あらすじ
エッシャーの代表作である《物見の塔》《滝》《上昇と下降》などのだまし絵。これらの作品は、一見しただけではそこに錯視図形があるとわからないほど自然に見える。しかし、少しの間をおいて「これはありえない立体だ」と気付いた瞬間、鑑賞者に大きな驚きをもたらす。この劇的な鑑賞体験はどのようにして作られたのか。エッシャーはまず、絵のあちこちに鑑賞者を誘導するトリックを仕掛け、さらにそれらを手品師さながらに覆い隠していった。そしてトリックの存在を生涯隠し通し、決して語らなかったのだ。本書は100点を超える図版でだまし絵の制作過程を分解し、エッシャーがかつて5つの作品に仕掛けた視覚のトリックを明らかにしている。エッシャーが制作中に何に悩み、何を大切にしていたかにまで踏み込んでいく。謎解きの楽しさに満ちた1冊。
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Posted by ブクログ
ものすごい本を読んでしまった!エッシャー展を観て衝撃を受けたので、気になって手に取った。エッシャーの作品への理解が深まり、エッシャーの魅力を再発見することができた。不可能建築のトリックだけでなく、エッシャーの作品傾向、エッシャーの人生、錯視図形、透視図法までを深く知ることができる。エッシャーの作品に対する執念というか、情熱というか、探究心というか、そういうものを強く感じることができて、とてもおもしろかった。不可能建築を可能に見えるようにするためのたくさんの工夫に気づかされ、私はただただ驚くことしかできなかった。エッシャーもすごいけど、エッシャーのすごさを分かりやすく詳しく解説してくれた作者さんもかなりすごい。目からウロコボロボロ本だった。読んでよかった。
Posted by ブクログ
「完全解読」の名に恥じない好著。
騙し絵で有名な、誰もが知るエッシャーの絵は、錯視図形の応用で具象的な光景を描き実在するかのようで、実際はありえない風景の中に観る者をいざなうのが魅力であるが、本書は、そこに錯視、錯覚以外の驚くべき仕掛けが隠されていることが明らかにする。
答え合わせをしてみれば、なんだそんなことか、という感じで、本書の中でも著者は、手品の種明かしをしている無粋な行為かもと反省弁も述べているが、3つの秘密は実に簡単なというか、えっ、そんな細工で騙されてたの? と思うようなもの。
だが、それを推理し、エッシャーの心理にも迫り、なぜそこまで拘ったかを、さかのぼり読み解いていく過程が読み応えある内容になっている。
エッシャーもそうとうな完璧主義者であるが、
「どう考えても存在しえない構造の建造物を、限りなく自然に描くことで、実在しうると錯覚させること」
という、エッシャーの究極の目的に辿り着いた著者の執念も見事だ。
その著者、生命科学の研究者であることに驚かされる。逆に、美術の専門でもなく、エッシャーが応用した数学の専門家でもなかったところが、謎解きに奏功したとも思わせる。科学者の目を通してエッシャーを読み解くことで、美術の深淵をのぞき込むことができるというもの。その探求の過程や、異分野からの視点も思わぬ糸口になるという、新たな気づきも得られる。
「遠近法自体がある種の錯覚である」
この、当たり前だが、2Dの絵画を見るときに、もはや疑問を呈することもない遠近法(正確には線遠近法)そのものが、「錯覚である」とエッシャーが考えた、というエッシャーの思考の内側にまで踏み込んだ、著者の大いなる勝利の賜物の一冊。