【感想・ネタバレ】恋のレビュー

あらすじ

〔直木賞受賞作〕連合赤軍が浅間山荘事件を起こし、日本国中を震撼させた一九七二年冬。当時学生だった矢野布美子は、大学助教授の片瀬信太郎と妻の雛子の優雅で奔放な魅力に心奪われ、かれら二人との倒錯した恋にのめりこんでいた。だが幸福な三角関係も崩壊する時が訪れ、嫉妬と激情の果てに恐るべき事件が!?

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Posted by ブクログ

ネタバレ

女子大生とある夫婦との3人の関係を描いた物語。活動家の男子学生と付き合っていた中で出会った、不思議な夫婦。とても仲はよいけれど、お互いにお付き合いをする彼女や彼氏がいるという夫婦。
よく言う三角関係とは異なり、三人で過ごす時を重ねる中で、三人がひとつとなり、結びつきが布美子の心を揺さぶり、悲劇へとつながっていく。

最後の最後に、夫婦の現在の姿が描かれていることで、今もまだ布美子の思いは息づいているんだと分かり、胸がいっぱいになった。読んで決して汚らわしい感じやいやらしい感じが一切そぎ落とされて、美しい「恋」の姿を見た気がした。

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2013年02月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

全体的に色っぽくて背徳的だけどいかがわしい感じはしないという不思議な小説でした。
主人公がただ肉欲に溺れるわけではなく、片瀬夫妻を神聖視しているのではと思えるほど深く愛してしまったが故に起きた悲劇といった感じです。
どう考えてもピュアな恋愛とは程遠いはずなのですが、下手な恋愛小説よりよほど真剣さというか、鬼気迫るほどの純粋さを感じました。
雛子が大久保に恋をした時に、布美子が肉体ではなく精神での繋がりを求めるなんて汚いといった表現をしたのが印象的でした。
布美子に感情移入しすぎて大久保を撃ち殺すシーンで自分までスッキリしてしまいました(^_^;)

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2023年01月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

連合赤軍が世を震撼させていた同じ時期、大学生の布美子は大学教授片瀬信太郎の翻訳の仕事を手伝うことになり定期的に彼の自宅に通ううちに片瀬夫妻を深く知ることになる。
彼の妻雛子は他の男と浮気(これは便宜的表現。)をしており、それを信太郎は咎めていなかった。
雛子も信太郎の浮気(同様)を咎め立てもしない。それで2人の関係はうまくいっていた。
布美子は片瀬夫婦に徐々に惹かれて行き、やがて信太郎とも雛子とも肉体の関係に至るが、この奇妙な男女の三角関係がもたらす至福の時はずっと長く続くかと思われた。

1972年、折しもあさま山荘落城の日、軽井沢の片瀬の別荘で、布美子は猟銃で若い青年を撃ち殺し、居合わせたもう一人に重症を負わせる。
彼女は14年の刑期を模範囚として10年で終え、社会の片隅で目立たぬよう暮らしながら95年、ガンのために45歳で早逝した。

この事件に関心を持ったノンフィクション作家鳥飼は、真相をまとめて上梓すべく、ようやく所在を突き止めた布美子に話を聞きたいと持ちかけるものの閉ざされた心を開くのは容易ではなかったが、不治の病を得て死を前にした心境の変化から、彼女は事件の真相を鳥飼に伝えた。
しかし長く匿されていた真相の重大さにおののいた鳥飼は、布美子に、その秘密は決して誰にも漏らさず、本にもせず、自分が背負ってゆくと答えた。

以上がこの物語の短い序章のあらすじだ。
このあと長大な本章が続き、短い後日譚である終章に挟まれている。

長大な本章は、死の床で布美子が鳥飼に語った内容である。
件(くだん)の「秘密」が物語を牽引するのではない。というより、たいていの読者はたぶんその「秘密」を誤解するのだろう。僕もそうだったが、これは作家による意図的なミスリードだと思う。奇妙な男女の三角関係そのものが十分に秘匿されなければならない。だからだ、少しずつ小出しにされる、猟銃発砲という劇的クライマックスがいつどういう経緯で展開されるのか、というミステリーの方に焦らされながら惹きつけられるのではないか。
そして、そこに至る事情として、妖しげな男女の愛憎劇は時に官能的な筆致も含んで展開される。

そのような仕掛けに満ちた物語であるので、読書の手が止まるということがなく、2晩で読み終えた。
文章が平易で明解で、ことさらに飾り立てたり奇を衒ったりすることころがなく、むしろ通俗的で既視感もところどころに感ずるくらいだから読みやすいということもその理由だ。
(僕はこの作家の本を読んだのは初めてだったが、人間的にも真摯で誠実な人ではないか、などと思いながら好感をもって読み進んだ。)

最後まで読み終えて思うに、なかなか良くできている。
これだけ長い(文庫約450p)と、どこかつじつまの合わない部分や不自然なご都合主義が顔をのぞかせてもおかしくないが、およそ感ずることはなかった(後述する一点を除いて)。
むしろ、すべての前振りや伏線、配置した小道具は、最後にキレイに整理・回収されるのだ。
中盤に登場する何気ないマルメロの木のエピソードなど、読み手の方ではすっかり忘れているのに、きちんと始末がついて、しかも少し感動的でさえあるのだから見事だ。

ただ、問題はある。
重箱の隅までもほじくってクリアにしてしまう、あまりに見事な整合性と説明ぶりに、読後に浸る余韻がないのだ。本を閉じてしまった時点でこの本から広がっていた世界も閉じてしまうのが残念だ。

タイトルは陳腐な「恋」であるが、確かにここではエキセントリックであるがゆえに純度の高い「恋」が描かれている。読者がしばし反芻しながらこの「恋」に思いを巡らす余韻が欲しいのだが、あれこれ全部説明されてしまってはもう本を措くしかないではないか。

この点については、文庫本解説の阿刀田高も同じようなことを指摘している。我が意を得たりだ。

もう一点、阿刀田は指摘をしている。
決して明かさないと約束した秘密の物語を、結局、この本という形で明かしているのがおかしいから、文庫化に当っては辻褄が合うように布美子の言葉を書き足して欲しい、と書いている。
しかし、作者はそうはしなかった。その理由を作者は「文庫版あとがきに代えて」で書いているが、まあ、そんなところで良いのではないかと思う。
そこを問題とするなら、そもそも、この緻密に設計された小説の唯一かつ致命的な欠点は、「秘密」が布美子の口から「語られてしまった」というところにあるのであって、あとはどう繕おうとも本質的な解決にはならないのだ。
冥途まで抱えてゆくべき「秘密」を彼女をして語らせたという構成にいわば躓きがある。
彼女の死後、鳥飼が取材と推理で構成する物語にすればそこもきれいにクリアできたろう。
しかし、もしそのように書いたとしたら、本作のような身悶えする官能の悦楽も責め苦や葛藤も味気ないものになっていたと思えるのが悩ましいところだ。

----------1995年第114回直木賞受賞作

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2013年03月01日

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