【感想・ネタバレ】石原吉郎セレクションのレビュー

あらすじ

戦争体験を取り上げた作家・詩人は数多い.石原吉郎は,シベリアのラーゲリで不信と連帯,密告と報復,死者と生者の交錯する極限を生きた.その体験を自己への凝視,告発と断念,絶望と祈り,沈黙と発語の拮抗する内面における,硬質にして静謐なる言葉で表現した.石原吉郎の散文を精選して,その文業の核心をテーマごとにまとめる.

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Posted by ブクログ

ネタバレ

満州でソビエトのスターリン下で捕虜と強制労働を1953年まで結局8年間抑留される。その捕虜生活のエッセイとまた詩が掲載されている。詩よりもエッセイの方が読みごたえがある。歴史の本として薦められた。

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2025年02月06日

Posted by ブクログ

石原吉郎氏は、第二次世界大戦終戦直後にソ連に捕らえられ、囚人として壮絶な数年間を過ごした方だ。彼の経験の中でも特筆すべきは、「失語」という現象だと思う。言語化することをやめることで、様々な現象を認知しなくなり、それによって身体が生き延びるというプロセスと理解した。その間は、実は苦痛はやり過ごされている。逆に、言葉を取り戻していくプロセスこそが、経験した苦痛を感じる段階なのだとこの本では述べられている。また、「告発の姿勢」と「被害者意識」からの離脱が、石原氏を混迷の外へと導き出す一歩となった、というのが非常に印象的だった。

自分はこれほどまでの過酷な経験をしたことは一切ない。多くの人はこのような経験をしない。だから理解したくても理解しきれない記述は多かった。その理解し得ない感覚の片鱗を見せてくれる石原氏の記述はは非常に貴重だと思う。

以下、本文からの抜粋(自分がメモとしてとっておきたい箇所。完全に自分用。ネタバレです)

苦痛そのものより、苦痛の記憶を取りもどして行く過程の方が、はるかに重く苦しいことを知る人は意外にすくない。欠落したものをはっきり承認し、納得する以外には、この過程をのりこえるどのような手段ものこされてはいなかったのである。(p. 48)

単独者にいやおうなしに対置されるものは集団であり、その集団のなかの一人が集団を否定するというかたちで、単独者の位置を獲得する。(p. 54)

ことばは結局は、ただ一人の存在である自分自身を確認するただ一つの手段である (p. 69)

ものの価値は、それがうしなわれてみて、はじめてわかる、うしなうということは、いうまでもなく不幸なことです。しかし、その不幸なことによってしか、私たちは、ものごとの存在の重みを知ることができないのです。

私たしはすでに、多くの神に裏切られており、その裏切られ方への私たちの側からの対応の姿こそ、私たちの信仰の位相を決定すると思うからである。なぜなら、神そのものが人間にとって断念であり、断念においてこそ、旧約の神は、私たちに明確に存在するからである。(p. 218)

僕らは、僕らの生をけわしくのぼりつめて行く所で、理不尽に死に出会うのだ。僕らは兇器をにぎったままたおれる。(p. 251)

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2020年07月18日

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