【感想・ネタバレ】薄闇シルエットのレビュー

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Posted by ブクログ 2022年01月30日

この本、すき。ぐっときた。

感想書こうとしたらとてつもなく長くなっちゃうので、代表として(?)ハナがチサトに言われた言葉を載せておきます。

【持ってるとか持ってないとか、持ち物検査じゃないし、一等とビリを決めるかけっこをしてるわけでもないんだよ。
いくつになったってその人はその人になっていくしか...続きを読むないんだから、他人と比べるだけ無駄だよ。】


感想
1、ハナのアイデア『古着で思い出の絵本を作る』って、すごくいいと思うなぁ

2、結婚してて子供もいて仕事もしてるけど、何かを求めるのは同じ。いくつになっても変わらないのかも。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2021年04月04日

『「結婚してやる。ちゃんとしてやんなきゃな」と恋人に得意げに言われ、ハナは「なんかつまんねえ」と反発する。共同経営する下北沢の古着屋では、ポリシーを曲げて売り上げを増やそうとする親友と対立し、バイト同然の立場に。結婚、金儲けといった「ありきたりの幸せ」は信じにくいが、自分だけの何かも見つからず、もう...続きを読む37歳。ハナは、そんな自分に苛立ち、戸惑うが…。ひたむきに生きる女性の心情を鮮やかに描く傑作長編。』

同棲していたタケダ君に飲み会の席でみんなに「結婚してやる。ちゃんとしてやんなきゃな」と宣言され、しらけるハナ。結局破局する。小さい時母親がなんでも手作りの人で、ケーキも手作りだったことを思いだす。

『誕生日に母が役ケーキは、決してまずかったわけではない。どちらかといえばおいしい部類だった。けれどそれはあくまで素人の作るおいしいケーキでしかなった。ケーキ職人のケーキを味わったあとで、母の手作りケーキはいかにも貧乏くさくて、あか抜けず、古典的でマンネリ化していた。けれど母は、自分が作るケーキが誕生日を迎えた人を幸福にすると信じて疑わず、せっせと作る。母をかなしませないために私はそれを食べた。食べたのだが、たとえば私の成績が落ちたり小遣い前借りが続いたりした折に、手作り教の教祖にふさわしい威厳と傲慢さでもって、「今度の誕生日にケーキを作ってあげませんからね」と母が宣言するとき、鼻白むようなあわれむような、苛つくような侮辱したいような、荒々しい気分にったものだ。』

こういう心情の機微に触れる角田光代の文章は読む人を引き込んでいきますね。登場人物が生きている。現状を嫌い否定するのは若い時はいいけど、年とると一歩も前に進まないという37歳女子の話。その焦り苛立ちは分かるけど、振ったタケダ君に電話したくなったり、そうやって揺れ動くのが等身大の人間とも言えるが、ちょっと面倒くさい女でもある。

『ステージでは、陣内さんの親戚らしき人がアカペラで歌をうたっている。演歌かと思ったが、よく聞いてみるとビートルズだった。』

『いくつになったってその人はその人になっていくしかないんだから、他人と比べるだけ無駄だよっ。きょろきょろ人のこと見てるあいだに、あっという間におばあちゃんだよっ』

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Posted by ブクログ 2021年03月14日

読み終わった後、なんだかすごく良い映画を観終わってエンドロールをぼーっと眺め立ち上がる事ができないような余韻にしばらく浸ってしまいました。
(エンドロールの曲は羊文学の「うねり」でお願いします笑

私の拙い感想を書くよりも、心に刺さる言葉がいくつもあるので抜粋して紹介したいと思います。

「おんなじ...続きを読む人に育てられたのに、私とあなたとどこで違ったんだろうね。結婚がすばらしい、よきものであって、それは自分にもたらされて当然の幸福だって、どうしてあんたは思うことができて、私はできないんだろうねえ」
私、44歳独身…弟は結婚して子供2人、素晴らしい親孝行息子!たまにちょっとした罪悪感をかんじあています
そして、恋愛はしたいのだけど、またアレを繰り返すのかというめんどくさい気持ちを見事に表してる言葉が
「また誰かと出会い、相性を見極め、恋をし、生活習慣をすり合わせ、相手を理解し、自分を知ってもらう、その長い道のりを思いうんざりする」

「ねえ チサトさんもお姉ちゃんもだけど結婚したくないのにどうして恋愛はしようとするの?」
「恋愛でもしてなきゃ退屈だからでしょ」
そうなんです!そうおもいます。恋愛してる時は退屈しないんですよね、でも退屈しない為とは言うものの、たのしいのはたのしいんです。

