あらすじ
16歳のヴラジーミルは、別荘で零落した公爵家の年上の令嬢ジナイーダと出会い、初めての恋に気も狂わんばかりの日々を迎えるが、ある夜、ジナイーダのところへ忍んで行く父親の姿を目撃する……。青春の途上で遭遇した少年の不思議な“はつ恋”のいきさつは、作者自身の一生を支配した血統上の呪いに裏づけられて、無気味な美しさを奏でている。恋愛小説の古典に数えられる珠玉の名作。
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「女の愛を恐れよ。かの幸を、かの毒を恐れよ」
16歳のヴラジーミルが別荘で出会ったのは令嬢ジナイーダ。高飛車で魅惑的な彼女に一目で恋に落ちたヴラジーミルは、初恋に気も狂わんばかりの日々を送っていた。しかしある日、彼女の様子がおかしいことに気づいてしまう…。
海外文学で描かれる“魅力的な女の子”は、不安定で自由奔放、そして傲慢なことが多いように感じます。どこがいいのかと首を傾げてしまうこともしばしば。この作品のヒロイン、ジナイーダもそんな“魅力的な女の子”の一人。自由奔放で傲慢なジナイーダに呆れつつも、だんだんと惹かれていってしまいます。
16歳のヴラジーミルが年上のジナイーダに翻弄されてのめり込んでいく心の機微が美しく描写され、甘くて苦い初恋の儚さが痛いほど胸に刺さる作品です。
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Posted by ブクログ
青年が年上女性に恋する話。ツンデレな女王様って感じだった。多くの男子を侍らせてたけど、恋した相手は既婚者っていう思ったより泥沼な話だった。でも文章が綺麗なおかげですらすら読めた。
父親が鞭でその子を打って、主人公の元に鞭を無くして帰ってきた時に、鞭を「捨てた」っていうのは、なんか、深い…!!と思った。
ー良いと思った部分ー
いったい何をあてにしていたのだろう?みすみす自分の前途を台なしにするのが、どうして怖ろしくなかったのだろう?そうだ、とわたしは思った、ーこれが恋なのだ、これが情熱というものなのだ、これが身も心も捧げ尽すということなのだ。.....そこでふと思い出されたのは、いつかルーシンの言ったことであるー『自分を犠様にすることを、快く感じる人もあるものだ』(115ページ)
Posted by ブクログ
終始不穏な雰囲気でそれがすごく刺激的で読む手が止まらなかったです。
読んでいる最中に、主人公の父親に対する宗教的な尊敬が、主人公の純粋さを表していると思いました。また、若さゆえの身内を疑わない姿勢もよかったです。
ジナイーダは、周りから好意を寄せられているにも関わらず、既婚者である主人公の父親と関係を持ち続けているのも、若さゆえの自己犠牲の表れ、それすらも楽しんでいると感じました。
ジナイーダと関係を持つ男性が存在している手がかりが色んなところに散りばめられており、先の展開を想像しながら読むのが楽しかったです。中盤、父親の死んだ年齢だったり、愛する人にすでに恋人がいた時は相手を殺す、みたいな会話があって、私は最後に主人公が父親を殺して終わるかなと思ってドキドキして読んでました。
恋とは自己犠牲である。全てを失ってでも愛したいのであれば、それが恋である。この小説で伝えたいメッセージはこういうものだと思いました。
令和の今でも共感できることが多くて、この小説が1800年代後半に出たのが驚きです。
Posted by ブクログ
思ってたより読みやすかった。
当時のロシアの歴史的背景は分からなかったけれど興味深く読めた。
魔性の女ジナイーダ、いくら叡智で美人でもこんなモテるのはむしろ恐ろしい、
ウラジミールと今同い年だけど、彼の序盤のジナイーダへの想いは未熟で幼いものに感じられた。
彼にとってはジナイーダが恋した相手が実の父だということより、自分が崇拝してやまず、絶対に敵わない、神聖視していたジナイーダも恋をすると弱くて脆いただの女になってしまうことの方がショックが大きかったのではないかと思う。
終盤は死について多く触れているように、ジナイーダがウラジミールの父に恋をした時に見せた弱さの延長線上に死があったからかなと。
どちらにせよ初恋がこんな不思議で薄暗いと結婚なんてする気にならないわなぁ。
Posted by ブクログ
