あらすじ
落ちぶれていた辣腕ジャーナリストのシトロンは、くせ者政治屋ヘールに雇われる。現政権の大きな弱みともなるスキャンダル情報を入手すべく、協力を求められたのだった。勇躍、中米の軍事国家へと調査に向かったシトロンは、隠蔽されていた同国での過去の不祥事の内実を探りにかかるが……。あらゆる面白さをごった煮(スープ)にし、思わぬ展開と粋な対話で編み上げた、騙(かた)りと企みのタペストリー!(解説・小野家由佳)
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Posted by ブクログ
新潮文庫は偉い! ここのところ古いロス・トマ作品をチョイスし翻訳し、流行りの時期が過ぎたとは言え、初訳、しかも文庫での出版という、ファンとしては垂涎ものの本を供給してくれているのだ。古い時代の作家なので今更ロス・トマと言ってもわからない人は多いのかもしれないが、かく言うぼくにとっては海外探偵小説及びハードボイルドを語る上での最高レベルの作家の一人がこのロス・トーマスであり、当然ながらぼくは全作読破しており、前作に愛着を覚えている者の一人である。
ロス・トーマスの全盛期は1980年代(現在70歳のぼくが20~30代の頃)であり、パソコン通信で冒険小説&ハードボイルフォーラムを主宰していた時期に最大級に自信をもっておススメしていた作家の筆頭でもある。MWA最優秀長編賞を獲得した当時の話題作『女刑事の死』以来、邦訳が連続していた時代ということもあるが、何と言っても独特の語り口や、ストーリーテリングの裁き方などに奇妙なユーモアやアイロニーがある上、登場人物の個性が豊か過ぎて好きになってしまうキャラの多さたるや世界トップクラスの筆の冴えとしか言いようがない、等々、褒めちぎり放題の当時の状況であった。
本書はその『女刑事の死』直前の長編作とあって、ロストマらしさがやたらに発現された作品であるように思う。二人主人公作品というのはこの作家の場合全く珍しいことではないのだが、本書ではその二人の個性が際立っており、国際色も豊かで、見えるものが見えたそのままではないという妖しさや、登場人物の背景に立つ家族や関係者たちの存在までもがどこか胡散臭く見えるところなどは非常にこの作家の天才ぶりを見せてくれるものである。
語り口の妙は読み易さというところに繋がるし、見えているものが後に異なる光に投影されると全く別のものに変化してしまうというイリュージョニスト的作風もこの作家独特のものである。軽妙な語り口と猫の眼のように変わる視点と、なによりも我らが主人公たちの(本書でも主人公は二人の性格・境遇の異なる男たち)魅力的な行動力学が読書の推進力である。
ショッキングな冒頭のシーンから、様々な人物の光と影が軽妙に交錯して、ラストのどんでん返しに雪崩れ込むロストマ節をこの時代になってもまだ新作として味わえる奇跡がまさに有難い。新潮社さん、この勢いでどんどん未訳作品を世に出して頂けることを願ってやみませんよ。
Posted by ブクログ
2026年の6冊目は、ロス・トーマスの「悪党たちのシチュー」です。恥ずかしながら、初めて、ロス・トーマスを読みました。1983年の作品ながら、今読んでも面白いのは、傑作の証だと思います。謀略スリラー、コンゲーム、バディ物の要素も有り、1つに括るのは、難しいです。
冒頭のシトロンの強烈な体験の回顧シーンから、ラストのヘールの場面まで、緩むこと無く進みます。
トゥカモンドに到着してから、ラストまでが本当に素晴らしいと思います。特にラストの回収シーンが大好きです。脇役の登場人物1人1人まで、きちんとキャラクターが立っているのも、流石だと思います。翌年に発表された「女刑事の死」もぜひとも、読みたい所です。
☆5.0
Posted by ブクログ
アフリカ某独裁国家の刑務所で食人という悪夢を経験したことでトラウマを抱えて帰国し、落ちぶれていた辣腕ジャーナリストのシトロンは、くせ者政治屋ヘールに雇われる。現政権の大きな弱みともなるスキャンダル情報を入手すべく、協力を求められたのだった。勇躍、中米の軍事国家へと調査に向かったシトロンは、隠蔽されていた同国での過去の不祥事の内実を探りにかかるが……。思わぬ展開、魅力的な人物造型にも磨きがかかった、悪だくみと騙し合いの極旨ごった煮【シチュー】は、1980年代を代表する巨匠の大傑作。
痛快な小説。ロス・トーマスをまだまだ読みたい!