「わざと子供みたいに声をあげて泣いた。
そうしているとあ自分が何か持っていた気になれた。何か持っていて、たった今それを失ったのだと思う事ができた。そう思う為だけに、私はわざとらしく泣き続けた」
まわりのみんなが新しい道を見つけて歩き出していく、そんな時自分だけが何も無い事に気付かされる
とても切ない場面でした…

そして、母親が倒れ実家の冷蔵庫を開けたシーン
泣けます
「母のケーキなんて大嫌いだったのだ。貧乏くさくて垢抜けなくて、古典的でマンネリ化している。
この家から出た私がずっとがむしゃらに目指してきたものは、母のケーキと対極にある何かだった。
母は馬鹿だ。三十七歳の娘が母のケーキを目当てに帰省すると信じているんだから。」

恋人でも友達でも共同経営者でも長い事上手くやっていくには、好きなものが一緒よりも、嫌いなものが一緒の方が多分うまくいくのだろう。
でも、時には嫌いで絶対にやりたくないと言い合ってた事もやらなくてはいけなくなってくる
それが大人になるって事なのかもしれない
チサトがハナちゃんに「みっともないとか、やりたくないとか思うこともやんなくちゃなんない時もあるよ」

そしてハナちゃんも自分のやりたいことを見つけ動き出す!それは大嫌いだった手作り教教祖の母の作った自分たちの子供服がきっかけになってるって言うのも、すごく胸が熱くなります。

他にもたくさんの心に刺さる言葉がありますが、終わらなくなるのでこれくらいにしておきます。

この本を読むキッカケになった、さてさてさん
ありがとうございました。

最後に私は純粋恋愛の会を設立します!
会員募集中ですので、お気軽にお声掛けして下さい笑笑

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2024年03月04日

読みながらハナにイライラして、そんなの言ってるからじゃんとか思ってるのにそのイライラは自分がそうだったからと読みにつれて気付いていった。

タケダくんに結婚してやると言われて
納得いかず断るんだけど その時はタケダくんのことなんてなんとも思わないのに
別れて時間が経つにつれてタケダくんとの空気感が楽...続きを読むだったし楽しかったと振り返っちゃう感じ
すごくわかる。

したくないことはしたくないくせに
してる人をみると羨ましくなる。

でもやっぱり自分のしたいことをしたい
人との繋がりは離れたり新しい縁に巡り合ったり
その時々で自分の環境は変わっていくけど
変わらない自分だっていいじゃないかと
なんとなくそう思った。

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Posted by ブクログ 2022年05月13日

37歳、独身、古着屋を友人と共同経営しているハナが恋愛や結婚、仕事を通して生きることを模索し、生きる作品。

ハナの気持ちがわかる。
やりたいことよりも、やりたくないことや否定から入っては自分を肯定する。
そして、自分が傷つかないように挑戦せず
無意識のうちに癖のように、人と自分を比較しては自分のな...続きを読むいモノの数を数えて過ごす。
過去の自分を見ているようで、誰しもあること。

輪郭を得ないようなストーリーだけれど、このモヤモヤした女性の感情を描けている筆者に拍手。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2022年02月17日

『したくないことを数え上げることで、十年前は前に進むことができたけど、したくないって言い続けてたら、そこにいるだけ。その場で駄々こね続けるだけ』
『作り出すことも、手に入れることも、守ることも奪うこともせず、私は、年齢だけ重ねてきたのだった』

という言葉が効いたー。
ほんと、角田さんの書く文章は、...続きを読む私の心をえぐるんだよなー。もう、心が痛くてしょうがない。

思い起こせば30代後半。
私も主人公・ハナちゃんとおんなじ思いを持っていました。
何も持ってないままただただ歳を重ねることに、すごく恐怖を感じていました。

結婚することが幸せ。子供を産み育てることが幸せ。
それは確かにそうなんだけど、でもだけど、私の人生、もっとほかにも何かあるんじゃない?みたいなそんな気持ちが頭の中をぐるぐる回ってて。

何も持ってない自分を想像するのがすごく怖かったんだと思います。

だけど、「何も持っていない」というのは実は私の思い込みで、本当は私は確実にいろんなことを手に入れてここまできてるんだ。と思えるようになった40代。
あー、私、大人になったのね。なんてしみじみ思ってみたりして。