こてこての海外古典を時々読みたくなる。ガーディアン1000作品である「初恋」を堪能。ツルゲーネフの自叙伝らしい。ウラジーミル(16歳)は隣に越してきた年上の公爵令嬢ジナイーダ(超美人の21歳)に恋をする。彼女は公爵家ではあるが貧しい。ウラジーミルは母の莫大な財産で裕福な家庭で育つ。ジナイーダはプライドが高く、ツンケンしてウラジーミルを手玉にとる。時々キスされたりして舞い上がる。彼の最大の恋敵は父親であることを知る。金・権力で女性を折檻する父親への尊敬、憤怒。さらにジナイーダの父への恋心、何とも切ない。⑤
絶対にジナイーダは私には恋をしないだろうなぁ。強引で豪傑なこの父親のようにはなれないなぁ。残念。
Posted by ブクログ
初恋の時に味わったような感覚が美しく文章化されている。しかしヒロインはとんでもない曲者…。そんなヒロインでさえ恋に落ちると、あんなふうになるのも面白かった。何というか行間に色々なものが詰まっている本だったように思う。
鞭で打たれるところはもはや恋ではなく、愛とも言えるのではなかろうか…。
Posted by ブクログ
19世紀ロシア文学。青春小説に分類されそう。
爽やかな青春ものかと思っていたら、途中から雲行きが怪しくなり、最後は苦い思い出として描かれていた。
ハッピーエンドにしない、男女のドロドロした描写は、ロシア文学や北欧系の作品に共通しているのだろうか。
父親の最期やジナイーダのその後は明らかにはされていない。しかし、おそらくはジナイーダが父親との子を身籠り父親を強請る。父親が動揺したまま病死もしくは自殺したのだろう。
読み終えてから知ったが、主人公の家庭環境は作者の幼少期をモデルにしている。なかなかに救いのない家庭だなと思える。
Posted by ブクログ
読書会の題材として選定された一冊。
語りの主体であるウラジーミルと同様、彼の父親も初恋だったのではないか、という意見が出たことが面白かった。たしかにまだ若いウラジーミルはともかく、子を持つ親としてあまりに年端も行かぬ少女に入れ込みすぎているという感覚は否めないため、なかなか説得力のある説ではなかろうか。
個人的には医者で皮肉屋のルーシンのキャラクターが好きだ。世の中を冷めた目で見、ウラジーミルにもキツい言葉を投げかけるが、彼もほかの男同様にジナイーダにお熱であることを考えるとその矛盾と人間らしさが愛らしくさえ感じられる。
ジナイーダの奔放さ、それに振り回されるウラジーミルたちの振る舞いはフィクションならではの展開と割り切って楽しむことができたが、ノートに記された物語として扱われている以上、締めには語り部たちに登場してほしかったというのが本心ではある。
Posted by ブクログ
ジナイーダは自分が魅力的なのを理解していながらも 決定付ける物は無くて、故に周りの男たちを言いなりにする事でどうにかして自尊心を保っていたのではないかと思うシーンが幾つかあった。
父親の描写が無いのも異性に執着する理由なのでは無いかと思ったのと父親と同じくらいの年齢の異性を肉感的に見てしまう点にやはり寂しさを感じた。
Posted by ブクログ
とても普遍的な話で、表現も詩的で、今に至るまで読み継がれている理由がよくわかる一作。
はつ恋の興奮や一喜一憂、青春の一回性や美しさ、恋の奥深さや残酷さ、人生というものの哀愁を書いている。
恋愛について改めて向き合おうと思い手に取ったが、やはり恋愛は苦しく哀しいものであるという感想を得たため、僕の恋愛に対する臆病さはまだ当分残存しそうである。
ジナイーダはそりゃかわいいが、罪な女である。
76 自分は、この人の目から見ればほんの赤ん坊なのだーと、わたしはしみじみ思い知って、ひどく辛い気持がしてきたのだ!
109 僕は、すっかり知っています。なぜあなたは、僕をおもちゃにしたんです?、、なんのために、僕の愛が入り用だったんです?
111 彼女の前へ出ると、まるで火に焼かれるような思いがすることだったが、、わたしを燃やしとかしてゆくその火が、いったいどういう火かということを、別に突き止めたいとも思わなかったのは、ただそうしてとけて燃えてゆくのが、わたしにはなんとも言えずいい気持だったからである。わたしは刻々の印象に身を任せっぱなしにした。そして自分に対して狡く立ち回って、思い出から顔をそむけたり、前途に予感されることに目をつぶったりした。
130 ああ、青春よ!青春よ!(中略)お前の魅力はつまるところ、一切を成しうることにあるのではなくて、一切を成しうると考えることができるところに、あるのかもしれない。ありあまる力を、ほかにどうにも使いようがないので、ただ風のまにまに吹き散らしてしまうことに、あるのかもしれない。