【感想・ネタバレ】世に出ないことばのレビュー

あらすじ

『夜のある町で』『忘れられる過去』につづくエッセイ集である本書『世に出ないことば』について、あとがきで著者は、こう書いている。「読書が、この本の中心になった。いろんな作品を読み、以下のことを感じた。文章は、どの人のものも、ことばという木の葉をいくつか、ときには、いっぱいつけて出てくる。身がかくれるようないでたちで、登場する。書きたくはなかったこと、そうは思えなかったこと、急だったこと、いまは埋めておきたいこと、このあとで気づくことになることなどが、あるためだろう。そのあたりは光が足りず、なかなか決められないものだ。文章にも、ことばひとつにも、世に出ない世界があるのだ。そのまわりを歩いた。木の葉をつけて、歩いてみた。」「水曜日の戦い」「ぼくのせっけん」「悲しくはない絵」「封筒の世界」「東京にはいない人」など66編。いちばん気になる作家の、いまとこれからが、つまっている。

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Posted by ブクログ

荒川洋治のエッセイが気に入っているという記憶があって本書を手に取る。読み始めてこのエッセイがその記憶とどう繋がっているのかが解らなくなる。

本書の中で、荒川洋治は具体性の人である。どこに落ち着かせるべきかがあいまいな事柄を、そのままに放っておくことができない。人口や地名が内包しているかも知れない隠された真実が気になる。そんな人であることが強烈に伝わってくる。あれれ、こんな感じのエッセイを書く人だっただろうか。

しばらく読み進めると、荒川洋治がことばについて語り出すのを目にする。ああこれだ。この感じが気に入っていたのだろうな。

時に荒川洋治の評は厳しすぎるように思えるときがある。ことばに対する真剣な態度の為せる業だろうか。厳しすぎるとは思うけれど、同時に、その切り口のまっすぐなことに魅せられずにはいられない。そのことが記憶に残っていたのだ。

しかし、本書で見せる荒川洋治の異常に具体性にごたわる姿勢と、ことばに対する感覚には何のギャップもないのだろうか。そんなことを思いながら読み進める内に一篇のエッセイに辿りつく。曰く「行間はない」。

およそ詩人のことばとも思えない発言のようであるが、目にすることばの奥へ、そこにある文字の持てる意味を通して向かっていく態度に、ああそういうことなのだな、そうであれば何のギャップもないのかも知れないなあ、と思い直す。

ことばを決してあいまいな感覚で弄ばないこと、それが恐らく荒川洋治の真骨頂なのであろう。

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2009年10月07日

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