迷うことも立ち止まることも変化を恐れることも、かっこ悪いことじゃなよ。
いつか自分の手に何かをつかめるその日まで、うんと悩めばいいさ。それも経験さ。
なんて、えらそーなことをおばちゃん言ってみたりする。

薄闇に一筋の光が差したような、そんなラストがとてもよかったです。

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Posted by ブクログ 2021年07月17日

結婚して家庭に入りたくはないけど、仕事をバリバリしたいわけでもない、ずっと今のままでいたい37歳ハナのまわりの変化と、変化を求めてくる社会への苛立ち

ずっとこのままでいたいと思ってるわたしにとってハナの心情行動すべてが身につまされた
あまりにも心情が一致していたので、後半からはハナの身の振り方に
...続きを読むなにも決めたくないわたしの人生の救いを見出し始めしまったので、
『まだ始まっていない希望にむかって恐れず頑張っていきましょう』と終わらせたのが、足バタで地団駄踏むくらいいやだったな


ずっとこのままでいたい誰にも迷惑かけてるわけでもないしちゃんと毎日働いてるのになんで結婚とか仕事とか決断をもとめられなきゃいけないんだろ
なにも考えたくないから逃げつづけてたことすべてに対峙させられて読み進めるのが怖いくらいに、心が乱れた内容でした。



PS
ストーリーとしてどうこうとかいえないくらい、
27歳のわたしの心情と一致しているので文庫本を買ってマーカーで羽毛立つくらいに線をひいておきましょう。

『何かが決定されることをわたし自身が拒んでいる』
結婚に思うところがあるわけではない、仕事に思うところがあるわけではない、私はただ、かわってしまう、ということがこわかっただけなのだ。金太郎飴の、外気に触れない真ん中に居続けたかった。

『わたしはどこへも行きたくなかったんだな。そればかりでない、だれにもどこにもいってほしくなかったんだな』


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Posted by ブクログ 2021年06月13日

主人公のハナは無意識の内に他人を見下しているのだなと思った。
友人・家族・恋人など自分の周りにいるあらゆる人を俯瞰で見て、くだらない人生だと冷めた目でみていたのではないか。
ただ、決して他人と自分と比較して自分の方が優れていると思っているわけではなく、あんな風になるくらいなら今のままでいる方がマシ!...続きを読むと思い込むことで自尊心を保っているようにみえた。
だからハナの周りには「仕事はきちんとしてるがいい歳した独身の女性」ばかり集まるのだと思った。まさしく類は友を呼ぶとはこのことだと痛感した。
自分もそうならないように常に他人へのリスペクトと感謝の気持ちを忘れないようにしたい。

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Posted by ブクログ 2021年04月25日

つまんない。
なんか急にしらける。

そんな時は、とにかくやる理由がないし、しらける理由はたくさんあるし、それに何も困ってないし、居心地いいし。

なのに何故かとても切なくなる。

やりたいことをやる。
大人につれて、それは非現実的で、つらいこと、そしてこうあるべきという型にはめられた世界に飲み込ま...続きを読むれていく。

ハナの価値観は、やることの意味ではなく、やりたい気持ちに対してまっすぐであること。眩しい!
でも本人は猪突猛進ではなく、居心地の良かった過去や見えすぎている未来に囚われて、進めない。

同じことをはじめても、そこで求める価値観によって、人それぞれ違う形になっていく。古着ではチサト、布絵本ではキリエ。知らない間に向かうべき方向性が異なって、息苦しくなる。なんか昔のロックバンドの解散理由みたい笑

新鮮で楽しかった日々が、いつから金太郎飴の毎日になったんだろうと、考えさせられる。

知らない間に、自分のコップの水がいっぱいになって、こぼれないようにそろそろ歩く毎日。そして巡らない水はどろどろに。

しかし、そこから不意に水がこぼれたら。

ハナは、母の死で不意に水がこぼれる。ずっとそこに在ると思い続けていた人を失い、喪失感からたくさんのことに気付く。そしてやりたい気持ちが湧き出てくる。

ハナとの対比として、キリエが面白い。キリエは、いっぱいの蛇口のついたバケツにどんどん湧き出る水が注がれているイメージ。ハナのコップから注がれた水は、あっという間に違う水と混ぜ合わされて、アイデアとして蛇口から放出される。

ハナは、母との別れ、キリエとの出会いの中で、挫折する。でもこれが、自分を見つめ直すきっかけになる。傷つきながらも、踏み出したことによる、新しい手触りに心が動いてる様子は、とても応援したくなる。

