あらすじ
演奏会でプロのピアニストを陰で支える調律師の仕事を初公開。F1マシンを整備するがごとく、一人ひとりのピアニストにあわせて名器スタインウェイを最高の状態に仕上げる職人の技とは。ジャンルを超えたピアノの世界、コンサートの楽しみ方を紹介する。
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Posted by ブクログ
調律師を必要とされる場がこれほど広いものだとは、驚くばかりであった。まったく不明を恥ずるばかりであるが、それにしてもスタンウェイを何十台も、いつでも出前できるように調律してあるとは、まことに恐れ入りました。
Posted by ブクログ
筆者はピアノ調律師。一般向けの調律のほか、コンサートやレコーディングの際にプロ演奏家のための調律を行っている。プロ向けに、自社で管理するスタインウェイのピアノの貸出も行っている。
プロの矜恃を強く感じさせる1冊である。
ピアノの貸出事業は以下のような経緯で始めたものだという。プロの音楽家はほとんどが自分の楽器を持ち歩くが、ピアノは重いためにホールに置かれているものを使うのが普通だ。保管状態が悪く、音程が狂っていたり弾きにくかったりするピアノも多く、短時間で調律師が手を入れ(時には「修理」し)、演奏家が状態を見極めつつ弾くことになるらしい。筆者はこれに疑問を持ち、自分で運搬装置を開発して、自社で完璧に管理したピアノをコンサート開催地まで運ぶ事業を行っている。
一流の演奏家は、音楽性豊かに弾くことを目的とするため、小さい音が美しく響くようにするなど、プロの要求にしたがって調律したピアノは、技量の落ちる人には必ずしも弾きやすいものとはならないのだそうだ。筆者は車に例えて、F1レースカーのようなものと言っている。テクニックがなければ魅力も引き出せないというわけだ。それを支える調律師にも相応の高い技術が必要とされるのだという。
その他、ピアノの構造や歴史、筆者の会社も所有・管理するスタインウェイのピアノの魅力、日本クラシック音楽界の今後の展望など、プロの裏方ならではの話が多く、興味深く読めた。
*作夏、スタインウェイのピアノに触れる機会があった。娘と1曲連弾させてもらった(のだめで有名になったモーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ」を易しく編曲したもの)のだが、すてきな音色で弾きやすいピアノだった。筆者の言葉を借りれば、さしずめ、オートマ仕様に調律してあったのだろうけれど(^^;)。素人ながら、幸せな気分になりました。今でも思い出すとちょとほっこりする。すてきなピアノだったなぁ。
Posted by ブクログ
調律師=崇高な精神で心清らかに、というこれまでの自分の勝手なイメージを覆し、現場(=コンサートやライブ会場)で時にはとっさの対応をして、ピアノやピアニストと熱く関わる人間臭い職人、と思わせてくれた作品。
外見は同じグランドピアノでも1台1台音色が違う。保存状態、特に湿度によって調律の具合は変わり、逆によく保存されていれば、振動には強く、遠くまで運んでもほとんど狂わない。高級なピアノであればあるほど、崇められるかのように、あまり触れずに弾かれない、というのはよくありそうと思ったが、実際は逆で、どんどん弾かないとダメになると。勝手のわかった自前のスタインウェイを準備して、全国のコンサート会場に運ぶというスタイルが、多くの演奏家の信頼を得て今に至るという。
後半は、業界にまつわる人々の話。調律師の見分け方、関わり方からわかるよいピアニストの見分け方など。特に地方で見られる調律師周りの権威主義的扱われ方や、バブル時代のホール乱立で、手入れの行き届かないホールやピアノが残ってしまっている現状などを憂える文章が続き、強い思い入れがあるのだなと感じた。