困の悪循環から抜け出す道が見えはじめる。
一方、家族は形だけの貧困支援制度や機能不全の児童保護システムに翻弄され、崩壊寸前に追い込まれる。
離れて暮らすダサニは、その苦境に何もできない自分を責め、生活が荒れていく。
黒人たちはなぜ貧困に陥り、抜け出せないのか──。
ニューヨークに生きる少女とその一家に10年密着。歴史的・構造的な要因と福祉制度の欠陥を描き出し、貧困の本質に迫る壮大なノンフィクション。
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◉オーウェル作品に比肩する名著──「サンデー・タイムズ」
◉サイクス家の貧困の連鎖は、構造的な人種差別の典型例に思える。彼らのような人たちは、袋小路に追い込まれている。本書はこの事実を、読む者をたじろがせるほど明晰に示している。──「ワシントン・ポスト」
☆オバマ元大統領 ・2021年のお気に入りの本
★「ニューヨーク・タイムズ」紙・2021年の10冊
☆「タイム」誌・2021年のノンフィクション10冊
★J・アンソニー・ルーカス図書賞ほか多数受賞
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【目次】
まえがき
プロローグ
第一部 「家は居場所ではない」──2012年から2013年
第二部 サイクス家──1835年から2003年
第三部 ルーツ喪失の心の傷──2003年から2013年
第四部 「その火に焼かれるぞ!」──2013年から2015年
第五部 ダサニの旅立ち──2015年
第六部 「どんな生き方にも耐えられる」──2015年から2016年
第七部 ダサニの道──2016年から2021年
あとがき
訳者あとがき
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Posted by ブクログ
今でこそ日本ではホームレスが少数派だが、それこそ戦後間もない頃は、皆、戦争で家も家族もなくして、二重の意味でホームレスだった。少数派、といいつつ、派遣年越し村など、生活困窮者への支援はその時々にて行われた。また、最近では、ヤングケアラーという言葉がようよう一般的になり、核家族化が進み、まだ大人になっていない子供が、本来保護者たる親を支援して、学習や生活に支障が出るという問題も表面化してきている。
アメリカは日本よりも国土が広く、更に民族も入り乱れている。更にアメリカは自主独立の精神がより尊ばれ、日本のような国民皆保険といった医療保障制度がない。多くは、雇用主が補償するあるいは個人で購入する民間医療保険に加入している。よって、世界最高と言われるアメリカの医療を、貧しい人は受けることができない。“貧しい人”のカテゴリに入るのは、概ね黒人である。
少女ダサニは、ヤングケアラーだ。祖母、母と義父がいたが、祖母は亡くなり、両親は窃盗や薬の常習犯だ。両親の不在時、長女の彼女が妹や弟の世話に追われ、自分の時間を持てない。当然勉強が疎かになる。それでも頭脳明晰で運動神経も抜群な彼女に、全寮制のハーシースクールへの転校という、ビッグチャンスがもたらされる。貧困の悪循環から抜け出す道が見えはじめたが、家族とは離れる。ケアしてくれる親がわりを失った家族と、生活様式や言葉の端々に、いわゆる白人らしさを身に着けていくダサニの間はぎくしゃくし始める。一方、家族は不備のある貧困支援制度や機能不全の児童保護システムに翻弄され、崩壊寸前に追い込まれる。本来、大人達がケアして、ダサニは自分の本分たる勉強に集中し、貧困から抜け出す道を探さなければならない。しかし、愛する家族だからこそ、切り捨てることはできない。自分だけが幸福でいいのだろうか?という考えに至ってしまい、せっかく順風満帆だった学校生活に暗雲がさす。
本当は、家族全体を、いや、社会全体をごっそり“改善”できればいい。正解はわかっているが、財源はどこも苦しく、配分先は吟味される。個々を見てケアするという細かいことはできない。そんな問題ありの両親とは、悪影響を断ち切るためにも引き離した方が手っ取り早いと他人は思うかもしれないが、無理やり家族を引き裂くことになる。日本においては、虐待を繰り返す母から引き離した方がいい、という例がニュースなどで報じられており、必ずしも家族一緒にいることが幸福とは限らない。親切な他者の方が、子供の未来のためになる場合もある。大切なのは、当事者たる子供の意見をないがしろにしないことだ。見えない存在でいた彼等を見出し、助ける時にも、目の前にいる子供を見ずに、決めてはいけない。
2022年・ピュリツァー賞受賞作。