【感想・ネタバレ】ラスト ワン マイルのレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

【感想】
楡周平は、相変わらずカッコイイおっさん達を描かせたら一流だ。
こんなにも頭をフル回転させてビジネスを考えているおっさん達。
感動ではなく連動。読んでいて幾度となく心が震えてしまった。

現実はどうだろうか?
考えてみれば、ウチの会社でも部長などの上役たちは、途方もないくらいエゲツないノルマに対しても、決して怖じ気づかずに何とか突破しようと頭をフル回転させていると思う。
上に行けば行くほど過酷になる数字と終始向き合って、決して逃げず、そして最終的にはいつもしっかりと結果を残していると思う。

だが、課長以下のいわゆる末端構成員達ともなると、どうだろう?
途方のないノルマに対して尻込みするだけではなく、不平不満を口にし、若い者は転職という名の「鞍替え」を行ない、おっさん連中は現状維持のまま会社にしがみついている人が多い。
勿論それぞれ今まで歩んできた人生や経験があるので、一概にそれが悪い事だと断定できないが、要するに会社を発展させていこうという責任感が少し欠けているんだろうなぁ。
要するに目の前の数字を如何にして突破するかという「覚悟」が、末端までには充分行き届いていないんだろうなと、自分の会社の人たちを見てて思ってしまう。
(かくいう自分も、会社と己の立場に甘えてしまっている人間の一人である。。。)

この本の登場人物たちは、そういった人たちではない。
自分の今いる極限状況からも誰一人逃げ出そうとせず、「どうすればこの困難を突破できるのか?」「どうすれば楽園にたどり着けるのか」という事に対し、悪戦苦闘を繰り返しつつも日々試行錯誤を重ね、非常にバイタリティに満ち溢れた毎日を送っている風に見えた。
既存のビジネスを根底から覆すなど、余程の度胸や緻密な計算がないと出来ないだろう。
なのに、現状打破の為にそういった戦略を立て、実行する。
そうした数々の苦労の末に手に入れた「果実」は、間違いなくとてつもないくらい美味しいモノなんだろうなぁ。
「どうせフィクションなんだから…」と甘えた事も少々感じはしたが、これこそプロフェッショナルとして目指すべき姿だなと読んでいてとても胸が熱くなった。

同著者の「再生巨流」でもあったが、「頭に錐を刺して、血が噴き出るくらいに考えろ」という言葉は、こういった物語を読むたびにパワーワードとなって自分の頭の中を駆け巡る。
自分にも、もう少し改善の余地があるのではないか??そういう気持ちにさせてくれる1冊でした。

最後に・・・
寺島の上司の苦労を語る台詞が心に刺さった。
「横沢よ、ノルマを課せられてんのは、何もお前ら最前線で汗水垂らして客先を回ってる人間たちばかりじゃない。
お前が課員のケツを叩くように、俺もまた本部長から、本部長は社長から、社長は株主から、常に厳しいノルマを課され監視され続けてるんだ。
お前らにしてみれば、俺たち管理職は下の奴等のケツをひっぱたくばっかで、でかい椅子に腰掛けてさぞやいい身分だと愚痴の一つも言いたいだろうが、現実はそんな甘いもんじゃねえ。」

はい。
自分ひとりの小さなノルマだけを取り上げて、あーだこーだ文句を言うのはやめにして、とことん数字と向き合おう。
そして、凄まじいくらいの実績を残して、勝利の美酒に酔いしれることの出来る人間になろう。


【あらすじ】
本当に客を掴んでいるのは誰か──。
暁星運輸の広域営業部課長・横沢哲夫は、草創期から応援してきたネット通販の「蚤の市」に、裏切りとも言える取引条件の変更を求められていた。
急速に業績を伸ばし、テレビ局買収にまで乗り出す新興企業が相手では、要求は呑むしかないのか。
だが、横沢たちは新しい通販のビジネスモデルを苦心して考案。これを武器に蚤の市と闘うことを決意する。



【引用】
1.もちろん営業マンにとってノルマの達成が絶対的なものであることは十分に承知している。
ノルマは達成して当たり前、未達の営業マンは責任を厳しく追及される。
「横沢、お前新規の客をものにするために、これまでどんだけの努力をしたってんだ」
寺島の容赦ない言葉が胸を抉る。自分の営業スタイルに、油断や慢心がなかったと言えば嘘になる。

2.「確かに郵政は強敵だ。だがな横沢、やつらの行なっているサービスには一貫したパターンがある」
「何ですそれは?」
「オリジナリティがないってことだよ。つまり俺たち民間がやっているサービスをそのまま踏襲しているってことだ」
肯いた横沢に向かって寺島は続けた。
「要するに、連中には新規ビジネスを考える頭なんかありゃしねえんだ。ここに俺たちが生き残るチャンスがある」