タケダくん、結婚してやる、なんて言い方はないよー。力んでると、変な言葉になってしまうのはとてもわかるけど。ゆるんだタイミングに出る本音の言葉のほうが飾らなくて良かったりするんだよなぁ。

その人は、その人になるしかない、か。

つまんないことを、切り捨てることはすぐできる。でも、はじめることで、わかっていたつもりでも沢山の不確実なことがあって、それに打ちのめされたり、うまく乗り越えたり、はたまたリセットされることもある。

変わることの怖さ、変われないことの切なさ、変わったことによる希望(とちょっと挫折)。

ちょっと頑張ってみようかな、と思える本でした。

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Posted by ブクログ 2021年02月15日

『私には何もないのだ。本当に何もない。…作り出すことも、手に入れることも、守ることも奪うこともせず、私は、年齢だけ重ねてきたのだった』

時々、漠然とした不安で胸が押しつぶされそうになることってないでしょうか?何がどうというわけではありません。明確なきっかけがあるというわけでもありません。自身の年...続きを読む齢を思い、周囲の人と比較して、自分は何をやってきたんだろう…とか、自分はこの先どうなってしまうんだろう…とか、そんな漠然とした不安です。もちろん、それが深刻になりすぎるのであれば病院にかかった方がいいとは思います。しかしそんな深刻なレベルではなくても、ふとそんなことを考える瞬間は誰にでもあるように思います。一方で我々の日常は慌ただしく過ぎていきます。やがてそんな不安も自然と紛れてしまいます。慌ただしい日々が決して好きなわけではありませんが、隙間時間ができたが故にそんな不安に苛まれるとしたら、ずっと忙しいほうがいいのかもしれない、そんな風に思ったりもします。

そう、人はそんな風に未来に漠然とした不安を抱くものです。一方で過去に後悔の気持ちも抱きます。あの時、ああしていたら、今の自分はもっと違っていたのではないか…と。だからこそ、過去の失敗を繰り返さないために、今の自分が未来の自分を思い、こんなままでいいのだろうかと不安を抱くのかもしれません。

さて、ここにそんな誰もが抱くモヤモヤとした気持ちに苛まれながら三十七歳という時代を生きている一人の女性がいます。彼女は『私には何もない』と語ります。そう、この作品はそんなモヤモヤとした彼女の日常の中に、人生の”理想の形”を探していく物語です。

『なんかつまんねえや、と、すでに居酒屋にいるときから感じていた』主人公のハナ。しかし『その気分の理由は自分にもよくわからず、私は何も言わずにただにこにことタケダくんの隣で酒を飲』んでいたというハナ。『ノリちゃんやムラノくんの言葉を借りれば「だいぶ遅れたけれど結局ハッピーをものにした女」みたいな顔つき』だったというハナ。そして、『二人と別れ』、タケダ君と終電の近い駅へと急ぐハナ。『当然のことであるかのようにタケダくんは私のマンションにきた』というその先。それを『まったく何もかもがいつもどおりなのに、私はそのいちいちに苛ついた』というハナ。先にシャワーを浴びて出てきたタケダくんは『いかにも慣れた仕草で冷蔵庫からビールを抜き出し、ソファに座る』といういつもの展開。『ハナちゃん、引っ越しも考えないとな。おれがここにきてもいいけど、それじゃあなんていうか変化がないよな』と言うタケダくんに『そっすね』と『私は返事をしたがそれは届かなかったらし』く、『なあ?』と聞いてくるタケダくん。『そりゃもちろん結婚するんだよ、当然でしょう、と、数時間前、タケダくんはノリちゃんとムラノくんに言い放った』ことを思い出すハナ。『初耳だった。タケダくんが私との結婚を考えていたなんて、全然知らなかった』というハナ。『私は喜ぶべきだったのだろうと思う』も何故か『なんかつまんねえの』とその時思ったハナ。それを思い出して『なんでそんなこと思ったんだろう』とさらに考えこむハナ。翌日『まじで不動産屋いかない?』と訊くタケダくんと出かけるも『なんかつまんねえ感がじわじわと押し寄せて』くるハナ。『ご結婚されるんですか』と愛想よく不動産屋に訊かれ、『じつはそうなんっすよ』とこちらも愛想良く返すタケダくん。『なあ、買う方向で考えない?だって家賃よか全然安いじゃん』と言うタケダくんにモヤモヤ感がさらに募るハナ。『こうしたいとか、これじゃいやだとか、意見があるなら言ってくれなきゃわかんないよ、むすっとして文句ばっかり言われちゃたまんないよ』と言うタケダくんは先に歩き出します。そして『私結婚しない』と『タケダくんのうしろ姿に』ハナは言うのでした。そんなモヤモヤとした感情を抱えるハナの日常が描かれていきます。