Posted by ブクログ
唯一無二のシブさに痺れちゃう!政治の裏側で生きる悪党たちの犯罪&政治諜報小説 #悪党たちのシチュー
■あらすじ
アフリカの刑務所に収監されていたジャーナリストのシトロン、帰国後に政治家の資金調達係であるヘールに雇われる。ライバル政治家が不利になるゴシップ情報を収集すべく行動するも、様々な利害関係者がふたりを襲う… 国をつかさどる悪党たちの犯罪&政治諜報小説。
■きっと読みたくなるレビュー
この唯一無二な感じ、さすがロス・トーマスですよ。古き良きアメリカンクライムムービーを観てるみたい。
まず物語の冒頭、最初のシーンで一気にストーリーに引き込まれますよね。主人公のひとり、ジャーナリストのシトロンがアフリカの刑務所で強烈な体験をするのです。
めっちゃ不愉快なプロットなんだけど、緊迫感やカッコよさも同時にあるという不思議さ。これから何がおこるか分からないというワクワク感も押し寄せてくる。いやー、さすがですね。
このシトロンは無茶で退廃的な人生を歩んできた影のある人物なんです。謎の男っぽさがモテる秘訣なんだよなー。しかもまた母親も実力者らしく、裏社会では暗躍してそう。でも親子関係には暗い過去があって… といったように、人間性に厚みがあり過ぎんのよね。
もうひとりの主人公、政治屋のヘールもシブイ。狡猾で抜け目ないイメージ、彼もきっとモテるに違いない。この二人がどう絡み合うかってところが読みどころなんすよ。そんなモテそうな二人には当然イイ感じの女性がいる。もちろんロマンスの描き方も小綺麗でセンス抜群でした。
物語の筋としては、政治的ライバルを陥れるためにゴシップ情報を手に入れようとする前半。中盤以降は、様々な権力者が登場して犯罪もスケールアップ。さらには中南米の政治家、将軍との駆け引きが拡大していく。
正直なところ途中途中のディティールはよくわからなくなるんだけど、丁寧に説明しないところが魅力なんだよね。本筋は犯罪&政治諜報小説だと思うんだけど、冒険小説でもあり、人間ドラマでもあり、まさしくシチューのごった煮です。でも終盤にかけてはちゃんと清々しさもあって、長い映画を楽しんだような気分を味わえますよ。
偉大な小説家ロス・トーマスの新翻訳、1983年の作品。もちろんクラシックな作品ではありますが、無類の独自性があって、いつも新しさを感じさせてくれるんすよね。さらに混沌とした政治の裏側を描くところなんか、まさに現代こそ読んでおきたいですね。
■ぜっさん推しポイント
めっちゃシブい作品でしたね~。背中で魅せるカッコ良さがあるんですよ。あと洋画のラブシーンって、やたらカッコイイじゃないですか。あんなのを文字で楽しめるってのがイイすよね~
以下、本文引用 110頁。こんなクールな文章は、他ではなかなか味わえないと思うの。
――魅力的で身なりのいい女とひどく悲し気な顔の男を眺めた。ただの政治関係の仲間というだけじゃない。たぶんベッドもともにしている仲だ。そう思いながら、自分のことを認めているのに気づいて少し驚いた。何かを認めたり、認めなかったりするのは、少なくとも二年ぶりのことだった。