3.「私が狙っているのは蚤の市でもなければ、ガレージ広場でもありません。我が社が独自でネット上にショッピングモールを開発するんです!」
「部長。もしも、もしもですよ。ウチが新たに開発した出店者に加えて、蚤の市、ガレージ広場の既存顧客を一気に総取りできるとしたらどうでしょうか?」

4.金か・・・そんなことしか思いつかない人間は、一生かかっても大金を手にすることはできないな。
金は女と同じだ。追い求めれば逃げる。能力のある人間が力をフルに発揮すれば黙っていてもついてくるものさ。
走ることをやめた創業者などただの豚だ。
人の一生はあまりにも短い。その中でも、全力疾走できる期間はわずかだ。
限りある時間をどう生きるか。それが人間の価値を決めるんだ。

5.横沢よ、今更話して聞かせるまでもねえことだが、業績にノルマを課せられてんのは、何もお前ら最前線で汗水垂らして客先を回ってる人間たちばかりじゃない。
お前が課員のケツを叩くように、俺もまた本部長から常に業績を監視されてる。本部長にしたって同じで、あの人は社長から、そして社長は株主から、常に厳しいノルマを課され監視され続けてるんだ。
お前らにしてみれば、俺たち管理職は下の奴等のケツをひっぱたくばっかで、でかい椅子に腰掛けてさぞやいい身分だと愚痴の一つも言いたいだろうが、現実はそんな甘いもんじゃねえ。

6.「安定は情熱を殺し、緊張・苦悩こそが情熱を生む。私の座右の銘は変わっちゃいませんよ」

7.武村vs寺島
はっきり申し上げて、宅配業者のサービスは行き着くところまできている。
どこの会社を使っても、差なんてありはしない。そういうビジネスの行き着く先は決まってます。
最後はどこの会社が安い料金を提示できるか?その一点にかかってかます。これがどれだけ惨めなことか分かりますか?

もう、我々はこりごりなんです。頭を使わないビジネスに汲々とし、ノルマ達成のためにどこよりも安い料金を提示するための稟議書を書くだけの日々を送ることにね。



【メモ】
ラストワンマイル


p27
もちろん営業マンにとってノルマの達成が絶対的なものであることは十分に承知している。
ノルマは達成して当たり前、未達の営業マンは責任を厳しく追及される。

「そんな先があるならとっくに営業をかけてるって言うがな。横沢、お前新規の客をものにするために、これまでどんだけの努力をしたってんだ」
寺島の容赦ない言葉が胸を抉る。
自分の営業スタイルに、油断や慢心がなかったと言えば嘘になる。


p29
「確かに郵政は強敵だ。だがな横沢、やつらの行なっているサービスには一貫したパターンがある」
「何ですそれは?」
「オリジナリティがないってことだよ。つまり俺たち民間がやっているサービスをそのまま踏襲しているってことだ」
肯いた横沢に向かって寺島は続けた。
「要するに、連中には新規ビジネスを考える頭なんかありゃしねえんだ。ここに俺たちが生き残るチャンスがある」


p53
なるほどそれが資本主義の原理そのものだと言ってしまえばそれまでだ。ビジネスの世界は食うか食われるか、そこに一切の甘えも許されないというのも紛れもない事実というものだろう。

だが、ビジネスは健全な社会があって初めて成立するものだ。真っ当に働いている人間たちの生活基盤までを奪うようなものであってはならない。
規模が大きくなればなったで、そこに連なる企業には正当な利益をもたらす義務が生じるものだ。
自分の夢を実現するためなら、もぎ取れる果実はすべて自分のものにするようではならない。


p67
寺島は小首を傾げ、少し考えているようだったが、
「お前が言いたいことはこういうことか。我が社が全国に持つ支店網、営業力を駆使してまだ一般には流通していない地方の食材や名産品を発掘し、それをネット上のショッピングモール、つまり蚤の市に出店させる。その開発実績と引き換えに、蚤の市との現行取引条件を維持しようってわけか」
些かの失望の色を浮かべながら、考えは読めたと言わんばかりの口調で言った。
「私が狙っているのは蚤の市でもなければ、ガレージ広場でもありません。我が社が独自でネット上にショッピングモールを開発するんです!」

「部長。もしも、もしもですよ。ウチが新たに開発した出店者に加えて、蚤の市、ガレージ広場の既存顧客を一気に総取りできるとしたらどうでしょうか?」


p78
「一定の株式を握ったところで、株価を時価以上で極東テレビに買い取らせ、金を掴んで手じまいする。そう踏んでいるだろうな」
「極東テレビの連中だってそう思っているだろうね。我々の目的は、金以外にないって」

「金か・・・そんなことしか思いつかない人間は、一生かかっても大金を手にすることはできないな。金は女と同じだ。追い求めれば逃げる。能力のある人間が力をフルに発揮すれば黙っていてもついてくるものさ」