37歳の主人公・ハナのモヤモヤとした感情、自分自身でもその理由がわからないというその感情に支配されたハナの日常が淡々と描かれていくこの作品。角田さんは、そんなハナのモヤモヤとした感情を、ハナの年代の女性の代表的な悩みでもある『結婚』と『仕事』の二つに焦点を当てて描いていきます。

まずは『結婚』についてです。『そりゃもちろん結婚するんだよ、当然でしょう』というタケダくんの言葉に引っかかりを感じたハナ。『どうして結婚が当然なのか』と漠然と感じるハナは『その決定にまつわる権限をどうしてタケダくんが持ってい』るのかと考えます。結婚に至るまでの道程や考え方は当然ながら人によって千差万別です。また、結婚を当然とする時代でもなくなってきている社会情勢の変化もあります。しかしハナのこだわりはそういった方向性とも少し違うものでした。それは変化を期待する一方で、『結婚したからといって何かが大きく変化するわけでもなく、私たちは今までくりかえしてきた生活を、ひとつの場所でおこなう』だけであり『なんかつまんねえ』と感じるものでした。それを角田さんは『金太郎飴』に例えてこんな風に登場人物に語らせます。『人って、発展も後退もない金太郎飴のど真ん中みたいな状態に、そうそう耐えられるもんじゃないと思うんですよね』。これに対して『私は金太郎飴的状況をこそ求めているのかも』とハナは逆に考えます。ここにハナという女性のモヤモヤとした感情の正体がまず見え隠れします。

そして、このハナの感覚は『仕事』においても同じでした。共同経営者として古着屋を営むハナ。『行動力が有り余っているのに、決断力が鈍い』共同経営者のチサト。それに対して『動かないかわりに、チサトの意見をじっくり比較検討し、ものごとの決定に関わってきた』と自負するハナ。しかし、そんなチサトが新たな一歩を踏み出そうとしても『チサトと違って私は、有名になりたいとももっと稼ぎたいとも思わない』と考えます。『私は今、何を失いつつあって、何を得つつあるのだろうか?』と悩みは募っていきます。まさしく『私は自分でも自分がよくわからない』と、自分自身が見えなくなってしまっている状態です。人生はなかなかに難しいものです。それは生きれば生きるほどに身に染みて分かっていくものだと思います。世の中にはいろんなタイプの人がいます。常に変化を好む人がいれば、変化を極端に怖がる人もいます。人生において、そのいずれが正しいかについての答えなどありません。なぜなら、それはそれぞれの人の人生であって、その人生の価値を決めるのは自分自身だからです。人と比較したって意味はありません。しかし、そうは言っても身近な存在、特に自身と共に人生を歩んできた、どこか世間一般から一線を引いたそのこちら側にいると思っていた人に大きな変化が生じると、何かしらの焦りを感じてしまいます。この作品でも『私結婚しない』と言ったはずの相手であるタケダくんのことをいつまでも気にし、また共同経営者のチサトの新たな一歩を称賛できない、そんなハナのモヤモヤとした気持ちは男性の私にもどことなく分かる気がします。また、同年代の女性であればさらにこの気持ちは身に染みる方が多いのではないか、とも感じました。

『結婚に思うところがあるわけではない、仕事に思うところがあるわけではない、私はただ、変わってしまう、ということがこわかっただけなのだ』というハナ。それこそが、まさしくハナのモヤモヤとした感情の正体なのだと思います。そして、角田さんは、この感情を『金太郎飴の、外気に触れない真ん中に居続けたかった』と金太郎飴の例えを再び絡めてハナに語らせます。そんなハナが『いくつになったってその人はその人になってくしかない』と成長を見せていく物語は、『ま、いっか。歩いてればどっかには着くさ』という肩の力を抜いた先に結末を見るものでした。

“何とかものの形などがわかる程度の暗さ”を表す『薄闇』。そんな『薄闇』の中にぼんやりと浮かび上がる『シルエット』は、茫洋としてはっきりとした形を見ることは難しいと思います。私たちは誰しも、人生を生きる中で、こうあるべきという人生の”理想の形”というものをおぼろげながらも持っていると思います。そして、それは多くの人にとって、『薄闇』の中にその実態を探し求めるようなものです。しかし、だからといって、焦ることはありません。自分の人生は自分のもの。『その人はその人になってくしかない』からです。

