あらすじ
人は死ねば子孫の供養や祀りをうけて祖霊へと昇華し、山々から家の繁栄を見守り、盆や正月にのみ交流する――膨大な民俗伝承の研究をもとに、日本人の霊魂観や死生観を見いだす。戦下で書かれた晩年の傑作。
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Posted by ブクログ
日本人が何をどのように信じ、どのように生きてきたか、「日本人の心の原風景」は文字に書き残されていない。そのために、日本人の心の探究は、民俗学というかたちをとらざるを得なかった。地方に足を運び、老人たちの物語りに耳を傾けて、それらをつぶさに記録するという、膨大なエネルギーを要する作業である。
その最高峰の仕事が、柳田国男と宮本常一であろう。
本書では、古来日本人が、人は死ぬとその魂は隔絶した世界に行くのではなく、山に帰っていく、と思いなしていたこと、山の高みに登っていく過程で魂が浄められて神々になっていくこと、この世とあの世は断絶しているのではなく、往還可能であり、盆、正月、彼岸には先祖は生者のもとに還ってくることなどを信じていたことが語られる。
そして、家々で祀る先祖とはふたつのカテゴリーがあり、ひとつはその家のルーツとなる先祖、もうひとつはその家で祀らなければほかの誰にも祀られることのない祖霊たちのこと、だと柳田は言う。
この本が書かれたのが、多くの日本人が死に、死者を祀る家まで多く死に絶えることになった大東亜戦争末期の、昭和20年4月から5月にかけてである、ということの意味の重さを噛みしめさせられる。
柳田国男の使命感の重さに、こうべを垂れざるを得ない。
Posted by ブクログ
この本にかかれている先祖に対する考え方は、昭和30年代頃まで一般的だったと思われる。
その後、核家族化の進行や脱宗教などを背景に変化が生じており、先祖への崇敬は廃れてきている。
いずれにせよ、日本が世界のなかで長寿企業が多い背景には、この本に書かれている宗教的事情が事業の永続に対して多大な好影響を及ぼしたことがあると考えられる。
Posted by ブクログ
本書そのものが素晴らしいし、柳田も冴え渡っていて筆も乗っているのだけども、ただただ大塚英志の解説が素晴らしい。柳田の婉曲な反撥を喝破して解説できている。巻末解説ありなしでは本書の評価もずいぶん変わったのではあるまいか。
柳田の思想の結集したような所もあるので、いきなりこれを読むのではなく、初期の頃の柳田の論文をある程度読んでから手にすればそう分かり難いものではない。
加えて柳田の明晰な文章は、国内の研究者たちは手本にすべきものとして、殊に文章読本のように読んでも良いかもしれない。日本語とはこうやって書くものである。
何もかもが良い。満点。