「走ることをやめた創業者などただの豚だ。人の一生はあまりにも短い。その中でも、全力疾走できる期間はわずかだ。限りある時間をどう生きるか。それが人間の価値を決めるんだ」


p162
蚤の市が躍進を遂げるきっかけとなったオンラインショップはネット上での架空の商店街だし、相次ぐ買収で手に入れた証券や金融会社にしたところで、換金できる資産を持っているわけでもない。
IT産業はアイデア一つ、後はサーバーさえあれば十分に成り立つ点が最大の強みであり、逆に規模が大きくなればなるほど弱みになる。

ネットビジネスは、常に新しい技術によって駆逐される危険性を孕んでいるのだ。
人間が開発した技術というものに、未来永劫に亘って使い続けられるものなど存在しない。


p234
「部長、よく考えてください。いま我々は大きなチャンスを掴もうとしているんです。下請けに過ぎないと思われていた物流業が、実は全ての産業の生命線を握っている。まさにラストワンマイルを握っている者こそが絶対的な力を発揮することを世に知らしめる絶好の機会を目の前にしてるんです!」


p262
「横沢よ、今更話して聞かせるまでもねえことだが、業績にノルマを課せられてんのは、何もお前ら最前線で汗水垂らして客先を回ってる人間たちばかりじゃない。お前が課員のケツを叩くように、俺もまた本部長から常に業績を監視されてる。本部長にしたって同じで、あの人は社長から、そして社長は株主から、常に厳しいノルマを課され監視され続けてるんだ。お前らにしてみれば、俺たち管理職は下の奴等のケツをひっぱたくばっかで、でかい椅子に腰掛けてさぞやいい身分だと愚痴の一つも言いたいだろうが、現実はそんな甘いもんじゃねえ。」


p267
「安定は情熱を殺し、緊張・苦悩こそが情熱を生む。私の座右の銘は変わっちゃいませんよ」
「フランスの哲学者、アランの言葉やったな。お前あん時も同じことを言ったで」
ついに真壁は白い歯を見せて明らかな笑みを堪えた。


p338
・武村vs寺島
「はっきり申し上げて、宅配業者のサービスは行き着くところまできている。どこの会社を使っても、差なんてありはしない。そういうビジネスの行き着く先は決まってます。最後はどこの会社が安い料金を提示できるか?その一点にかかってかます。これがどれだけ惨めなことか分かりますか?」

「もう、我々はこりごりなんです。頭を使わないビジネスに汲々としぎら、ノルマ達成のためにどこよりも安い料金を提示するための稟議書を書くだけの日々を送ることにね」

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2019年09月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ


『税金で作り上げられた』郵政の民営化によって更なる値下げ競争に巻き込まれた運輸会社をはじめ、信念を持って変化をし、受け入れ、情熱を生み出す数多くの人間たちを描いた2009年発売の「ラストワンマイル」

コロナ禍で変化を恐れてしまう貴方にこそ今手に取って欲しい。


急激に成長したネット通販会社『蚕の市』と、創業から安値で世話をした結果裏切られる『暁星運輸』

資本主義では当然の原理。ただ果たして下請け最下層の運輸、物流業であるからこそ仕方ないことなのか。

いや、最下層の物流業であるからこその発送、いや発想で光を見いだす。それを頭ごなしに無理だという上司。新しいことをするには突き進む信念が大事だということが丁寧に書かれている。

一方、急激な成長と共に極東テレビ買収を試みる蚕の市。古い考えの重鎮たちを敵に回し新たなビジョンで黙らせていく。

どちらも新しいことに突き進む信念と、変化に対する肯定感が非常に気持ちいい。どちらを応援したらいい?どちらに感情を入れればいい?お互いがやり合うのでなく別々のストーリーから最終対峙することになるのだが、信念は同じなのだ。それを裏付けする、哲学者アランの言葉「緊張と苦悩が情熱を生む」

極東テレビ、暁星運輸、蚕の市。三者三様の動きから時には手を取り、時には駆け引きに出たりと息詰まる攻防に休まるところを見せない。


「下請けに過ぎないと思われていた物流業が、実はすべての産業の生命を握っている。まさにラストワンマイルを握っているものこそが絶対的な力を発揮する事を世に知らしめる絶好の機会を目の前にしているんです。」


 上司部下の関係がまあ上手く現実味を持って書かれている。上司像と部下像。自分達ができるところまで、上司ができるところまで。ここがわかった気がする。ただ部下に気に入られる上司がいい上司じゃない。とサラリーマンとして勉強させてもらった。

結末はここまでくればそれほど重要ではないとさえ感じた。

復讐劇とも下剋上とも違う、明日に向かって熱くなれる一冊だ。

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2021年01月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

見習うべきは意思決定のスピード感。蚤の市社長があっさりと引き下がったけど、したたかなもうひと粘りがあっても良かったかと。
ラストワンマイル、、、覚えておこう。

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2021年05月29日

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