モヤモヤとした感情渦巻く物語の終わりに、うっすらと光を見るその結末は、主人公・ハナの人生の”理想の形”の輪郭を少しだけ垣間見せてくれるものでした。そんな人生の気づきを見るこの物語。角田さんらしく丁寧に紡がれる表現の中に、人の心の機微を見る、そんな作品でした。

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Posted by ブクログ 2020年12月30日

30後半になっても「持ってない」って悩んで、それでも「持ってないならこれからなんでもつかめる」って思い直せるのか。20後半時点で「持ってない」って思うのは早すぎるのか。

いまは結婚1次ブーム真っ最中。ブームが去って第2波が来たとき、第3波が来たときに読んだら印象も変わるのかな。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2020年07月28日

もがく女の話。共感する価値観が多く、読み心地が抜群だった。
主人公はさまざまな考え方を発見し、そしてそれに伴い行動を起こす。その結果でまた、考え方が変化し次のチャレンジへ進む。人生はきっとこういったことの繰り返しで、この物語はとても普遍的だ。だからとても共感できたのだと思う。
決意は美しい。何かを決...続きを読む断した人に読んでほしい一冊。

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ネタバレ購入済み

いますこんな女性

2017年10月15日

私の友達には申し訳ないのですが、その友達もしばらく恋人ができず長年付き合った恋人とも別れ主人公となんとなく似ていて重ねてしまいました。でも読みやすく、特に私と同じ年代(20代後半)の女性には是非、第三者的な目線で読んでいただきたい本です。

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Posted by ブクログ 2016年01月19日

年齢を重ねていても大人になり切れていない主人公のハナ。
嫌なことはしたくないとか、結婚観とか、モラトリアムみたいだと感じた。
変化を恐れて、自分は変わりたくないと思っても、周囲の状況が変わり変わらざるを得ないことがあるということも判ったし、自分が何も持っていないということも気付いたし、彼女なりの葛藤...続きを読むが伝わってきた。
37歳という年齢を考えると、ちょっと気付くのが遅いような気もするけど。

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Posted by ブクログ 2015年09月19日

好きな作家さんの1人です。期待を裏切りません。少しずれた生き方している女性を上手く描いていると思う。自分もダメダメ人間だから、分かる部分が多い。ハナちゃんには幸せになって欲しいな。他人には分かってもらえなくても、自分だけが納得できればいいと思う。

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Posted by ブクログ 2019年01月16日

ちょっと病んでしまった(笑)
良い意味で。
そういう気分もほしくて読むときってあるし。

人と暮らすって、難しそう。

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Posted by ブクログ 2015年11月12日

『対岸の彼女』などと同じジャンルの本と言える。
私は結構好んでこのトピックスのものを読む。

薄闇シルエット。ぼんやりと、自分の中にある理想の形を
くっきりさせていくことは、容易いことじゃなくて、
というような本。

最後の終わり方はべただけど、結構好き。

「結婚したいわけでもなかったし、したくな...続きを読むいわけでもなかった。
チサトの中古ブランドの店に反対したい気持ちもなかったし、
協力したいとも思わなかった。チサトの結婚を裏切りだとも思わないし、
では何にも感じないかといえば、何かおもしろくない気持ちはあった。

ぜんぶおなじことだ。結婚に思うところがあるわけではない、
仕事に思うところがあるわけではない、私はただ、変わってしまう、
ということがこわかっただけなのだ。

金太郎飴の、外気に触れない真ん中に居続けたかった。」

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Posted by ブクログ 2015年01月01日

長年付き合った彼氏に「結婚してやる」と言われ、鼻白んで結婚せず、仕事では共同経営者の親友と意見が食い違いバイト同然の立場に。結婚、家庭、仕事…。自分だけの幸せが分からなくて、苛立ったり泣いたりしながら一生懸命生きている女性の話。

主人公のハナは大人だけど大人になれない。人から押し付けられたような幸...続きを読むせは嫌で、だけど自分は何を手にすれば幸せなのか分からない。きっと多くの女性もハナと同じような気持ちを抱えて生きていると思う。

反発していた母が倒れ、冷蔵庫にあるケーキの材料を見つけた時、「つまらない」とバカにしていた地味で貧乏くさい家庭こそ、母が必死になって守ろうとしていたものだとハナは気付く。かっこ悪くて罵倒したくなるようなダサいこと。それを大切に守る母が愛しくて、結局何も持っていない自分が情けなくて。

