あらすじ
「命がけでキレた日から、夫の態度が変わりました」
家事、育児、夫との関係、ママ友社会――誰もが通り過ぎる日常の葛藤を、フェミニズムの視点で「当事者研究」してみたら、まったく違う風景が見えてきた! フェミニズムの第一人者と〝主婦のリアル〝が真正面からぶつかる、前代未聞の対話。
社会学者にして日本を代表するフェミニスト・上野千鶴子と、三人の子を育てる普通の主婦・森田さち。主婦が自らの人生を振り返り「なぜ私はいつも生きづらかったのか?」と問い、社会学者がそれに応答する。
幼少の頃から抱えてきた希死念慮、家庭のなかで感じた疎外感、学生時代の妊娠中絶、そのすえに得たパートナーによるモラハラ、ワンオペ育児の困難……。主婦も、働く女性も男性も「自分の問題だ」と気づかずにはいられない。笑って、泣いて、そして勇気がわいてくる、新しいフェミニズム入門にして、誰もが自分の生を問い直す一冊。
“この本は、私の結婚生活を実際に変えてくれたフェミニズムを授けてくれた師である、上野さんに、私の当事者研究にお付き合いいただこうと考えて、実現したものです。フェミニズムの師である上野さんは、20年以上前に『当事者主権』(岩波新書)という本を障害当事者の中西正司さんと出されており、当事者研究のパイオニアでもあります。上野さんが切り拓いてくれていたから私の今がある。「死にたい」という言葉でしか表せなかった私の過去に、別の見方や言葉を与えてくれ、現実をも変えてくれた。(森田さち/まえがきより)”
“森田さんはこれを「主婦の私の当事者研究」と呼んでいます。そこにある意識は、「主婦」がすでに社会的マイノリティであること、後ろめたさ抜きには主婦である自分を肯定できないこと、でした。事実、彼女は、自分が「逃げるようにして」主婦になった、と、その選択を肯定的には語りません。当事者研究とは、しばしば社会的マイノリティのための研究でしたが、今や「主婦」であることは、マイノリティ研究の対象になったのか、と感慨を覚えました。(上野千鶴子/あとがきより)”
【目次】
まえがき 森田さち
1章 母の期待を勝手に背負って死にたくなる
2章 夜の仕事で「男のくだらなさ」を学び、生きなおすために子どもを望んだ
3章 エリート夫に命がけでキレた日から、人生が少しずつ前向きになった
4章 交通事故に遭って気づいた「ひとりで子育てしなくていい」
5章 今を生きる女の子たちへ 一緒に闘おう
あとがき 上野千鶴子
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Posted by ブクログ
森田さちさんの当事者研究の聞き手として上野千鶴子さんが選ばれて対談するという形式で書かれたもの。
2人の関係性が希薄なまま、森山さんの自己開示がなされていくので、最初は上野さんが突き放す感じでハラハラしながら読んだ。(最後はやはりとっても優しいのだけど)
森田さんの自己開示を上野さんと共に読者も聞いていくことになるのだが、私には今ひとつ森田さんがどんな人か芯のところがわからなかった。希死念慮の出所や、第四第五子を欲するところや、夫との関係性など、どこか腑に落ちない感じがし続けたし、今もそれは変わらない。
鈴木涼美との往復書簡のような腹の底から抉りあって、血が出るような自己開示は、残念ながら今回は味わえなかった。
森田さちさんって、一体どういう人なんでしょうか…。
とはいえ、上野さんの言葉の中に印象に残るものはあったので記録に残しておく。
上野「あなたにとっての出産や子育てって、第一に私は子どもには自分みたいな悲しい思いさせないっていう『母に対する批判』であり、『リベンジ』ですよね。第二は、子どもを生き直しの手段に使う、エゴイズムとしての子育てだと私には思えたな。子どもたちには『ごめんね、私の都合で産んで』『育てさせてもらってありがとう』って言っとけばいいしゃない。」
「どうもメンヘラ系の女って、出産に賭けるところがありますね」
上野さんは優しく諭している。また出産を利用してはダメだよと。
家事のアウトソーシングについて
上野「あなたの場合は夫が払って私的に解決したという結末だけど、多くの家庭はそうはできない。そうなると家事サービスの安い値段で提供してくらるチープレイバーーしばしば移民労働者や農村女性ーの存在が必要となる。これでは女性たちの間の賃金格差は無くならない。だから、本当にケアの問題を解決しようと思ったら、ケアを市場から買ってくるんじゃなくて、公共のサービスとして国や自治体が背負う必要がある」
確かに!
専業主婦になりたい女の子が増えていることについて
上野「20代の女性でわずかに増加傾向にあると言われています。それを保守回帰だと言う人もいるけれど、私はそう思わない。彼女たちの本音は夫や子供に尽くしたいと言うより競争社会から降りたいだと思う。」
当事者研究について上野さんが引用した熊谷晋一郎さんの言葉
「自立とは依存先の分散である」
優しく諭したり仄めかしたりしてくれてる言葉、森田さんに届いているのかな。申し訳ないけど、きっとまだ子どもを産みたいと思い、エイジングケアをし続けるような気がしてしまう…。