大人になることは、可能性を閉ざしていくことかもしれない。家庭を持てば、出来ないことが増えていく。だけど、ダサくてもかっこ悪くても、誰かと共に自分の居場所を築いていくと決断できた人が、私には羨ましい。立ち止まっていたいと駄々をこねることは終わりにしなくちゃいけないと思った。

それにしても角田光代の描く母性は素晴らしい。平凡な母を、母が守るちっぽけなものを、数ページで強烈に描き出す。本作では冷蔵庫の材料と和室の服のエピソード。『八日目の蝉』のラストの台詞も圧巻だった。こういうところ、男性って何を感じるのだろう。

✱以外抜粋✱

*人って、発展も後退もない金太郎飴のど真ん中みたいな状態に、そうそう耐えられるもんじゃないと思うんですよね 。 (p79)

*古びたら価値もいっしょに古びておしまい、っていうんじゃなくて、古いものがちゃんと扱われているとろがいいなあって。 (p105)

*したくないことを数え上げることで、十年前は前に進むことができたけど、今はもうできないとおれ思うんだ。したくないって言い続けてたら、そこにいるだけ。 (p108)

*私はどこへもいきたくなかったんだな。そればかりではない。だれにもどこへもいってほしくなかったんだな。 (p220)

*私を身ごもる前の母、まだ母ではなかった母が願ったものは、今ここにある、と。この騒がしさ、この馬鹿馬鹿しさ、この愚かしさ、どかにも向かわず何も学ぶところのないような、今この瞬間をこそ、母はずっと手に入れたいと願っていたに違いない。 (p258)

*私だけだよ、なんにも変わってないの。チーちゃん、私なんにも持ってないんだよ。みんなひとつずつ手に入れて、一歩ずつ先に歩いてるのに、私だけいつまでも手ぶらで、じたばたしてるだけなんだよ。 (p268)

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2023年11月06日

久しぶりに読んだ角田さん。角田さんの描く女主人公の呟きは、現実に根付いている。あぁこういう人いるよね。こう思ってしまう瞬間、そして、こういう態度をとってしまう時ってあるんだよね。

薄闇の主人公ハナちゃんは、特に向上心とかもなく、キラキラしてる所を目指してない。でも、やりたくないことは避けてきた人生...続きを読むを歩んでいる。

この本は2006年にハードカバーが刊行されているが、この時代に既に結婚をしてやるとか、家庭を持って子どもを持つのが流れであり女としての幸せとか、旦那に許してもらって仕事をするとか出かけるとか、そういう事に疑問を呈するハナちゃん。

ハナちゃんと共同経営者であるチーちゃんには歳の離れた彼が出来て、仕事でも新たな挑戦に燃えている。
そして、元カレになったタケダくん。距離を少し置いたつもりが、気づいたら別れたことになっていて、新しい彼女が出来て、あっという間に就職して結婚をすることを知る。

1人取り残されたような気持ちになるハナちゃん。
でもそれは自分の選択でもあり、人の幸せは多種多様であり、マウントを取り合うものでもない。

そんなことをふんわりと伝えられた様な気持ちが後味。

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購入済み

まさに薄闇

2023年05月20日

たまたま目にして購入した本であったが、私の元へ来るべくして届いた本だったのだなと思う。主人公のハナちゃんに共感し、自分を見つめ直しながら読む。ハナなちゃんと違って、私は忘れっぽいから、その分、気楽なのかな。何も持ってないのは気楽なんです、実はね。

#切ない #深い #シュール

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Posted by ブクログ 2022年11月08日

相変わらず辛辣な主人公…
そこまで意地を張らない方が生きやすいのでは思ってしまうが、意地は個性なので捨てられないということか?
城を築くという表現が新鮮
結婚はつまらないもの、と突きつけられて
付き合った先
自分で楽しみ方を見つけたもの勝ち

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Posted by ブクログ 2022年09月20日

角田光代得意のダメ男と別れられない女の話と思ったら、ダメ男は真っ当な人間になって主人公から離れていってしまう意外な展開。しかし終盤布絵本ビジネスの辺りからちょっと無理のある着地になってしまった感がある。

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Posted by ブクログ 2021年12月17日

アラフォー女子の悲哀を描いたような小説で、何も変わらず今のままでいられたらそれで良いんだけど時間と共に周囲が変わっていくことは避けられない現実というのは年齢性別を問わず分かる気がする

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Posted by ブクログ 2021年03月14日

周りが変化してるのに自分だけ何も変わらない。そんな状況を認めたくなくて、でも心の中で1番わかっている自分がいて、なんだか切ない気持ちになる一冊。このままじゃ自分やばいなって思わされた。

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Posted by ブクログ 2021年01月31日

めんどくさい女だなーと思った。
歳の割に考え方が幼稚。
上から目線でどうのこうの言ってるけど、確かに何にもない。
拗らせ女子。
変わりたくないのはわかった、だけど周りが変わることも否定的。
みんながみんな自分に都合の良い風に役割をあてがわれた人たちじゃない。
新居に自分のこだわりの物を全く買えないで...続きを読むいるあたりがこの女の全てを表している。

話自体はおもしろかった。

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Posted by ブクログ 2021年01月11日

角田光代さんの描く女性の、
なんとも生きにくそうなダメな感じのところが
とても共感してしまう。
みんなが人生を進めていく中、
「わたしだけが立ち止まり、みんな戻ってきてくれると思っている」
その寂しさが良く分かる気がする。

何かを手に入れたかったハナちゃんが、
何も手に入れなくてもいいことに気がつ...続きを読むいて、
少し人生を進め始めたことは、同年代のわたしにとっても、とても勇気付けられることだった。

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Posted by ブクログ 2020年08月31日

ハナちゃん。37歳独身。古着屋経営で恋人とも別れてしまった。
応援したくなるところだけど、なんかそんな気分にもならなかったのは、私のなかに「ちゃんと就職して安定したお給料をもらう生活にした方がいい」っていう考えがあるからだろう。
夢があるとかやりたくないことはしたくないって言ってるけど、生活が成り立...続きを読むたないのではどうもならない。
タケダくんのように、ある程度で見切りをつけて身の丈に合った幸せをつかむのはある意味正解だと思う。

でもそんなハナちゃんも、いい人に巡り会えたら案外すんなり結婚しちゃうんじゃないかな、チーちゃんのように。

キリエたちやり手との飲み会でハナちゃんが気後れする気持ち、とってもわかる。
キリエは極端だとしても、これくらいじゃないとダメなんじゃないかな。ハナちゃんはあんまり向いてないと思う。
でもハナちゃん、私は嫌いじゃない。
ハナちゃんなりの心地いい空間を見つけてほしい。

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Posted by ブクログ 2020年07月07日

最後わりとすっと終わってしまった。
タケダくんの結婚してやる発言はむかついた。
「結婚が何か上等なものでそうじゃないものは下等であると思ってる」のはチーちゃんだけじゃないかもなと思った。
結婚とか仕事がうまくいってるみたいな、わかりやすいしあわせは、わかりやすいだけで、結婚してなくてもしあわせな人だ...続きを読むって仕事がだめでもしあわせな人もごまんと居ると思うから価値観を押し付けないで生きたい。とはいえ家族は特別なものだと思うときもあるわけだけど。

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Posted by ブクログ 2020年05月12日

続きが読みたい。主人公に共感。
「結婚してやる。ちゃんとしてやんなきゃな」なんて言われたらわたしも別れると思う

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Posted by ブクログ 2019年08月08日

アラフォー女性の恋と仕事の話。
読みやすい文体。軽い感じでいて結構重たい内容、最後に灯りは見えてなくて混沌としたままのように思えて、いまひとつ好みからは外れた。

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Posted by ブクログ 2016年11月27日

ホームメイドケーキ…結婚してやると言われて喜ぶ人はまずいない。
月とハンカチ…ワインのコルクを店員さんに開けてもらおうとする発想がおばさん的。
薄闇シルエット…玄関で泣き崩れる女はかなり惨めそう。
ホームメイドケーキ、ふたたび…この世を後にしたお母さんの優しさはしっかりと娘たちに伝わった。
記憶の絵...続きを読む本…自信がなくて手探りだとしても前には進んでいるし、それで十分かと。
ウエディングケーキ…無かったことにされたスピーチが真実だったのが最高。
空に星、窓に灯…取り残されたとしても自分を見失わなければ大丈夫。

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Posted by ブクログ 2017年12月18日

 この停滞感、何者にもなれず何処へも行けない感じが苦しくて、主人公のハナちゃんと一緒にもだもだしながら読んだ。私もしたくないことは極力しないでおこうと思う傾向にあるので、自分のしたいことをする生き方、したいことを見つけることのなんと難しいことよと思う。周りが変わっていく中で自分だけ取り残されている感...続きを読む覚は怖いけど、他人とスピードばかり競わず、柔軟性だけは持ってなんとか毎日生活していけたらいいやと思った。

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